第10話
「ヤマダ! 離れるなよ!」
「はっ……はいぃ!」
新は素っ頓狂な声を出しながら俺に密着してくる。それでもカメラを俺に向け続ける精神力はあるようだ。
まずは左の通路からやってきているドレイクゾンビ。きちんとトドメを刺さないと何度も復活する厄介な敵だ。
「あ……さ、最初はどこから!?」
「左のドレイクゾンビから行くぞ」
「はいぃ!」
新を引っ張りながら左側の通路へ。
リズムの定まらないランダムな足音は、羽が退化したドレイクのゾンビ形態であるドレイクゾンビに相違ないはず。
その内の近寄っていき剣を突き立てるとなんとも言えないムニュンとした感触が剣越しに返ってくる。これでドレイクゾンビであることは確定。
抜いた剣でそのまま首をはね、地面に落ちる前に真っ二つに両断する。
ドレイクゾンビは動きがトロいので、俺が右へ左へと移動しながら戦えば対して組み合う必要もなくあっという間に全滅。グズグズに溶けた何かが地面に広がり、歩く度にピチャッと音がなる。
「っし、次はゴブリンだな」
「課長、先に解説してくださいよぉ。目隠ししてるのになんで分かったんですか?」
「あー……ゾンビみたいにフラフラ歩いてるから足音がランダムなんだよ。で、身体もぶよぶよだから剣を刺した感触で確定した感じかな。こいつらの本体は頭だから、首を切り落としても頭だけが動く。だから、頭を更に真ん中で叩き切ってやっと倒したことになるんだ」
「なるほどなるほどぉ……」
「じゃ、行くぞ」
ハイゴブリンロードらしきやつらが来ている通路の方へと向かう。
「ハイゴブリンロードはゴブリンの中でもエリート中のエリートだ。見分け方……っていうか聞き分け方だけど、普通のゴブリンより身体がでかいから声が低いんだ。後、そこまで仲間と密なコミュニケーションを取らないから滑舌が悪い。普通のゴブリンは『オッフ』だけどこいつらは『オフ』ってよく言うな」
俺の解説を補足するようにハイゴブリンロード達が「オフオフオフオフオフ――」と言い始める。
「うーん……普通のゴブリンと同じような……」
「ま、微妙に違うんだよ」
解説もそこそこにハイゴブリンロードの群れにつっこむ。
剣は一体につき一度だけ。的確に急所を突くことで苦しませずに終わらせることが信条だ。
「オフオフ!」
「オフオ――」
「オフッ」
ほらみろ。新は分からんと言っていたが、声も話し方もハイゴブリンロードそのものじゃないか。
コカトリスに備えるためにここもさっさと片付ける。
「最後のやつも終わったな」
「おふおふっ!」
新がわざとらしくゴブリンのマネをする。
「なんだ? もう一匹残ってたのか?」
「あ……あはは……」
声のした方を見て剣を構えると新が逃げるように後ずさりをするのがわかった。
「じゃあ……まぁ最後みたいなもんだな。バジリスクとコカトリス。どっちも鶏にトカゲがくっついたような見た目だな。コカトリスはバジリスクが変異したやつで、バジリスクの方がトサカが紫っぽいな」
「足音も鶏っぽいんですか?」
「そうだな。で、どっちも毒を持ってる。吐き出すブレスにも毒が含まれてるから気を抜くとパーティでも簡単にやられるんだ。けど意外と良い匂いなんだよな。油で加熱してる時のニンニクみたいな匂いがすんだよ」
「ど……どうしたらいいんですか? ブレスに毒って……」
「ま、呼吸器から入らなけりゃ大丈夫だよ。要は息を止めるんだ」
「目隠ししてるのに息まで!?」
「別にそこはリンクしないだろ……そんなわけだから今回は遠くから撮るようにしてくれ。他にモンスターは来ていないからこの部屋にいれば安全だよ」
「あ……は、はい!」
先にバジリスクの集団を片付けるため、足音が多い方へと向かう。
バジリスクも他の奴らと同じように急所を狙いたいが鶏部分の羽毛がとにかく邪魔くさい。
