第35話

 ダンジョン事業部の部会。ダンジョン事業部にぶら下がる各課のメンバーが勢揃いしているためオフィスで一番大きい会議室でもギュウギュウ詰めで空調の効きが悪く感じるほどだ。


 目視で百人は優に超えている。どの課も人を増やしているそうなので知らない顔もかなり増えているみたいだ。


「それじゃ、深層課のSSランク認定を受けた皆さん、前に出てきてくれるかな」


 会を仕切る坂本部長がそう言って深層課の面々を前に呼び出す。斯波さんを先頭に智山、柚谷、最上、クロワが前に並んだ。


「ニュースで見た人もいると思うけど、最近のダンジョンは危険が増してるんだよね。特に深層が酷い。だからSランクの上にSSランクっていうのを設けることになったと。で、日本で最初に認定されるのは10人って言われていたんだけど、うちから5人も認定されました! というわけで拍手〜!」


 部長の指示に従って全員が拍手を送る。俺も部下たちを祝うために手を叩く。


 隣りにいる新はどこか不満そうだ。


「どうしたんだ?」


 俺が尋ねると新は横目に俺を見てきた。


「本当は六人だったのに、って思っちゃって」


「そうだよな。新、惜しかったな」


「私はそもそも出てないですから! 介泉さんに決まってるじゃないですか」


「ま……仕方ないよ。一年で一番……いや二番目に大事な日だったからな」


 一番は保佳の誕生日だ。さすがに由佳もこれは許してくれるだろう。


「けど……智山さんが認定されるなら介泉さんだって余裕で……」


「あいつはあいつで凄いぞ。無視されてるだけだと思ってたけど本戦の動画を見たら回避のセンスが抜群だったんだよな。相手がどれだけ強くても当たらなけりゃ意味ないしな。ヘイト管理、時間稼ぎ。そう言う分野じゃ日本でトップクラスって事だよ」


「ふぅん……すごいんですねぇ……」


 派手ではないけれど智山は尖った分野でかなりの成長を見せている。もちろん他の四人もそうだが。


「ま、そんな奴らを束ねてる課長が俺なんだけどな」


 冗談めかしてそう言うと新は何かを思いついたように「あ!」と言う。


「介泉さん、動画のネタ思いついちゃいました」


「何だ?」


「SSランクの5人の紹介ですよ! 折角ですしどんどん世に発信していきましょうよ〜!」


「うーん……悪くないな。本人達がどれだけ出たがるかだろうけど」


 前向きにやってくれそうなのはクロワくらいだろうか。最上と柚谷は嫌がりそうだし、智山と斯波さんも未知数だ。


「恥ずかしいなら皆で目隠ししますか?」


「何だよその光景……」


 作業服を着て目隠しをした6人が並んでいる光景はかなりホラー寄りだろう。


「あのー……君たち雑談はいいけど聞いてる?」


 坂本部長が俺たちの方を見て前から注意してきた。


 軽く会釈をして誤魔化し、新とはチャットでのやり取りに切り替えるのだった。


 ◆


「……かちょーのためなら頑張るけど心理的な抵抗感は強い」


「動画デビュー!? いやいや! さすがにきちぃっすよ! 承認欲求モンスターの陽キャしか出来ませんって!」


「私は構いませんが……例の一件もありますしあまり表には出ないほうが良いのではないでしょうか? 別に構いませんのよ。構いませんが……」


「お、俺が出るんですか!? ネットでも『逃げ智山』って叩かれてるんで遠慮します……」


「いやぁ……こんな爺さんが出たところで見てくれる人は増えないんじゃないかねぇ?」


 SSランク認定を受けた5人を勧誘してみたが一様に塩対応を受ける。


 まぁそもそもこういう時に前に出たがるような人はうちの会社に来ずに5大ギルドや配信者をらっているだろうから、仕方ないところもあるんだろうけど。


 俺は収穫ゼロで適当な椅子を引き、新の隣に座る。


「全員嫌だってさ」


「あはは……仕方ないですね」


 新はメールの一覧をスクロールしながら苦笑いをする。


「まぁ……そうだよなぁ……俺だって仕事でやってるだけだしな」


「えぇ!? そうなんですか!? すっごい楽しんでませんか!?」


「別に楽しんではねぇよ……」


「あ……楽しいこと、できたかもしれませんよ」


 新着メールをチェックしていた新はニヤリと笑う。


「何だよ?」


「コラボのお誘いです」


 新が指差したメールのタイトルは『ダンジョン配信コラボのお打ち合わせ依頼』というかしこまったもの。


 差出人は『戸高風香』となっている。ビジネスカップル配信者である風神雷神からのコラボのお誘いのようだ。彼らもSSランク認定をされた訳だし人気は急上昇中。


「なんでこれで楽しめるんだよ……」


「現役美少女JKからのお誘いですよ!? お金払ってでも受けるしか無くないですか!?」


「まぁ……有名な配信者だしSSランクだし、受けるメリットはあるか。こっちの登録者も増えそうだし」


「そうですね。コンテンツは打ち合わせしてからですけどSSランク認定試験の裏話とか、そういうのまだ誰も出してないんでチャンスだと思いますよ」


「なるほどな……」


 楽しいかどうかは別として鉄は熱いうちに打ちたいものだ。


 CCに俺のアドレスも入っていたため打ち合わせの候補を送ると学校にいるはずの時間なのに戸高から即レスでメールが返ってきたのだった。

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