第28話
特にめぼしい相手はおらず適当に残った人達を倒して自分はさっさと1位通過。
関係者がまばらに座っている観客席に行き、新の隣に座って後続の予選の様子を眺める。
今はCブロックの予選中。うちからは智山が割り当てられているブロックだ。
Bブロックは一瞬で片がついたようだ。
木製の大鎌を持った柚谷が跳躍するたび、誰かが倒れるという暴れっぷり。最後の一人は柚谷の強さに漏らしてしまったようで、今でも壁際には小さな水溜まりが残っている。
Aブロックの四菱の奴らはあまり強くなかったが、いるところには逸材はいるらしい。あんな優秀な人をこき使って辞めさせるなんて勿体ないことをしたなぁと思いながら次の試合の開始を待つ。
一試合は10分もかからないのだがとにかく待ち時間が長い。それを含めると一試合30分はかかるので後に時間はこれが続く計算になる。
暇をつぶすため、隣の新に話しかける。
「新ぃ、暇だな」
「そうですねぇ」
「恋バナでもするか、恋バナ」
「うわぁ……介泉さんが言うとバナナみたいですよ」
「誰がゴリラだよ! でもさぁ、最近妙に智山と仲良くないか?」
新は目を細めて「ふーん」と言う。
「そういうことかぁ……最近やけに仕事が被ると思ってたんですよね。介泉さんの仕業でしたか!」
俺はニヤリと笑って肯定も否定もしない。
「年も近いし、仕事の事も知ってて頼れる先輩だろ?」
新もニヤリと笑って答えるのみ。「『頼れる』以外はそうですね」とでも言いたげな顔だ。
新はそこから頬を赤くしてもじもじしながら俺の方を横目で見てくる。
「けど……私は自分より強い人が好きですかね」
「智山と斯波さんがSランクだな」
「うっ……中間管理職くらいの立場でぇ……たまーに口は悪いけど無茶ぶりにも答えてくれて、なんだかんだで頼りになって、目隠しをしても戦えて、意外と味音痴で、子煩悩で奥さんのことも大好きな人が気になりますかね」
「え、えらく具体的だな……」
そんなのが当てはまる人は一人しかいないんだが。
「えー! 恋バナしようって振ってきたのは介泉さんなのにそうやってはぐらかすんですかー!?」
「はぐらかすってか……別に俺は……」
新は悩みあぐねた様子で眉間にシワを寄せる。
「ま、難しいですよねぇ。新入社員の部下に手を出したなんて。それでなくても寡男で子持ち。娘さんへの影響もある。乗り越えるべき課題は盛々の盛りだくさんですよ……おっ! 智山さーん! 頑張れー!」
どう返していたものかと思ったが、新は自己解決したようにいつもの明るさを取り戻し、生き残りをかけて戦う智山に声援を送る。
智山は開始直後に気合を入れて隣の人へ向かっていったが、その人はまた別の人を狙ってしまい手持ち無沙汰になっているようだ。
19人で潰し合いが起こり、それを呆然とした様子で眺める智山。まさかあいつここでも舐められて相手にされてないのか?
気づくと19人の団子で生き残ったのは3人。つまり智山は本戦出場だ。そんな生存戦略ありかよ!? と突っ込みたくなるが勝ちは勝ち。SSランク認定の趣旨に照らすとどうかと言うところもあるがルールなのだから。
一応、残った三人とは戦って武器をはじき飛ばされて4位は確定。
「うわぁ……智山さん、一度も攻撃せずに4位滑り込みですよ……」
「あれはあれで格好良いだろ。勝つために手段を選ばないってことだからな」
「本人が狙ってそうしたならいいですけど、単に舐められていただけのような……」
「それは言うなよ……」
結果が出たのでまた椅子に座って待機だ。
丁度柚谷が控室から移動して俺達のところへとやってきた。
柚谷は「……おつかれ」と呟いて俺の隣に座る。
「頑張ったな、柚谷。四菱のやつらはボコしといたぞ」
「……ありがと。かちょー、私頑張った」
「だから今言ったろ……」
「……ご褒美頂戴」
「飯でも奢るか?」
「……頭を撫でること」
「一般的にはそれはセクハラなんだわ」
「……やられる私が不快な気分にならないからセクハラには当たらない」
「無理矢理させるのもセクハラだからな!? 男から女に対してだけがセクハラと思うなよ!?」
「……業務命令」
「なんで部下が上司に……はぁ、分かったよ。頑張ったな。本戦も良い結果にしような」
渋々柚谷の頭に手を載せる。柚谷は満足そうに「……満足」と呟いた。
「むぅ……介泉さーん、私も撮影頑張ってますよねぇ?」
「そうだな。だからボーナスの査定に反映しとくよ」
「お金じゃないんですよー!」
新は上目遣いで俺を見ながら自分の頭部を指差す。
「つむじ自慢か?」
新の頭部を覗き込みながらそう言うと新は頬を膨らませた。
「むー! ちがっ……ふにゃっ!」
不意打ちで頭を撫でると新は変な声を出す。だが頭を抑えながら立ち上がると「うおお!」と気合の入った声をあげた。
「うおお! まだまだ頑張りますよおおお! 機材チェック行ってきます!」
新は円形闘技場のあちこちに配置したカメラの様子を確認するため走って去っていく。
「……賑やかな人」
「そうだな」
柚谷の感想がぴったり。本当に賑やかでうるさい。それだけのはずなのに妙に背中をじっと追いかけてしまうようになっていたのだった。
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