20240605
あなたの後ろ姿を見送りながら、私は一つの「賭け」をしました。
・もしあなたが振り向いたら、引き留めてカフェにお誘いする。
・もしあなたが振り向かなかったら、着歴を消して何事もなかったように、普通の日常に戻る。
……あと数歩で、曲がり角……
山葉さ〜ん! お願い〜! 振り向いて〜!
あなたは
……振り向きませんでした。
まあ……当たり前ですよね。
雑誌占いなんか信じて妄想が膨らみ過ぎてしまっただけで、そもそもあなたには、既に彼女が居たかも知れないし、もしかしたら奥様やお子さんまで居たかも知れない。
何か勝手に期待してドキドキしていた自分がバカみたいで居たたまれず、一刻も早くそこから立ち去りたい気持ちで、速足で帰りのバス停に向かいました。
「あのぉ~! すみませぇ~~ん!」
……!?
振り返ると、駆け足で近づいて来る、あなたの姿がありました!
「……? どうされました?」
「さ、さっき渡した封筒、ちょっとお借りしてよろしいでしょうか?」
私はトートバッグから、戴いた封筒を手渡しました。
あなたは息を切らしながら封を開け、バツが悪そうに言いましたね。
「あっちゃあ~~~、申し訳ありません! やっぱり、お礼の手紙だけ入れて、報労金を入れ忘れてました!」
……私は既にお金の事など頭に無かったので「お礼の事など忘れて下さい」……お伝えしましたが、あなたは凛々しい声で「そうはいきません!」と仰り、ご自分のお財布を取り出して覗き込んでいましたね。
ところが!
「すみません!
やだぁ💢 そんな、お金を貰いたいが為にカフェで待つ……なんて、超恥ずかしいじゃん!
「あ……それは私の方が恥ずかしいので遠慮します」
さっきまで心臓がバクバクして、盛り上がりまくっていた気持ちが、みるみるしぼんでいくのを感じました。
作り笑顔で「本当に、お気になさらないで下さい! 何より、お忘れ物が戻って本当に良かったです。 では、これで失礼します」と言って頭を下げ、回れ右して歩き出しました。
さよなら……私の小さな期待……。
……ここ数日の不眠もあり、一刻も早く家に帰ってベッドに入りたかったのです。
「あら〜〜!」
「ウワォ!」
「おお〜〜〜!」
……!?
何? 何?
「山葉さん!」
「ミスタ〜・ヤマ〜ハ!」
「カワイさん! ローランド!」
え〜!?
『ヤマハ』に『カワイ』に『ローランド!?』
何? その生ライブみたいな名前!?
思わず振り返ると、そこには、あなたと、とても可愛らしい小柄な女性と、絵に描いたような背の高い外人さんが正三角形の位置で向かい合って立っていたのです。
(続きます)
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