第5話

 広報部との打ち合わせ用の会議室はそのまま俺と新のDNK公式チャンネル企画会議用の会議室へとスイッチした。


「目隠し探索ぅ? 無茶言うなって」


「けど普通にやってもバズらないですよ。S級探索者の配信チャンネルなんていっぱいありますから、普通にモンスター倒したり工事してる風景を動画にしたってつまんないですって。そういうのは、インパクトのある動画を出してファンを増やしてから、サブチャンネルとかでやるべきです!」


「さすがインフルエンサー」


「元ですよ!」


「ほんで……要は何かしらの目を引くような企画というか、そういうのが要るんだな?」


「そういうことです。偶然配信で事故ってなんか最強でバズるなんて奇跡は早々起こりません。まぁ一度は起きましたけど……二度もやったら飽きられるのは確実です。ですから、どうせバズるなら戦略的にバズるべきです!」


「じゃ、それを考えといてくれ。目隠しもやれそうならやってやるよ」


「えー! 私一人で考えるんですかー!? 二人でやるって決めましたよね!?」


「いやまぁ……あんまこういう事言いたくはないんだが、おっさんにはしんどいんだわ。頭が硬くてな」


「酷い! グータッチまでしたのに!」


「グータッチ如きでそんな責任負わせるなよ……」


「うーん……やっぱり縛り系がいいと思うんですよね。何かしら縛った上で大活躍、無双するっていうのどうでしょう? 後は……うーん……正体を隠してダンジョン探索に参加して実は凄い人だった! 的な!」


 ブーブー言いながらも新からは次々とアイディアが出てくるようだ。さすが元インフルエンサー。


「ストリートピアノとかでよくあるドッキリだよな。素人だと見せかけて急に覚醒するやつ」


「それですそれです!」


「ドッキリか……例えば、目が覚めたらいきなり深層、みたいなやつはどうだ?」


 新は厳しい表情で首をひねる。


「うーん……それ、炎上しそうですね。命の危険がある深層に無防備な状態で放り込むんですよね?」


「そうか……」


 深層課のやつなら出来そうだけどな。


 しかし、いかんいかん。おっさんの頭ではこれが限界だ。


「逆ならいいかもしれませんね。目隠しをして深層に連れて行くと思わせて、Fランク用の浅い階層でオドオドしてるとか。深層で無双している人が可愛い低層階のモンスター相手に目隠しでビビりまくるとかならギャップで可愛いですし、いいと思いますよ」


「あ、俺がやるのね」


「他にいますか?」


「ま、いないか。課のメンバーには業務に集中してほしいしな」


「部下思いですねぇ。まぁ最初から人が多いととっちらかっちゃいますし。介泉さんを軸にして、人気が出てきたらサブメンバーとして課の人をたまに登場させるくらいがいいかもしれませんね。人気が出てきたらその人単体でスピンオフ、みたいな」


「だ、だいぶ先まで考えてるんだな……」


「ロードマップですよ、課長」


「じゃ直近の企画案と向こう1年のロードマップ、簡単な叩き台を作ってくれるか? それをベースに近々の配信ネタを組み立てていくか」


「はい! じゃあ――」


 話をまとめにかかったところでガタン! と会議室の扉が勢いよく開けられた。


「かっ、介泉さん! 救難信号です! 76階層!」


 隣にある『ダンジョン救急課』の人だ。ダンジョン内での怪我やインシデントが起こった時に人を派遣して救助することが仕事。


 実際は各階層のメンテナンスを担当している現場担当者に救援依頼が回ってくるので深層での担当はうちの課だ。


「今日はSランクも出勤してるだろ? ……ってあれか。76階層だからまだ課長層しか行けないのか」


 会社としては社員を危険には晒せない、という名目で最低限の安全が確認されるまでは、新しい階層には役職付きしか入れないことになっているんだった。


 76階層はまだ踏破されていないため課長クラスの俺しか行けない。部長に申請すれば他のやつを行かせられるが、時間がかかるので俺が行くほうがいいだろう。


 古めかしい企業体質なので申請周りは本当に面倒だ。


「介泉さん、早急にお願いしますよ!」


「はいはい。新、資料は頼んだぞ」


「はい! いってらっしゃーい!」


 満面の笑みの新に見送られ、俺は深層へのワープポータルへと走って向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る