トリグッズを取りたい・超短編集8/8~/14

亜夷舞モコ/えず

燃えるリール(テーマ:火と7)

 最後、一枚だけになってしまったな……。

 その握りしめてぬるくなったコインを、再び強く握りしめる。大きな山の中の一枚ならば、ここまで強く感じることはない。もう一枚しかないのだという気持ちが、焦りと不安――けれど同時に、勝負への熱意に繋がってたぎる。

 せめて3枚あれば、というのも正直ある。

けれど、今更のことだった。

コインを投入口へ運ぶ。

 その手が震えていた。

 右手を腿に打ち付け、気合を入れる。痛みと痺れで、恐怖をほんの少し打ち消して、俺は戦いへと挑む。

 コインは、さびしい音を立て機械に吸い込まれ、レバーを倒せばリールが回る。

 目まぐるしい速度で、絵柄が変わり続けていく。どうにか絵を目で追って止めることができないものか――そう思っても、ど真ん中に一列、それを揃えるのは至難の業だろう。


 ここまでくれば、狙っても仕方ない。

 俺は静かに目を閉じる。

 隣の客の息遣いや香水と煙草の匂いがより強く感じられた。玉とコインのぶつかる音、機械から流れる音と声。何もかも強く、体に染み渡る。

 もはや、これは運だ。

 何も考えず左、そして真ん中とボタンを押した。恐る恐る目を開く。

 7……さらに7。ど真ん中に揃っている。

 途端に汗が噴き出した。

 血が沸き立つみたいだ。

 震える手で、なんとか機械の淵を掴み、流れてくる、赤い7をどうかここに!

 止まって――くれ。

 ボタンを押した。

 リールが、止まった。



 

 そして、俺は確かに止まったはずのリールに巻き込まれる。これは火の車である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る