第4話 薄くて甘い

「ねえ後輩くん」


「はい、なんですか?」


「今度発表する論文の資料、書くの手伝ってくれない?」


「僕もう帰るんですけど」


「いいから」


「・・・はい」





「そういえば渡辺先輩とかは居ないんですか?」


「やっちゃん達は遊びに行ったよ。みんなパパッと終わらせちゃってさ」


「一緒に行かなかったんですね」


「まあ彼氏いるしね」


「単位は大丈夫なんですか」


「・・・これが終われば大丈夫だよ」


「・・・・・・」


「あっ今すごい不機嫌な顔してる」


「呆れた顔してるんですよ」


「えへへ、ゴメンね付き合わせちゃって」


「別にいいですよ。いつもの事ですし」


「でも、近くにいたのが君でよかった」


「よく知らない人だったら話題に困りますもんね。先輩って」


「君みたいにすぐ人と仲良くなれる訳じゃないんですー」


「仲良くはなってないですよ。話を合わせてるだけで」


「それが出来るから凄いんじゃん。私なんて話題についてくのも無理だし」


「無理なら、諦めて聴きに徹した方が上手く切り抜けられますよ。知らないなら今知ればいいんです」


「聞き上手になるって事? 参考にするね」


「はい。あ、一応終わったんですけど確認してもらって良いですか?」


「おっけ。どれどれー」


「・・・先輩かみ」


「かみ?」


「切ったんですね」


「あ、ああ髪? うん、彼氏が短いのもいいんじゃないかって言ったから。今気付いたの?」


「まさか、タイミングが無かっただけです」


「ふーん、じゃあどう? 似合う?」


「まあ似合いますけど、長い時も良かったなって今思いますけどね」


「・・邪魔じゃないの?」


「それが良いんじゃないですか」


「・・・・・ふーん、そ」






「おーわった!」


「お疲れ様です。はいどーぞ」


「ありがとー、やー今日中に終わって良かった」


「今日終わらないと留年でしたっけ、危ないなぁ」


「終わりよければすべてよし。ってやつだよ」


「僕は準備万端にするから分かんないですけど、焦ったりとかしないんです?」


「しないねーむしろ清々しい気分でやってるとこあるね。なんか、ダメでもまあいっかって思ってる」


「今回はまあいっかでは終われませんけどね」


「だから手伝わせてるんじゃん」


「それはそうですね」


「てかうちのサークル私みたいなのいっぱいいるはずなのに、なんでこういう時だけすぐ終わるの? おかしくない?」


「皆さん一昨日くらいに必死こいてやってましたよ」


「え、マジ!? なんで呼んでくれなかったの!」


「先輩一昨日なにしてました?」


「あー・・・彼氏とサイゼ」


「メッセにも来なかったじゃないですか」


「違うの! ちょっとツムツムやってたせいで電池切れただけなの!」


「遊び呆けてるじゃないですか。自業自得ってやつですよ」


「ぐぬぅ・・・えーちゃんに告れないくせに生意気だなー」


「っそれとこれとは話が別ですよ!」


「別じゃあないよ。一昨日論文手伝ったんでしょ。写真で見たし」


「・・・・・・」


「で、どうすんの? 明日のサークルしかないと思うけど」


「・・・やってみますよ」


「うん、じゃあ明日はえーちゃん以外の人皆で遊んでくるね」


「ありがとうございます」


「後で教えてね」


「はい、その時は」


「うん、今日はありがとね」


「こちらこそ」


「じゃあ俺帰りますね」


「あっちょっと待って」


「はい?」


「これ、持ってって」


「何ですかこれ」


「今日手伝ってくれたお礼に」


「・・・ありがとうございます」







「先輩、おはようございます」


「おはよ」


「昨日もらった青い朝顔のファイル、ちゃんとしまっておきました」


「それなら良かった」


「・・・どうしたんですか?」


「髭、剃ったんだね」


「ああ、やっぱり清潔感あった方がいいかなって。若くも見えるでしょ」


「・・・うん、見える。でも私はあった方が良かったかなぁ、今思ったけど」


「・・痛くないんですか?」


「それが良いんじゃない」


「・・ふぅん。そっか」

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