第6話
2日ぶりの76階層。既に腕に覚えのある探索者が何人か挑んでいるようで、人の気配とモンスターとの戦闘音が聞こえる。
「救難信号は……こっちか」
端末の案内に従って救難信号が発信された方へと向かう。
薄暗い通路を進んでいたところで、急に開けて明るい場所に出た。
円形の部屋には草が生い茂り、真ん中には一本の木がそびえている。
その木に埋め込まれるように、一人の女の子が捕らえられていた。眠っているようだがぱっと見で息はしているのが見えて一安心。
彼女を救助しようと近寄ると、ガサガサと周囲の草が揺れ、こすれて音を鳴らし始めた。
「ドリアードか……ったく……罠かよ……」
葉っぱが集まり人の形を形成してゆく。それは一人ではなく二人、三人と徐々に増えていき、気づけば俺を取り囲むように人形の木の妖精、ドリアードが10体現れた。
緑色の肌は人間らしくはないが、いずれも見た目は人間の女に似ている。恐らく捕らえた女の子を模しているんだろう。
救難信号は恐らくドリアードが機械を操作したんだろう。76階層ともなるとモンスターの知恵もそれなりだ。
とはいえドリアードとの戦ったことはなく話を聞いたことがあるだけだ。とりあえず剣を構え、様子をうかがう。
「……ネムイ」
ドリアードが木と葉を擦り合わせて声のような音を出す。
「眠い? じゃあ大人しくしてろよな」
近くにいるドリアードへ距離を詰め、首を跳ねる。更に胴体を縦に真っ二つに切り裂く。
音もなく一体のドリアードが木片となって地面に倒れた。
だがそのドリアードは春に芽吹く草のような生命力をもってすぐに復活する。
「……うぅ……」
木に捕らえられた女の子が小さく呻く。なるほど。あの子の生命力が源なのか。あまりドリアードに危害を加えると女の子の命が危ない。
俺は剣の峰でドリアードに最低限のダメージを与えて一体ずつ無力化しながら、隙を見て木の方へと寄る。
剣の柄で幹を破壊し、取り込まれかけていた女の子を木の幹から引きずり出した。
「……ん……」
女の子は寝ぼけているのか気を失っているのか、少しだけ間の抜けた声を出した。
とりあえずこれでドリアードへの生命力の供給は絶たれたはず。
態勢を整え直したドリアードと再度距離を詰め、『コア』と呼ばれる緑色に輝いている腹の部分に剣を突き立てる。
それを10回繰り返すだけで、あっという間に木屑の山が出来た。
「ふぅ……終わったか」
俺は地面に横たえていた女の子に近づき、顔を軽く叩く。金髪のショートヘアも相まって若く見える。新とそう変わらない年齢にも見えるが、ここにいるということはSランク探索者なんだろう。立派なもんだ。
「おーい! 起きろー!」
女の子は昼寝から起こされた子どのように眉間にシワを寄せて薄く目を開けた。
「……ねむ……」
声のトーンからして何かしら体が悪いわけではなく、普通に眠そうなだけに見える。もしかしてドリアードはこいつの心をトレースしていたのか?
「どこか痛むところはないか?」
「……ほっぺた」
「そりゃ俺が叩いたからだな。悪かったよ」
「……ねむ……」
「元気そうだな。立てるか?」
「……立てない」
「そうか……うーん……」
かといってここで回復を待っているのも時間が勿体ない。
「ちょっと失礼するぞ」
「……わっ」
女の子をお姫様抱っこの形で抱える。緊急事態なので仕方がない。
「歩くのとどっちがいい?」
「……やむを得ない」
女の子は流石に恥ずかしいのか顔を赤くしている。
木の生い茂ったエリアを出るとすぐに複数台のカメラが俺を向いた。どうやら戦いの音を聞きつけて人が寄ってきたようだ。
「あ……あの! 76階層に初到達したDNKの方ですよね!? 今度コラボしてもらえませんか!?」
「さっきの救助の映像、配信してたんです!」
コラボは願ったり叶ったりだが配信は困るぞ。また非公式なところで表に出た事がバレると厄介だ。
「あ……は、配信はちょっと……」
「あ、そ、そうなんですか!? すみません……アーカイブを編集しておきます」
「はい。ありがとうございます」
話が通じる人で良かった。
俺は救助した女の子を抱え、地上へと向かった。
◆
『ドリアードさん、葉っぱで肝心なところが隠れているのがエッッッッなんだ』
『ドリアードって捕らえた人の身体をトレースするって本当なのかな? つまり……』
『エッッッッ』
『じゃ、あの子、意外と乳でかいんだな』
『着痩せ?』
『鎧着てたから分からんかったけどな』
『というか普通鎧着てるんだよな。あのおっさん、いつも作業服だから感覚おかしくなってたわ』
『鎧もエンチャントされてるものだからな。あの作業服も実はすごいエンチャントが付与されてるんじゃないか?』
『アマゾンに同じ作業服売ってるぞ』
『2980円じゃねえかwwwww』
『うーん……これは防御力ゼロ!』
『DNKさんもっといい装備を支給してあげてくださいよ……』
『そんな装備で大丈夫か?』
『(予算的には)大丈夫だ、問題ない』
『大丈夫だ、問題しかない』
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