座敷童子の少女、現代で商売を始める

龍神雲

座敷童子の少女、現代で商売を始める

 夏祭りの終わりとなれば、屋台も品物をほぼ半額で叩き売りをし始める。余らせるより売ったほうがいいからだ。その頃合いを見計らい、焼きそば、焼きもろこし、たこ焼き、冷やしキュウリ、りんご飴と買って、わたあめを最後に購入すれば、店の人はもう一つわたあめをおまけして無料でくれた。今日の晩御飯は屋台飯で晩酌だと帰路につく中、その帰り道に浴衣姿の少女と行き合った。浴衣姿の少女は何処へともなく一人で歩いては立ち止まり、直に、俺と視線が合った。それから少女は俺が手にしているわたあめの袋をじっと見詰め、「甘いやつだ」と目を輝かせて呟いた。


「欲しい?」


 店の人がおまけしてくれたので二袋ある。その内の一袋を少女に差し出せば、少女は嬉しそうににこりと微笑み、受け取った。


「ありがとう」


 それから少女は遊歩道に設置されてるブロック塀まで歩いていくとそこに腰掛け、早速わたあめが入った袋を開けてその場で食べだした。余程お腹が空いていたのか、あっという間に平らげてしまった。


「もう一つ食べる?」


 自分用に買った物だったが、わたあめが好きそうなのでもう一袋渡してやった。


「それじゃあね」


 そこから離れて家路に急ぐ中、少女は大声で口にした。


「お兄さんありがとー!」


 わたあめ好きな不思議な少女と出会った数日後、祭りの屋台が立ち並んでいた空き地のスペースに新しいキッチンカーが来ていた。そのキッチンカーの近場に置いてある立て看板には『ふわふわレインボーポップキャンディ』と書いてあり、レインボーわたあめとワンコインで日替わり定食が買えるキッチンカーのようで、中を覗いてみれば、祭りの帰り道で行き合った浴衣姿の少女が一人で切り盛りしていた。


「君は前に会った……」


 すると少女はほわりと笑い、レインボーわたあめと日替わり弁当を袋詰めして渡してくれた。


「過日のお礼です、わたあめ御馳走様でした、どうもありがとう。あの時物凄くお腹が空いてて、わたあめ食べなきゃ死ぬところでした」


「ハハッ、そんな大袈裟な……」


 浴衣の少女のオーバーな物言いに思わず笑ってしまった。


「私、暫くここにお店を構えることになったから、もし良かったら来てね。人間のお兄さんも大歓迎」


 ──人間のお兄さんも大歓迎?


 その言い方からして、少女は人間ではないのが窺えた。


「君は人のように見えるし、とても幼い感じにも見えるけど、いったい何の妖怪になるんだい?」


 気になったので訊いてみれば、少女は明るく答えてくれた。


「私は座敷童子。ずっといたお屋敷の主人が亡くなって、暫くそこかしこでさ迷ってて──次のお屋敷を探そうと思ってたんけど、キッチンカーで転々としてまわって売るのもいいなって思って。それで免許をとって、許可をとって、お店を始めてみたの」


「そうなのか」


 妖怪業界も色々あるのだろう──とまれ、応援したくなった。


「繁盛するといいね。しょっちゅうは無理だけど、たまに買いにくるよ。あと宣伝もしとくね」


「うん!どうもありがとう」


 そして座敷童子が始めたキッチンカーは人間も妖怪も拠り所とする、憩いの場になったのだった──

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