【十一皿目】岩国寿司①
そう言えば、何故立花が化け物になることを、七夕は知っていたのだろう?
ふと流星は思った。
七夕の説明によれば、幽霊が化け物になるには、条件があるそうだ。
それは、死に方である。
化け物にならない霊は、生を全うした者、後天的な病気で亡くなった者、死後一年以内の者。
化け物になる霊は、それ以外の死に方をした者である。
つまり、先天的な病気や事故なども化け物になる霊に分類される。
何故そうなのかは、誰も分かっていないらしいが、恐らくこの世に対する未練の違いなのだろう、と言われているらしい。
ちなみに、
いや、正解には
しかし、ある人物の特殊な力が、死後一年は化け物にならないようにしたのである。
「そういえば、いつなんだ?立花さんが死ぬ日って」
先程からずっと黙って考えてた
七夕は一瞬口ごもってから、「明日」と言った。
三人は一層愕然とした。
レシピはまだなんとかなるが、この木枠を探すのが一番の難題であった。
東京の大都会ならまだしも、ここは田舎だ。
通販で頼んでも、間に合わない。
絶対に無理だ、誰もが諦めていた。
だが、流星だけは諦めていなかった。
「明日だな?」
月見里と日向はどよめいた。
「まさか、引き受けるの?」
「当たり前だ。こちとらプロの料理人だからな。一度やるって言ったらやるんだよ。」
流星は一見、ヘラヘラしてて何も考えていないようだが、結構律儀なところがある。
と言うより、負けず嫌いなのだ。
「それにだ。前回ダメだったとしても、木枠さえちゃんとした物を使えばいい訳だし、
と、いつもの自信に満ちた笑みを浮かべた。
◇◆◇
通販がダメなら店頭で買う、もしくは作るしかない。
四人はそれぞれ、流星と月見里、日向と七夕の二組を作り、店頭で探す班と材料を揃える班の二手に別れた。
時間がないので、店頭を買うことが優先である。
幸いにも材料は店にあるもので殆ど賄える為、材料を買う必要はなかった。
「なんか久し振りだな、
「そう言えばそうね。死ぬ前は当たり前だったのにね」
実は流星と月見里は同じ中学に通っていて、クラスも同じだった。
行動を共にすることが多い為、恋仲になるのは時間の問題だった。
◇◆◇
それは、
流星はやっと、月見里に料理の腕を認められて来た頃。
月見里が誕生日だと言うので、手料理で祝いたいから好きな食べ物を教えてくれと、流星が懇願したことがあった。
しかし、返って来た答えは、
「分からないの。だって私、好きな食べ物なんてないから。」
と言う物だった。
それから、流星はしつこいくらいに毎日、月見里に好きな食べ物を聞き出そうとした。
だが、いつも返って来た答えは同じだった。
◇◆◇
「普通は一つくらいあると思うんだけどなぁ…」
流星はバスに揺られながら、呟いた。
「言ったでしょ。私、孤児院で育ってるから、食べ物の思い出なんてないもの」
そうなのだ。
月見里は幼くして両親を亡くし、暫く孤児院で育った。
孤児院での食事は別に粗末な物でもない筈なのだが、月見里には食に対する思い出が、まるでなかったのだ。
だから、そんな霊を成仏させるのは、まさに至難の技である。
「結局、月見里と同世代の奴らに好きな食べ物を色々聞きまわったんだっけ。」
「そうそう。それでも私は嬉しかったわよ?」
「本当かよ」
ざわざわ。
周囲が何やらざわめいている。
なんだろう、流星は不思議そうな顔をしている。
周囲の視線が、自分に向けられていることに、すぐに気づいた。
月見里が他人に見えていない人からすると、大きな独り言にしか見えない。
都会なからば、ハンズフリー通話が流通しており、そこまで注目されることはないのだろうが、田舎ではまだそこまで普及しておらず、まだまだ異様な光景である。
流星はごほん、と咳払いをしてはぐらかした。
◇◆◇
一方、日向と七夕はホームセンターで買い出しを終えて、喫茶店にいた。
日曜日だからか結構混んでいる。
案内された、二人用のテーブル席に、恐る恐る腰を下ろす。
「いいのか?俺、金持ってねぇぞ?」
「いいのいいの。一応バイトしてるから、ここは奢ってあげ」
「へぇ、金持ちなのにバイトしてんだな」
言われて七夕は目を丸くした。
自分が金持ちなんて言った覚えはないのに、何故そう思ったのだろう?
確かに自分が通う高校はそれなりに費用のかかる学校ではあるが、特別お金持ちと言う訳でもない。
中学生から見て高校生は、それなりに金持ちに見えるのだろうか?
七夕の脳裏に、いくつもの疑問がよぎるが、特に突っ込むこともなく続ける。
「だって、いつまでも親に頼っていられないし、
日向は、その一言で自分が疑問に思っていたことが、脳裏を過った。
「そういえば、
「何?急に?」
「いや、なんとなく…」
二人は同時に下を向いた。
少し間が合って、「分からない」
と七夕が切り出した。
「そもそも、
日向は驚いた。
「…俺も、同じなんだ。七夕さんと一緒で、成り行きで…。最初の頃は、それが当たり前だと思ってた。でも…」
中途半端に言葉が途切れた。
見かねて七夕が、「もしかして、斬ることが辛くなった?」
と聞かれて、コクリと頷いた。
「あいつに…
「同じだね。」
七夕は優しく微笑む。
「私にも、料理人の素質があればよかったんだけどなぁ…」
「それかいっそ、あの人に会わなきゃ良かったのに…」
ぼそりと、本当に虫が鳴くような声で呟いたのだが、
「あの人って…」
「
その名前を聞くなり、日向はただただ、息を飲んだー…。
それは、日向でさえ知り得ない情報だった。
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