仕合(テーマ:金と4)

 ふう。

 息を一つ吐き、相手を見やる。

 すでにもろ手を地面に付き、じっとこっちを見ている。視線からは殺気のようなものは感じない。ただ純粋な勝負への執念のようなものが感じられた。

 俺もゆっくりと右手を付き、左手をさらに静かに下ろしていく――

 こうなったのは、少し前にさかのぼる。

 

 

 

 昼の日から逃れ、洞窟で眠っていた俺は、聞き覚えのある声に起こされた。同じ山に住む狒々ひひの長であった。

 聞けば、人の子に負けたのだと言う。

 この狒々の長とは、山の支配者を巡る勝負という名の殺し合いをしてきた。彼の頭の良さや、他の狒々よりも大きく手足の長い体に散々苦しめられたが、純粋な力の差によって、辛くも勝利したのだ。

 そんな彼が敗けた……?

 しかも、人で、子どもだと。

 最初は信じなかった。

 が、狒々の長は真剣に「山の代表として勝負をしてくれ」と説得され、人間の子どもと相撲をすることになったのだった。

 

 

 

 やってきた子どもは、俺の体格の半分にすら満たない小さな男の子どもだった。赤い前掛けだけを身に着け、のっしのっしと歩いてきたのだ。

 だが、その腕と足の太いこと。

 筋肉が詰まりに詰まった手足に一瞬の恐怖を覚えたが、しかし自分にも自信はある。

 俺はただ立ち向かい、倒すのみだ。

 

 

 

 左手を地面に付き、飛びかかる。

 ――よりも先に、それは一瞬にして距離を詰めてきた。がっしりと腰を掴まれ離せない。

 こちらも相手の腰を掴みにかかるも、小さすぎて上手く組めない。

 真剣勝負を破り、爪を立てるしか……

 勝負に水を差すことになると思いつつも、最大級の殺意を持って、爪を小さな体に突き立てる。

 しかし、筋肉が詰まった体には爪の先ほども刺さらない。

 

 !

 

 終わりだと思った一瞬の油断が、勝負の決め手だった。

 腕を絡めとられ、放り投げられる!

 気づけば、空を見上げ寝転んでいた。

 敗けた。

 完敗だった。

 俺は起き上がり、その子の手を取って湛える。

「彼こそが、足柄山の王者だ!」

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