【十二皿目】岩国寿司②

その頃、流星と月見里はバスで30分程走ったところにある、商店街にいた。

そこは、過疎化した商店街が多い中、他県からも訪れる客も多く、平日、休日関係なくいつも賑わっていて、全国でも有数の活気に満ち溢れる商店街である。



そこには、若者達が好きそうな流行りの小洒落た雑貨屋や、職人達が使う調理器具などを専門に扱う店など、多種多様な店が軒を連ねていて、流星も御用達の店である。

そこならば、岩国寿司に使う木枠も扱っているのではないかと、流星は考えたのだ。



昔ながらの店構えの扉を開ける。

八畳くらいはあるだろうか、客が二人くらい入ると満員になりそうな、埃っぽい狭苦しい店内だ。

商品は乱雑に扱われており、相変わらずどこに何が置いてあるのか分からない。



 しかし、中学生の流星ですら商品の質の良さを一目見て分かる程、店主の目は確かなことを、流星は知っていた。

 だからこそ、流星はずっと、この店に通い続けて来たのである。



「姉ちゃーん、いるかー?」

 大声で呼ぶと、奥からこの店の店主とは全く似つかわしくない、青みかかった黒髪に、水色の瞳、たわわな果実を持ち、煙管きせるをくゆらせた若い美女が出て来た。



「なんだい、流星かい。今忙しいから後にしてくれねぇか?」

「まぁまぁそう言わずに付き合ってくれよ。どうせ、スマホの麻雀ゲームでもしてたんだろ。で、また負けたと」



「うるさい!そもそもスマホで麻雀なんかするから、負けるんだ!字が小さすぎて、読み辛いったらありゃしない!」



 どうやら負けたことは図星らしい。

 若いのか若くないのか、良く分からない言い訳が帰って来た。

 月見里は後ろで、コロコロと笑っていた。



◇◆◇



「それで?今日はなんの用だい?」

「岩国寿司って知ってるよな?」

 二人は、店の奥に上がり、これまた昭和の赴きがある六畳間の畳の部屋で、丸いテーブルに座った。

 テーブルには三人分のお茶とお菓子が用意されている。



「当たり前だ。あたしを誰だと思ってる?」

 女は自信たっぷりに言った。

「ちょっと待ってな」

そう言って、立ち上がり店に歩いて行った。



 美女は、汚い誇りまみれの商品を探し始めた。

「あった、あった」

 すると、五分も立たず発掘した。

 これだけの商品があるのに、すぐに見つけられるのは凄いと流星は素直に、そう思った。

 埃を払い箱を開けると、中には高そうな木枠が姿を表した。



「おお…っ!」

 いったい、いくらするんだろう。

 流星は恐る恐る聞いた。

「ちなみに、おいくら?」

 流星は聞いて後悔した。

 それなりの金額だったのだ。



「飯、1ヶ月奢ってくれりゃいいから」

 美女は、流星が払えない金額であることは、十分に承知の上だった。

「気前のいいことで」

 流星は苦笑いした。



◇◆◇



 午後4時を回った頃、流星は通信手段を持っていない為、駅前で合流することにした。

 そして、お互いの成果を確認し合うと、明日馬あすまに、「やっぱり、あんた、スマホ持て!」 と怒鳴られた。



 当然である。

 最低限の金額であれど、中学生には無駄遣いなど、全く度しがたいことだからだ。



「まぁまぁ、いいじゃねぇか!木枠作る手間が省けたんだから!」

 流星は、全く反省の様子はない。

 だがそれも仕方がなかった。

 スマートフォンを持てる程、流星は経済力がある訳ではないのである。



「良くない!」

 日向が更に怒る。

 そして、七夕があっ!と声を上げる。

「私のスマホ、貸せば良かったんだ!」

 あっ!と同時に三人が声をあげる。



 後の祭りである。

 そうこうしてるうちに、時間はどんどん過ぎて行く。

 四人は足早に店に向かった。



◇◆◇



 病院の305号室。

 立花瑠花は、呼吸器をしたまま、規則正しい寝息を立てていた。

 しかし、次の瞬間、急に苦しみ出した。



 助けを呼ぼうと口を開けるも、声にならない。

 必死にもがきながらナースコールに手を伸ばそうとするが、虚しく、瑠花はベッドから転げ落ちた。

 その様子を、窓の外から小さな影が見つめていたー…。



◇◆◇



午後3時を回った頃、流星一行は流星軒に戻っていた。

「美味ぇなぁ、このナポリタン!日向も食うか?」

「いらねぇよ。つーかさっき食って来たし」



 流星は、七夕が気を効かせてテイクアウトしたナポリタンを食べていた。

「いいわねぇ、私も食べたい~」



 月見里は物欲しそうに、ナポリタンを見つめる。

 幽霊が見える人が作った物じゃないと食べられないので、仕方ない。



 日向の方は、未だに怒りが収まらないのかずっと黙りこくっていて、七夕はオロオロとそんな二人を眺めていた。



「まぁまぁ、そんなに怒らなくても、作る手間が省けただけいいじゃん!ね!」

 七夕が日向の機嫌取りをする。



「返品するしにても、また隣町までいかねぇといけねぇんだぞ?それだけでどんだけ金がかかると思ってんだ」

 ずっと金銭的なことに関して文句を言っていった。



「それよりも、だ!何時だっけ?立花さんが亡くなる時間は?」

「時間までは分からない。

でも、早くするに越したことはないよ」



 流星は、急いでナポリタンを平らげて、

「ごちそうさん!美味かった!さーて、やりますか!」

 と準備を始めた。



 日向はまだ、不服そうにブチブチと文句を垂れていたが、流星は無視した。

「ほれ、さっさと始めるぞ!」

「偉そうに言うな!」

 言いながらも、日向はエプロンを着ける。



「あ、あの!」

 流星が食べた後を片付けていた七夕が、口を開いた。

「私も手伝っていい?」



 流星は驚いてから、「もちろん!」と言った。


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