自治体規則に準じて(テーマ:水と6)

 気が付けば、白い着物に身を包んでいた。

 真っ白な白装束に、今時履くこともない質素な草履……なんかあるなと思えば、額に三角の布が巻かれている。

 これは、私が死んだということだ。

 体はすこぶる快調で、どこも苦しくはない。

 今までの入院生活が嘘だったように、足が動く。どこまででも歩いてゆけそうだった。

 どこまででも?

 私は、どこかへ向かって足を進めている。

 時折同じような人を見かけ、同じくどこかへ向かっている。歩く方向は、一緒で一つの場所に向かっているようなのだ。私もどこか分からないけれど、行きつく場所があるような気がしている。

 歩いては休み、休んでは歩いた。

 死んでからずっと空腹というものを忘れていたが、だんだんと空腹を感じ始めている。

 途中で餓死してしまうかもしれない。

 そんなころ、一本の川にたどり着いた。


 多くの白い着物の人間が川岸に集まっていた。今、此岸と彼岸の境にいるのだ。ここが三途の川というものか。流れの激しい川だ。

 川岸には、小舟が並んでおり、何人かが分かれて乗り込んでは向こう岸に運ばれていく。その列から弾かれて、川を泳がされていく者もいた。

 前に並んだ人々の様子を見れば、カバンから何かを取り出して、舟の渡し守に差し出している。

 ああ、お金が必要なんだな。

 三途の川の渡し賃――六文銭。

 だが、首から下げている小さな袋は軽く、硬貨が入っているようには思えない。そうじゃない人間は泳がされているのか……私は泳げない。

「では、渡し賃を……」

 必死にカバンを探してみれば、紙が数枚入っていた。

「おお、それで大丈夫ですよ」

 紙にはつたない文字で「6おくえん」とあった。

 孫のいたずらか?

 にしても何倍だよ……

「高額のお支払いになりますので、ラグジュアリーシートをご用意しますね」

 あるのかよ……

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