第4話

 夜勤明けで1日明けて出社。DNK公式チャンネルのアーカイブは消されたものの時すでに遅し。既に謎のおっさん探索者として俺の姿は全世界に公開されてしまっていた。


 坂本部長は会社としてはむしろ好都合だと言っていたが果たしてどうだろうか。


 方針も聞かされていないので俺は出社するなり部長のデスクに向かう。


「坂本さん、おはようございます」


「おはよー。どうしたの?」


「どうしたのって……軽くないですか? 例の配信の件、あれからどうなりました?」


「あー! はいはい! あれね、広報部に引き継ぐことになったから! うんうん! 対応よろしくね!」


「対応……」


「ま、詳しいことは広報の人から聞いてよ! ね! それじゃ!」


 坂本部長はそう言って机から離れる。


 ははーん、これは面倒なことになったぞ。


「ア・タ・ラ・シさん!」


 俺は机で報告書をまとめている新に陽気な雰囲気で近づく。新は手を止めると眼鏡を外して気味悪がりながら俺の方を見てきた。


「うわぁ……介泉さん……頭でも打ちました?」


「うるせぇ。インフルエンサー、出番だぞ」


「元ですよ。もう引退しました」


「広報の仕事が回ってくるかもしれん。やりたくないか?」


「うーん……そうだ! 課長と一緒なら考えなくもないですよ?」


 新は悩んだ挙げ句にそんな提案をしてきた。


「俺がやりたくないから声をかけたんだけどな」


「ざーんねん。一人でやるか二人でやるか選んでくださーい」


「はぁ……しょうがないな……」


 ま、こいつがいれば少しは楽できるだろう。新と契約成立のグータッチをして俺は自分の席へと戻った。


 ◆


「広報部の小鳥遊です。よろしくお願いします」


 小さな6人用の会議室にて、眼鏡をかけた堅物そうな男性がペコリと頭を下げた。広報部の担当と俺と新だけの小さなミーティングだ。


「ダンジョン事業部深層課の介泉です。こっちは新人の新。二人で対応しますので」


「分かりました。早速ですが……例の動画の件を受けて会社のPR活動を前倒しで実施することになりました」


「PR活動ですか……」


「はい。昨今のダンジョン配信ブームによって会社の事業は拡大する一方。ですが危険が伴うダンジョンでの作業が出来るような優秀な人はギルドに取られてしまうんです」


「ギルド……ダンジョン探索を専門にしている企業ですか」


「そうですね。最近ではもっぱら5大ギルドが大学生の就職ランキングでも人気だとか」


「5大ギルドなぁ……」


 四菱、五井、後藤忠、国友、角紅の5つの会社はダンジョン探索者を雇い、ダンジョンの探索とそこで得られた財宝や資源の販売で儲けている。いずれも大企業で、Sランクの探索者を何人も囲っている。


 もちろん、企業に所属せず個人でダンジョン探索をする人もいる。そういう人は配信での投げ銭や得られた財宝の転売で稼いでいるらしい。


「ま、そういう訳でDNKを特に学生さんに知ってもらおうということで色々と施策を検討していた訳です。その1つとして、DNK公式チャンネルに白羽の矢が立ったと」


「なるほど……あれは元々工事後の回線品質チェックのために開設したチャンネルですよ。公式とは言ってますが名ばかりで……」


 ま、俺が作ったんだけど。良くわからないので適当に会社の住所や名前を打ち込んだら公式チャンネルになっていたが、修正するのも面倒なのでそのままにしていた。


 それでもマイナーな会社なので目立たなかったのだが、今回の件でついにバレてしまったわけだ。


「えぇ。経緯は存じています。これを機に本当に公式チャンネルに昇格してしまおうかと」


「はぁ……そうですか。IDとパスワードを連携すれば良いですか?」


 すっとぼけて広報部に押し付けられないかと遠回しに聞いてみる。


「いえ。その運営をお願いしたいんです。業務として」


 ほら来た。すっとぼけてみたが無駄だったらしい。


「運営って……何をすれば良いんですか? 会社の紹介?」


「コンテンツはお任せします。まぁ昨今のブームを見るに、深層での活動風景をVlogにするだけでも見てもらえるんじゃないですか?」


「はぁ……」


「ま、よろしくお願いしますよ。なんたってインフルエンサーがいるんですからね!」


 小鳥遊さんは言いたいことを言うと「次の会議があるので」と言って会議室から出ていく。残されたのは俺と新の二人。


「アタラシぃ……元インフルエンサーだよなぁ? ぶっちゃけこれ、伸びんの?」


 チラッと横を見る。新は顎に手を当てて考え事をしていたようだ。


「介泉さん、目隠しして深層探索ってできますか?」


 こいつ、やっぱ馬鹿なのかな。

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