第27話
ダンジョンの上層に建設された訓練場にはSSランク認定試験のため100人を超えるSランク探索者が集まっていた。
古代ローマのコロッセオをモチーフにしているのか、円形状の闘技場を囲うようにアリーナ席まで設けられている。
各ギルドから20人は出している計算だ。倍率にして10倍以上という事であればSSランク認定にも箔がつく事だろう。
DNKからは柚谷、クロワ、最上、斯波さん、俺、そして直前にSランクへ昇格した智山も滑り込みでエントリー出来た。
「みなさーん! 頑張ってくださいね! しっかりと雄姿は撮影しておきますから!」
新は惜しいところまでいったのだが辛くもAランクに留まる事になり不参加。代わりに他部署の同期を動員して全ブロックの動画撮影をするという気合の入りようだ。
それとは別にダンジョン管理局の公式配信もあるそうなので世間的には注目度が高いらしい。
会場の一角には四菱ギルドの戸沢を中心としたグループがあり、チラっと俺達の方を見るとにやりと笑って自分達の会話へと戻って行く。
相変わらずいけ好かない態度に顔が歪む。
「柚谷、あいつと当たるのか?」
「……当たらない。かちょーのブロックだったよ」
「そりゃ残念だったな。俺に任せとけよ」
「……本選に期待」
SSランクの認定試験は予選と本戦の2段階で実施される。人数が多いため、予選を6ブロックに分割し、それぞれのブロックで代表を4人選出する。
本戦は合計24人で戦い、最終的にSSランクは勝ち残った10人を選出するという流れに決まったらしい。
そもそもこんな大規模な大会を催す事も聞いていなかったのでダンジョン管理局の中でもSSランク認定について右往左往しているんだろうと思う。
「うちは参加人数が少ないから綺麗にばらけましたねぇ」
リーグ表を見ながら智山が呟く。
Aブロック:介泉保
Bブロック:柚谷天羽
Cブロック:
Dブロック:
Eブロック:斯波楼穂
Fブロック:クロワ・ラルニュ
よくもまぁ綺麗に別れてくれたもんだ。
他のギルドからも精鋭が来ているようだし、俺達の内せめて半分は本選に残れたらいい方だろう。
「あれ? 課長さんですか?」
横から聞き覚えのある声が聞こえる。声のした方を向くと以前痴話喧嘩でダンジョンの設備を無茶苦茶にしてくれたインフルエンサーの『風神雷神』の二人がいた。
「お前ら……戸高と雷河だったか。何でここに? フリーでやってるんじゃないのか?」
「そうなんですけど、角紅からお誘いを受けまして。折角なので出てみようかなって」
戸高が爽やかな笑みと共に答える。人手が足りないところは頭数を揃えるため手当たり次第にかき集めているらしい。
「よろしくっす! 俺達はDブロックでした!」
「うへぇ……こんなリア充を相手にするんすか……私には眩しすぎますよ……」
雷河の質問に対し、Dブロックで参加する最上がどこから取り出したのかサングラスをつけて項垂れる。
「そういえば……お前らって話し方似てるな」
「そっすか?」
「そっすか?」
雷河と最上が同時に答える。
「似てないっすよね?」
「えぇ、似てないっすよ」
二人がそう思うなら良いんだけど。
苦笑いをこぼしながらあたりを見渡す。会場の隅の方では国友ギルドの集団らしき人達が固まっていた。
その更に端の方にいるのは前にダンジョンでクロワを仇だと罵っていた大浦だろう。じっとクロワの方に視線を向けている。
一部は好ましくないものではあるが、随分とあっちこっちのブロックで知り合いを見かけるくらいには増えてしまったようだ。これも配信を始めた事の影響なのかもしれない。
『皆様、Aブロックから順に予選を開始いたしますのでお集まりください』
ダンジョン管理局の担当者の合図でぞろぞろと人が移動し始める。俺達も所定の場所へ移動を開始する。
「あ! 介泉さん! これ、忘れてますよ」
