丘の上に吹く風(テーマ:木と5)

 一枚の木を、鑿で削り上げる。

 白い木の肌に、刃の跡が彩を添えた。

 人の肌のように緩やかな曲線を、磨き上げ作り出していくのだ。

 割れそうなほど繊細な木の肌を湛える彼女。

 それでも彼女の奏でる音は、確かに強い。

 

 音を支える体は、木で作られている。

 それは大木の根が、自らの体を支えるように。地中に張り巡らした根。絶対に倒れまいと広げた根。大木の根のごとく、音楽の根幹を支えてきた。

 

 音は、響く。

 硬くもしなやかな体に、確かに響く。

 多くの葉を茂らせた枝は、強い風の前にも耐えている。触れば硬い木の枝も、確かに柔軟さを秘めている。

 

 木は呼吸する。

 音も確かに呼吸する。

 見る人に、魅せる人の呼吸を感じさせる。

 それは弾き手の呼吸であり、木の呼吸だ。

 今、確かに息をしている。

 

 音は、輝く。

 彼女も光る。

 それは生み出された光沢のようで、彼女が感じ、生きてきた太陽の光だ。

 光の中を、木は確かに生きてきた。

 二酸化炭素を吸い、酸素を生み、光を蓄え生きてきたのだ。

 

 顎に当て、景色を見る。

 その温度を感じる。

 なだらかな曲線の先に、音楽家のたどり着く景色が見えた。

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