第6話 代わりに

「バイト、お疲れ」


「ありがとうございます」


「今日はきつかったな、まさかあんなにものを詰め込んでたとは」


「ええ。所構わずごみがあって分別が大変でした」


「君は仕事が完璧だしよくやってるよ。そういえばバイトを始めて半年だったか」


「はい」


「何か奢ろうか? コンビニで買えるものだけだけど」


「いいんですか?」


「ん、構わん。好きなのを選べ」


「やったぁ。俺、甘いもの好きなんですよね」




「甘くて美味い! ありがとうございます橋本さん」


「いいって事よ。俺もちょうど喉が渇いていたところだ」


「あーずっとこんな風にのんびりしていたいなぁ」


「そうは言っても仕事をしなきゃこの時間はないからな」


「・・・最近思ったんですけど」


「ん? 何か悩み事か?」


「いや、夢や目標を持っていたはずなのに、現実を生きる中でぼやけていくみたいな・・・なんというか、このままでいいのかなって思っちゃって」


「それは、そうかもな。俺も掃除屋なんてしてるけど、ほんとはフィットネスジム作りたかったし」


「フィットネスジム!? 今の橋本さんじゃ想像できない夢ですね」


「あー耳が痛いよ。でも割と叶いそうだったんだぜ? コツコツ貯金して企業までしたんだ」


「じゃあ、どうしてやめちゃったんですか」


「需要と供給の無さかな。人が集まらなくて、すぐ資金がなくなったんだ」


「それは・・・きついですね」


「ああ、マジできつかった。だが、そのために努力したおかげで今の仕事が出来てるし、いい挫折だったと思ってる」


「羨ましいな。橋本さんは前向きで」


「お前だって頑張ってるだろ。今日もボランティアしてきたんだろ?」


「ええ、そうですけど・・・いろんな人を助けたいって目標がそれと繋がっているのか、そもそも俺は人を助けたかったのか忘れちゃって」


「ほう、なら聞くけど、いろんな人ってどんな人なん?」


「それは、困ってる人ですよ」


「困ってる人は何に困ってんの?」


「そりゃあ色々ですよ。悩みは多種多様にあるんだし」


「じゃあお前は何を助けられると思う?」


「・・・」


「そこじゃないか? お前の忘れてる所」


「なるほど、今何ができるかを考えていないって事ですか」


「全部言うなよ。・・・まあそういう事だけど」


「そっか・・・そうだったんだ。ありがとうございます橋本さん」


「いいよ別に、俺は何もしてないし」


「謙遜しなくていいですよ、あなたのおかげです」


「いいって、ほら帰るぞ」

「はい!」




「おはようございます。橋本さん」


「おお、お前か。今日は早かったな学校休みか?」


「いえ、掃除の仕事をしてきたばかりです」

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夏の小話 ラムサレム @age_pan0141

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