第2話 一緒の時

 放課後、教師と生徒が教卓を挟んで話していた。


「先生もうすぐ夏休みだよ。どっか遊びに行こ」


「いいぞ。部活の引率なら」


「そういう事じゃなくてさー二人だけで行きたいの」


「村上お前なぁ、何度も言ってるだろ先生をからかうなって。そもそもお前は補修があるから夏休みはもう少し先になるぞ」


「先生も何度も補修って言わないでよ。耳がタコになっちゃう」


「耳に胼胝ができる、な」


「もお、ていうか私からかってないし。本気だし!」


「へえー本気ねぇ」


「うん!」


「じゃあ補修のテスト、全部一発で合格したら考えてあげるよ」


「えっほんと!? マジのマジ?」


「ホントホント。まあ合格点高めだし、村上は真面目に頑張らないと難しいけどな」


「大丈夫、絶対合格する。私地頭いい方だから」


「ああ、頑張れよ。でもなぁ、高校二年の夏休みは貴重だからもっと有意義に使った方がいいぞ?」


「有意義って例えば何なの」


「それは、うーん。ほら、友達とユニバとか、家族と旅行とかさ」


「全部先生とできるじゃん」


「俺以外と行った方が良いって事だ。来年は皆勉強詰めになるんだから、今年遊ばないといい思い出できないぞ?」


「・・・先生と一緒なのがいい思い出にならないって言いたいの?」


「そうは言わないけどな、斎藤達と一緒にいる時間は高校の間だけかもしれないだろ? そういうのを大事にした方が良いと思うんだよ俺は」


「もちろんあゆ達も大事だし、ずっと友達でいたいと思うけど、それと同じ位私は先生と一緒にいたいよ?」


「・・・分かった。村上の好きにしなさい。補修一発合格ならね」


「りょーかい! 期待しながら待っててね。先生」


 生徒は補修のテストを一発で合格した。約束通り、教師と生徒は色々な所へ遊びに行った。そして夏休みのある日。辺りは暗くなり、人通りの少ない橋の上で生徒が足を止めた。


「どうした村上。足痛いのか?」


「違うよ、先生。私、先生に言わなきゃいけないことがあって」


「ああ、聞こう。言ってみなさい」


「先生は覚えてないかもだけど、一年の時私が文化祭で取り返しのつかないミスしちゃってさ、クラスの皆に嫌われそうになった時、先生が全力で助けてくれたよね。あの後から私先生に好き好きって冗談で言ってたけど、さ。なんか、その、冗談じゃなくなったっぽくてさ、だから、ちゃんと言うね。

 私、先生の事が好きです。付き合って、ください」


「・・・・・・俺は教師だから、今の村上とは付き合うことはできない」


「・・・そうなんだ」


「でも、来年俺はちょうど大学院を受験する」


「えっ?」


「俺が赴任した時言っただろ? 何年かしたらこの学校辞めるって」


「それって定年とか別の学校行くとかじゃないの・・・?」


「ああ。元々研究方面へ行くつもりだったんだけど、行きたい大学落ちちゃって。ちょうど持ってた教師免許で就職しただけなんだ」


「・・・なに、それ。分かるわけないじゃん」


「そうか? 割と直球だと思ったんだけど・・・じゃあ今度はちゃんと言うよ。村上が良ければ、一緒に大学へ行かないか」


「うん。絶対行く! だから待っててね、先生!」


「ああ、待ってる」


 高校二年目の夏が過ぎ、教師と生徒は一年後、同じ大学へ入ることができたのだった。

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