火属性の魔法で剣にエンチャントを付与すると、剣に火が灯り、パチパチと音を立て始めた。
「うわっ! か、課長って魔法も使えたんですか!?」
「何を今更……」
ダンジョンでは魔法を発動するための魔力が満ちている。そのためダンジョンの外では使えないが、探索者の中には魔法を主力とする人もいる。
集中を切らさないうちにバジリスクの羽毛を焼き切りながら急所をついていく。
息を止めているので分からないが、ブレスのニンニク臭と焦げた肉の匂いが相まってさぞかし旨そうな香りが漂っているんだろう。
バジリスクのバーベキューを終えて、次はコカトリス。こいつらも要領は同じだが急所の位置が違う。
タタタタ! とコカトリスに向かって駆け込み、ぶつかる直前でスライディング。体の下側にある急所を一撃で仕留める。
更に起き上がりざま、尻尾になっているヘビの頭を切り落とす。コカトリスになると尻尾も別の生き物として振る舞うので本体とは別にとどめを刺さないといけない。
サッカー選手のように何度もスライディングを繰り返していると、コカトリスもあっという間に全滅したようだ。
すぅーっと息を吸い込む。ニンニクと焼けた肉の香り。少し醤油を垂らせばここは焼肉屋だ。毒の成分が少し残っているのか、それが身体の生存本能を刺激して更に食欲をそそる。
そういえば今から昼飯か。腹減ったな、と思うと口の横からよだれが出てきてしまった。
「あぁ……旨そうな匂いだ」
「開口一番がそれですか……」
そうだった。この姿は全世界に配信されているんだった。慌てて涎を拭い、口を真一文字に締める。
「課長、じゃあ工事の準備もありますからここらで締めましょうか。最後に会社の紹介をお願いします」
「あぁ。DNKのネットワーク回線工事の時はこうやって事前に安全確保をしているわけだな。DNKの回線工事担当はダンジョン探索の実力、ITの知識、その両方が必要だが、社会インフラを担当している側面もあるからやり甲斐も大きい仕事だ。興味がある人は是非」
「深層より上の階層を担当する部署はDランクの方から受け入れてますよ! 詳しくは募集要項を確認してくださいね! それじゃ〜また配信の日程が決まったらお知らせしま〜す! チャンネル登録、高評価、お願いしますね! バイバ〜イ! ……あ! 課長も手を振ってください!」
「あ……ば……ばいばい」
「……っと! 配信終了です!」
「嘘つけ。声がまだ配信モードだぞ。終わって油断したところを流そうとしてるだろ?」
「あ……あはは……バレました? 今度こそ終わりま〜す!」
◆
『ドレイクゾンビの見た目エグすぎる』
『いやだからなんで見えてないのにドレイクゾンビ前提で進められるのよ』
『解説助かる。目隠しダンジョン探索の時に参考にするわ!』
『↑参考に出来るものじゃないんだが』
『ヤマダちゃんのおふおふ助かる』
『おふ声?』
『ヤマダちゃんとゴブリンおふおふごっこしたい』
『コカトリスが一番討伐早いんだがwww』
『旨そうな匂い?』
『え? 旨そう?』
『涎wwwwwwwwww』
『モンスターって食べられるの?』
『変態性にサイコパスみが合わさって最強に見える』
『普通にやったらどんだけ強いんだよこの課長……』
『※この変態課長は特別な訓練を受けています』
『※政府はこの階層では4人以上で戦うことを推奨しています』
『※この課長は顔出しNGの規則を守るためだけに目隠しをしています』
『最後が意味不明な縛りすぎるwwww』
『もはや舐めプの領域で草』
『真面目な自己紹介→目隠しプレイ→モンスターを焼いて美味そうという変態発言→目隠しをしたまま涎を垂らす→真面目な会社紹介。うん、何も問題ないな』
『目隠しプレイが好きで涎を垂らす変態課長』
『二回目ありますように……』
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