新が控室に向かう俺に追いついてきて、アイマスクを渡してきた。
「いやぁ……今日はつけない方が良くないか? 他の人に失礼だろ。舐めプしてるって思われかねないしな」
「世間が何を求めているか、分かりますか?」
新は『民意』という文字をおでこに浮かび上がらせる勢いでそう言いきる。
「炎上はごめんだ。ま、一応預かっとくよ」
俺は受け取ったアイマスクをポケットにしまう。
「はい! それじゃ、頑張ってくださいね。それ、お守りも兼ねてますから。昨日神社に持っていって祈祷もしてもらったんです!」
「気が利くな。ありがとよ」
「その……課長だけですからね」
新は気味悪くモジモジとしながらそう言う。
「んだよ。他のやつの分もやってやれよな」
「あ……今月金欠なんで一番角度が高い人だけにしてもらったんです! だから課長だけなんですよ!」
「なんだよそれ……」
呆れて笑うと、新もニシシと笑って観客席の方へと向かっていく。
さすがにアイマスクをつける訳にはいかないな、と思いながら俺は作業服のまま直前のストレッチを開始するのだった。
◆
予選は20人強グループでのサバイバル。最後の4人まで生き残ればOKというルールらしい。
円形闘技場の外周に等間隔に並ぶと、ちょうど左隣に戸沢がきた。
「おう、課長さん。いつもの目隠しをやってくれよ!」
ちらっと反対側を見ると、どうやら俺は四菱ギルドのメンバーに挟まれる形で並んでしまったようだ。開始と同時に狙われる可能性もある。
「やりませんよ。皆さんに失礼ですから」
「そんなの誰も求めてないって! ノリ悪いなぁ!」
戸沢はそう言いながら笑う。
カチン。
この糞ガキにはもう少し他人を敬うという事を教えてやらないといけないらしい。
そうでなくても部下である柚谷が追い詰められた原因の一端を担っているやつなのだから、少し『分からせて』やってもいいだろう。
俺はポケットからお守り代わりのアイマスクを取り出して視界を覆うように取り付ける。
「戸沢さん……いや、四菱ギルドでまとめてかかってきていいですよ」
「はぁ!? マジで目隠しすんのかよ! 今の忘れんなよ!」
戸沢が挑発に乗った直後、「はじめ!」と合図があった。
「ぅおらあああああああ!」
戸沢は本当に真っすぐに俺の方へと向かってきているようだ。そのまま打ち返してやりたいが、右側からも数人が俺を目掛けてやってきている気配がする。
そもそも、俺の挑発に関係なく、真っ先に俺を集団で狙って落とすという作戦だったようだ。
それならそれで向かう手間が省けるのでありがたい。
攻撃を避けるための最小限の距離だけ前に出て、振り向きざまに回し蹴りを戸沢にお見舞いする。
「グフッ!」
その勢いを殺さず一回転して、今度は反対側からやってきている人たちをまとめて一閃。訓練用の木刀なので肉を切る感触はないが、それなりの手ごたえがあった。
四菱の5人組をまとめて撃破したところでアイマスクを外す。
戸沢はだらしなく気を失って地べたで伸びていた。
あまりの醜態にかける言葉もなく、俺は生き残るために残りの人達の方へ向かって駆け出すのだった。
◆
『課長キターーーーー!』
『え? ここでも目隠しするの?』
『なんか始まる前に話してたからその場のノリじゃね?』
『うわ。あいつら四菱か? 1VS5とか正気じゃないだろ』
『5人で固まって各個撃破した後に一人消えればそれで本選に残れるしな』
『チームプレーが凄いのは認めるけどSSランクってそういう事なのか?』
『課長を討伐出来たらその時点でSSSSSSランクだろwwww』
『それな』
『あ』
『あ』
『あ』
『あ』
『あ』
『草』
『各個撃破と言ったな。あれは嘘だ』
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