【九皿目】依頼人
自分よりも一つしか変わらないと言うのに、
今から約一時間前のこと。
今流行りの食べ物と言えばそう…。
「タピオカ?なんだそれ?」
「知らねぇの?タピオカ」
「全然知らねぇ」
このご時世、タピオカに関するニュースと言えば、タピオカ専門に新しい店を出したり、それ専門のセミナーまで解説されたり、はたまたSNSなどに上げて閲覧数を稼ぐなどなど、何かと世の中を騒がせてると言うのに、この店主と来たら全く知らなかったのだ。
店主の持ち物にスマホどころか、ガラケーと言った電子機器が全くないのだ。
「もしかして、スマホ持ってねぇのか?」
「持ってねぇな。必要ねぇし、金かかるし」
今時いるんだ、と心の中で呟いた。
「そういえば」
「?」
「止めたんだな」
「なにが?」
「敬語」
「あ…っ」
言われてようやく気付いた。
一体いつからなくなってたんだと、慌てるがどうでも良くなって、考えることを放棄した。
「で、なんだ?タピオカって」
「これだ。」
「なんだこれ?飲み物か?」
「飲み物だけど、食べ物でもあるんだ。
タピオカもミルクティーもスーパーに売ってるぞ」
「って言うかそれ、料理じゃねぇだろ。
そんなんで
「いいじゃない、試して見ましょうよ」
「でもなぁ…」
やってみる、と意を決したものの料理人としてのプライドが許せないのか、
その時だった。
カラカラ、と扉が開く。
それに気付いて、
「いらっしゃ…」
言おうとして、
「すみません、ここに幽霊の一番好きな食べ物を食べさせて成仏させる料理人がいるって聞いたんですけど…」
その人物は自分達と同じくらいの女性だった。
一番好きな食べ物が見えない。
彼女が人間であることが、すぐに分かった。
◇◆◇
少女は栗色の髪に翡翠の目を持っており、茶色のお洒落なブレザーに身を包んでいる。
どうやら県外の高校に通っているらしい。
「それで、今日はなんでここに来たんだ?」
「頼みたいことがあるんです」
「頼みたいこと?」
「本題に入る前に一つ、聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「
「
ドキリ、お茶を持って来た
彼女の腕を見ると、自分と同じ
自分がそうだ言おうとしたが、
「知ってるけど、それがなにか?」
と
◇◆◇
栗毛の少女は、
そして、自分が
「知っての通り、ここは料理で霊を成仏させる店なんだけど」
「だから来たんです。あなたに成仏させて貰う為に」
「なんでだよ?
自分が
自分にはそれがまるで悪だと言わんばかりに言っておいて、良く言うと
冷やかしにでも来たんだろうかと、思ったが、
「斬りたくないんです。例え霊に感謝されても。
今まで散々斬っておいて今更って思うかも知れないけど
。
あの人だけは、斬りたくないんですー…!」
と、少女は涙ながらに必死に訴えた。
◇◆◇
「落ちついたか?」
「はい、ごめんなさい…」
七夕はゆっくりと深呼吸をすると、左腕を持ち上げて
「実は、私もその霊媒師だったんです」
「だった?」
「だった、と言うのはちょっと違いますね。
正確には休業中と言いますか…」
聞けば
そのある人の名前は、
「
三人は動揺すると、言葉が途切れ、暫く静寂が流れた。
それは約一年前のこと。
中学になったばかりの時、両親が事故で死に、化け物となった父親に襲われた。
その時に助けてくれたのが、
銀色の髪に金色の瞳、180㎝はあるだろう長身に、ガタイのいい飄々とした謎の男、それが
それをきっかけに、
しかし、
それはそれはもう、身を裂くような修行だったが、その話はまた後述しよう。
「私も、最初は成仏できなくて苦しんでる幽霊を救いたい、その一心で
でも、何人も斬っているうちにどんどん胸が痛くなったんです」
ツキン、
「それで、俺に成仏させて欲しいってことか?」
「はい…」
「その依頼引き受けた!」
「本当ですか?!」
ぱぁ、っと
「まず相手の一番好きな食べ物が分からなきゃどうにもならねぇ。
とりあえず、相手に合わせてくれねぇか?」
どうやら無事依頼は成立した。
明日、
それじゃあ、と七夕は一礼をして店を出て行く。
来た時とは違い表情は明るくなっていた。
は手渡された地図を確認する。
「珍しいわね、人間の依頼人なんて」
今の今まで、ただ黙って話を聞いていた満月が背後からそのメモを覗き見る。
「そう言う訳だから、満月は留守番頼むわ。
日向はここにいー…」
「俺も行く」
間髪入れずに答えた。
「確かめたいことがあるんだ」
◇◆◇
夜の帳が降りる頃、月夜は二つの影を照らしている。
その影の正体は巨大な化け物と、ピンク色の髪を持ちブレザー姿の少女だ。
ゴッ!
化け物は小さな少女を目掛けて襲いかかる。
少女は全く動かない。
襲われると諦めているのだろうか?
いや、そうではない。
口元には笑みを浮かべている。
それは諦めではなく、寧ろ余裕の笑みだ。
少女の手には、銀色に煌めく刀。
ザン!
その一振だった。
たった一振で化け物は、人間の姿を表した。
まだ三歳にも満たないだろう、男児の霊だ。
男児はまだ自分が何故死んだ理由どころか、なんで化け物になったのかすら分かっていないだろう。
「バイバイ」
と、少女は悲しそうにも嬉しそうにも見える笑顔を浮かべて、別れを告げるのだった。
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