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 彼女の読み進める手が、はたりと止まった。


 もう八月も残り二週間である。宿題が終わらないのか、このところ彼女はノートに向かってばかりいる。この停滞を喜んでいいのだろうか。


 それが良いニュースだとして、悪いニュースも必然なのか、ある。

 明日から三十一日まで、教員研修の出張が入ってしまった。夏休み前は、出張はほぼ無くなったと聞いていたのに。働き方改革とはなんだったのだろうか。


 私が出張で不在だとして、彼女はいつものように学校へ来るのだろうか。来るだろう。自分が、まるで彼女が休みの間も学校に来る理由が私であるかのような思考をしている事に驚く。潜在意識ではまだ彼女の未練を捨てきれていないのかもしれない。


 一応、しばらく不在になることを彼女に伝えなければいけない。

 まだ明るい八月の夕方、彼女は帰りの支度をしている。伝えるなら今だろう。


「花見さん」


「はい」


 彼女は聞き間違えだろうかと周りを見渡したが、私の視線に気づくと小さな声で返事を返してくれた。

 実に一か月ぶりのコミュニケーションである。


「明日から三十一日まで私は出張でいないのだけど、教室は空いてるから、自由に使ってね」


「.....わかりました。さようなら」

 彼女は一瞬目を伏せて、そのまま帰ってしまった。













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