玄関にて(テーマ:土と3)
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
薄いドアの向こうから男の声がした。
「消防署の方から来ました!」
消防署の方から来ました?
こてこての詐欺発言だった。そんな人間を家に上げるべきではないだろうが、逆にそんなことをいう人間の顔を見てみたくなった。
チェーンを外し、鍵を開ける。
ドアの向こうにいたのは、人のよさそうな男だった。僕よりも頭一つ分ほど小さく、ふくよかな男。たしかに、セールスマンぽい。
「消防署の方から来まして、皆さんに便利なものを紹介しているんですよ」
パターン的には、消火器だと思ったが、そうではないらしい。
「消火器では?」
「消火器? いえ、普通に何パターンかアイテムがあるんですが」
「はあ」
聞けば、近くの消防署の横にちゃんと本社がある会社なのだという。そういうパターンが存在するとは……
いや、まだ油断してはいけない。
そう言って、実は高いものを売りつけられるのかもしれない。
「何を売っているんですか?」
「大したものじゃないんですけどね」
とスーツケースを土間に置いて漁り始める。
「じゃあ、すごく高いとか?」
「いえ、高くて一万円とかなんですが」
例えば、そう言って取り出したのはライターだった。
「使えないライターです」
「!?」
「他にも、いろいろ……」
「いや、大丈夫です。ごめんなさいおかえりください」
僕は必死にドアを閉めた。
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