夏の小話
ラムサレム
第1話 冷えた夏の日
残暑の夜。二人の男が河川敷で座っていた。
「ったくあの先公うぜぇなぁ、俺の事舐めやがって」
「へぇ~どんなこと言われたんだ?」
「いや物理的に」
「物理的に!?」
「ああ、頬のとこベロってな」
「うぜぇよりもきめぇなその先公。誰よ」
「キモ崎。物理の」
「あのキモ崎かよ、最悪だな。そういやアイツ、昔痴漢で捕まったって聞いたことあ
るぜ」
「マジで? えぐすぎんだろそれ」
「でな、高校前から神社前の間らしくてさ、俺そこ通学路なんよ」
「こわぁ、あんなのと一緒に通学とか嫌すぎる」
「てかなんで舐められたんだ? 女子にしかやらなそうだろアイツ」
「いやさ、キモ崎の説教長すぎて眠ちまってさ、アイツがキレて俺殴られてさ」
「そこまではいつも通りじゃん」
「うるせ、それでイラついたから俺も腹に殴り返したら、アイツ舌出したまま気絶してよ、倒れた時にベロって」
「ヤバすぎ、俺の話より怖えなそれ」
「いやほんと最悪すぎる。まだくっせぇもん嗅ぐ?」
「無理無理無理、それ嗅いだら俺が気絶する」
そう言われるとやりたくなるのが男子高校生の性なもので、二人の男の追いかけっこが勃発した。
しばらくして、堤防の階段にジュースを飲んで座る二人がいた。
「なあ、怖い話しようぜ」
「急だな、なんで?」
「いやさ、お前と夏休み始めから一緒なのに一回もこういう話してないからさ、俺もとっておきあるし」
「へぇ~聞かせなよ」
「よっしゃ、いいか? 行くぞ? これは最近の話なんだけどさ、俺が部屋でグダグダしてたんだよ。そしたら急にトイレに行きたくなってさ、でもその直前に怪談話の動画見ててちょっとビビっちまって、電気も付けずに階段走り抜けて行こうとしたら足が何かに引っ張られて転げ落ちたんだよ──」
「えっマジで? 何の霊だったんだそれ怖すぎ」
「・・・バナナ」
「えっ?」
「よく見たらバナナの皮だった」
「いやそれ怖い話ってか痛い話じゃん」
「怖いだろ! あんなとこにバナナ置いてあるとか、置いた記憶もねぇし」
「バナナ放り投げたりしただろゴミ箱まで持ってくの面倒で」
「・・・あーやったかもしれん」
「ほれ見ろ。お前の話しょーもないから次の話気軽に言えるわ」
「言うじゃねぇか。聞かせてみろよ」
「じゃあ──ある男がいた。男はやんちゃでどんなことにも突っかかる問題児だった。そんな男は夏休みに入ってから、新しい友達が出来た。友達は毎日都合よく一緒に遊べて、どこにいても近くにいた。それは親友と言えるほど気の許せる関係になった。
だが夏休み最後の日、河川敷で二人が遊んでいると、突然その友達は姿を消した。家や学校、どこに行っても友達は見つからない。本当に友達がいたのかも、今はもう分からない・・・」
「へ、へえー結構いいじゃん」
「だろ? このやんちゃな問題児とかお前そっくりで面白いよな」
「んなわけねーだろ。俺はやんちゃはしてるが問題は起こしてねーし」
「ついさっきキモ崎殴った奴が言ってんじゃねーよっ」
「痛っ! おいジュース投げんなよなっ」
「おわっあぶねーな、どの口が言ってんだマジで。自分の奴取って来いよ。俺知らねーから」
「しゃーねーなぁ・・・なあ、今日の飯どうする?」
「あー、あそこ行こうぜつけ麺の」
「またあそこ? お前好きだよなそこのみそつけ麺。暗くなる前に食おうぜ、また親父に怒られ──」
男が振り返ったとき、そこに友達の姿はなかった。堤防の上にも、つけ麺の店にもその友達は居なかった。学校初め、男は友達のいるクラスへ行ってみたが、そこに友達の姿かたちも存在しなかった。
あいつは一体何だったのか、月日は流れ、教師になった男は夏の黄昏時の空を見るといつもそう考えているのだった。
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