深夜のコーヒータイム

蒼の旅人

プロローグ 喫茶『cafe time』

 AM 2:30

 辺りはもう寝静まった頃の時間帯。こんな深夜に私は、とあるお客さんの悩みを聞いていた。

「相手の気持ちを考えて話し合うことが時には重要……か。」

そう言ったお客さんは、納得したように頷き、コーヒーを飲み干す。

「そうですよ。しっかりと相手の気持ちを尊重して、その人がいまどうして欲しいのか。恋人なら尚更に考えてあげてください。」

「……そうだね。最近は突っ走って、自分の意見ばかりを彼女に押し付けていたかもしれない。本当に反省だね」

「分かってくれて嬉しいです。人間はテレパシー能力なんて便利な能力を持ってないので、ちゃんと彼女さんの意見を聞かないと分かり合えません。なので必ず話し合って下さい。そうすればまた良好な関係に戻ると思いますよ!」「ありがとう。ここの喫茶店に来て本当に良かったよ。」「いえいえ!私はただ話を聞いただけで何もしてません。絶対に彼女さんと仲直りしてくださいね!」

「……あぁ。私にとって、大切な彼女だ。今まで自分の意見ばかり押し付けて本当に反省しているよ……必ず仲直りして、その時は彼女と2人でこの喫茶店にやってくるよ!約束するよ。」

「はい!約束ですよ?この喫茶店でいつでも待ってますからね♪」

 私が微笑みながらそう言うと、お客さんは悩み事が晴れたかのように、すっきりとした表情で席を立ち、お会計を済ませて店を後にした。


 ここは繁華街を少し外れた、小さな喫茶店。どこにでもありそうな見た目をした喫茶店の名前は『喫茶cafe time』昭和な雰囲気漂う内装で、メニューもどこにでもありそうなものばかり。ただ、少し特殊な点を挙げるとすれば、営業時間が夜の22時〜28時とマスターが夜型で、おまけに下戸でコーヒー好きなので、深夜に喫茶店という変わった営業スタイルになったんだと思う。

 私は、コーヒーカップを洗いながら、さっき来たお客さんのことを思い返していた。

「それにしてもあのお客さん、彼女さんと仲直りできると良いな〜。そして今度は彼女さんと一緒に来て欲しいな。」

 ここは喫茶店でもあるけど、私がお客さんのお悩みを聞いてアドバイスする、お悩み相談所になっている。人間関係や恋愛関係。人生相談にちょっとした占いまで。相談内容は多岐にわたる。そして地味に評判が良いらしい(食べ〇〇調べ)

 従業員は全員で3人。1人目はこの私、三ツ石百叶(みついしもか)4月13日生まれの牡羊座の19歳。大学2年生で、みんなは私をモカって呼んでる。髪の毛は茶色に染め、普段はロングストレートだけど、バイト時はお団子ヘアにしている。好きな食べ物はマスターが焼いてくれるパンケーキ!嫌いな食べ物は特にないかなぁ〜。趣味は人間観察かな。特に大学の食堂とか、広場のベンチに座って人を観察するのが1番好きかも……

「モカ!ニヤニヤしてないで、いつまで同じ食器を洗ってるのよ。マスター!またモカ自分の妄想して自分の世界に浸ってる」

「別に良いんじゃないか?いつものことだ。ほっといてやれ。きっとそう言うお年頃なんだ。」

「聞こえてますよ〜!いつもニヤニヤしてる訳じゃないし」

 本当失礼しちゃうよね。いつも私が人間観察しながら、ニヤニヤしている女に思われちゃう。違うからね!……話を戻して、2人目の従業員、菅波梓(かんなみあずさ)さん。誕生日は12月2日で私より2個年上の大学3年生。黒髪のロングでバイト時は三つ編みにしてゴムで纏めている。美人でスタイルも良いのにズボラな部分とたまに残念な発言もするから本当残念美人な人……

「モカ?なんか今、凄く失礼なこと考えてないかなぁ?」

「ソンナコトカンガエテマセン」

「なんでカタコトなのよ!どうせ残念美人とかって思ってるんでしょ!?私だって本気出せば彼氏の1人や2人……」

 そう言った梓さんは、突然目に涙を浮かべ、どんどん闇のオーラを発していく。そういえば、この前付き合ってた彼氏さんと別れたばかりなんだっけ……!彼氏できたって言ってた時の梓さん凄く喜んでたもんな〜

(ついにこの私にも彼氏ができたのよ!これで残念美人なんかじゃなくなるのよ!目指せハネムーン〜!)

 って数ヶ月前はめちゃくちゃはしゃいで喜んでたもんね。分かれた理由とか詳しくは聞けないけどそっとして置こう。それと……今後は地雷を踏まないように気をつけよ……

「梓もいい加減落ち込んでないで元気出せよ」

 最後はこのお店のマスターこと長砂栄吉(ながすなえいきち)マスター。誕生日は10月1日生まれの53歳。色々とあって1年前からお世話になっている。マスターの入れるコーヒーは「深夜の体に沁みて目が覚める!」とか「マスターのコーヒーが無いと眠れない身体になっちゃった」とか「マスター……好き!」というコーヒーは中々の評判らしい。私の友人曰く「マスターのコーヒーには、何かヤバいのが入ってるのではないか?」と飲んで思ったらしい。ちなみに私も友人も味は普通に美味しいと思ってる。私にとって恩人兼第2のお父さん。みたいな感じだ。


 こんな3人が週5日火、日定休で喫茶店を営んでいる。さっきも言ったように、このお店は特殊だ。営業時間帯は変だし、もう半分私がお悩みを聞くお悩み相談所になってる。それでもお店で働いてて楽しいし、私なんかが大層なアドバイスできるわけじゃ無いけど、悩みを聞くだけで誰かの役に立てるならそれはそれで嬉しい。

「さ〜て残り時間もお悩み聞きますか〜」

「モ〜ガ〜私の悩みを聞いてーー!」

「悩み相談もいいけど喫茶店だから接客とか忘れるなよ」

 今日も私は、お客さんの悩みを聞きながら、深夜のコーヒータイムが過ぎようとしている。

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深夜のコーヒータイム 蒼の旅人 @aotabi0430

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