塔の中と外

 続いては、塔の中と外について考えていきたいと思います。

 ネタバレ大盛り。よろしくお願いいたします。


 まずは、ざっくり中と外の比較を行っていきます。


 「塔の外」は現実です。

 戦争中で、母親は火事で亡くなり、疎開した母の故郷には米すらありません。転校した学校ではいじめに合い、父親の再婚相手(母親の実妹)はよくしてくれますが、身重で複雑な家庭環境にあります。


 一方「塔の中」は理想の世界と言えます。

 入ってすぐは、死んでいる者が多い海に出ますが、温かいスープや、ジャムたっぷりのパンなど美味しい食べ物が沢山出てきます。

 すべての四季があり、南国の花、たわわに実った果実、夜の空間には満天の星と、美しい景色が広がり夢のような世界です。

 また、アオサギの話を信じるのであれば、母親が生きているかもしれません。


 眞人にとって、母親の死は2年経っても悪夢に見るほどのトラウマです。

 確証は無いとは言え、母親の生存を匂わせる塔の中は眞人にとって希望と言えると思います。

 夏子を助けるためとは言え、躊躇なく塔の中へ踏み入れた眞人は、否定しつつもアオサギの言葉を信じたい気持ちがあったのだと思います。



 塔の中について考えていきます。


 眞人が最初にたどり着いた「海」と呼ばれる場所は、三途の川のような場所だと予想します。

 理由は主に3つです。


 一つ目は、キリコが「死んでいる者の方が多い」と言っていたことです。

 多い、といういい方から、生者と死者が同時に存在する場所だと考えられます。恐らく船を漕いでいた黒い人影が死者でしょう。

 生者はペリカンやキリコ本人だと思われます。


 二つ目は、わらわらの存在です。

 わらわらは生まれる前の存在です。キリコの家がある巨大な船に住んでおり、熟すと上へと飛んでいきます。(蛇足ですが、わらわらはめっちゃかわいいです。筆者はスクイーズのグッズ化希望です!公式さん!)

 キリコの発言から、上とは現実世界であり、海は下、つまりあの世であると考えられます。


 三つ目は、海の向こうに大量の船が並んでいたことです。戦争で負けた海軍の船だと思われます。戦闘機の工場を運営している眞人の父親が、海軍のやつらが~と言っていたこととも辻褄が合います。

 戦いによって沈んだ船は死者を乗せ、この海へと流れつくのではないでしょうか。

 メタ読みではありますが、自分は船のシーンを見た時、紅の豚の飛行機の隊列を思い出しました。

 船のシーンは飛行機の隊列と同じく、死者の空気を漂わせているように感じました。


 海はあの世とこの世の境、つまり三途の川のような存在ということです。


 長くなりそうなので今日はここまで。

 明日は、この海に住むキリコを始め、塔の中の住人について考えていきたいと思います。


   >>>next 塔の中の住人

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