エレナ
リアと二人、山中を駆ける。 …目的地は、バーゼル辺境伯邸。
場所については、昔エドウィンに聞いて情報を得ていたので問題はなかった。
バーゼルは自身の居城を隠したりはしていなかったようで、聞けばすんなりと答えを得られたのである。
…まぁそれは、バーゼルだけでなく他の貴族達も同じかも知れない。
街の人間に話し掛けて、『領主様なら、あの街の最上部に建つお屋敷にいらっしゃるわ』なんて返される。
…うん、なんともイメージし易い。
…まあ実際には、バーゼルは街中には居を構えていないようだが。
バーゼル邸は村から北東に進んだ先にあるらしく、この領地最大の街バーゼルスが良い目印になる筈とのこと。
エドウィンも実際に行った事はないようで、その情報も又聞きらしいが…正直大体の場所が分かれば十分だった。
…砦の時と同じだ。 物流の関係で、必ず大きな道が周囲に出来る。
てな訳で…俺達はただ今、人目を避ける為に砦から山沿いに北上し、ホームグラウンドであるアケロスの森を目指していた。
位置関係を考えると、アケロスから真っ直ぐ東に進めばバーゼル邸に辿り着く筈だからである。
隣を走るリアを横目でちらりと見る。
道中、リアとはそれなりに会話しているのだが…。 時折リアが何か考え込む様な雰囲気を見せる為、なるべく邪魔しないようにしていた。
思考していてもリアの身体は正確に動作している。
…それなら、特に問題はない。
砦から走ることしばらく…。
やがて…何やら此処とは違う雰囲気を、アケロス方面から感じ取る。
流石に四年通いつめると、唯の森にも愛着が湧くのかも知れないなー…
等と適当に考えていたのだが。
どうやらそういった、ほのぼの系ではなかったようで…。
近づく事でアケロスの森全体から感じられたのは、殺伐とした気配…。
またか…
その思いが滲む。 戦時中ということもあるのだろうが、先日から行く先々で普段と違う気配に晒されていた。
「…今度はなんだろな」
「タイミング的には、貴族…でしょうか?」
リアも同じ気配を感じ取り、どちらともなく速度を緩める。
「貴族がこんなトコに…?」
「いえ、ただの思いつきですが…」
一瞬それはない、と言いたくなったが、何が起きても不思議はない。
…それを否定出来る根拠はなにもなかった。
「…とにかく、慎重に探ろう」
「ここまで来たら、アケロスを避けて向かうことも出来ますけど…」
リアからもっともな提案。 確かに、その通り。
…でも
「いや、少し探っていこう」
「分かりました」
そうした。 …だって。
…気になるだろ?
通い慣れた、しかし普段とは違うアケロスの森へと足を踏み入れる。
その瞬間から感じたのは、濃密な殺気と…血の匂い。
…どうやら、此処で既に何人か死んでるようだ。
そして、しばらく進んで見つめた二体の仏は…。
「…兵士、ですよね?」
「みたいだな」
農民とは明らかに違う装束。 だが、貴族ほど煌びやかではない。
しっかりとした生地の服に、ところどころ急所を守る様に鉄製の防具を纏っていた。
「でも、これでほぼ確定したな。 どうやら相手は貴族じゃない」
「はい…。 でも、だとしたら気になります。 このタイミングで、兵士と闘う人って…」
兵士達は刃物で殺されていた。 一度では仕留めきれず、何度か切り結んだ形跡がある。
傷も急所にほど近い箇所に刻まれており、手加減の結果などではない殺意の高さを窺える。
一兵士相手にここまで真剣にやり合わなければならないのだ。
よっぽど偽装が上手くないかぎり、能力者ではあり得なかった。
「分からないけど。 奴隷の可能性がある、かな?」
「レイ様…」
リアが不安そうに俺の顔を見つめる。 …少なくともリアはそう考えてるみたいだ。
確かに、未だ表立った戦争の影響はない領内で、兵士に敵対する存在。
そう考えると、可能性が高いように思えた。
「…なら、探さないとな」
「はい」
リアが嬉しそうに頷いた。 …まぁ、俺は相手が誰だろうと元々探し出す気でいたのだが。
「…防御頼むな」
「はい。 任せてください」
リアの返事を聞いて、広域索敵を開始する。
索敵、つまり周囲の警戒は、普段から欠かさず行っている事だ。 何も特別な事ではない。
しかし、その警戒の網を更に無理やり広げる広域索敵には、それなりのリスクがある。
…意識が身体から離れ過ぎるのである。 自意識を周囲に拡散している感覚とでも言うのだろうか、広域索敵中は逆に身近な事への注意が散漫になる傾向があった。
その為、リアにその辺のサポートをして貰い歩くこと十数分…。
「…見つけた」
呟き、意識を身体に戻す。
…疲れた
「お疲れさまです、レイ様。 …それで、何処に?」
「あぁ…。 こっから北西に四百メートル位のトコ。 …身を潜めてるみたいだな」
「そんな遠くっ?! どうなってるんですか、レイ様…」
「たまたま警戒する鳥の気配が伝わっただけだよ。 流石にそんな遠くまで直接は探れない」
「な、なるほど…。 良かったです」
リアが胸をなで下ろす。
良かったって何だよっ。 一瞬マジで引いた様な表情をしたの見えてんだぞ、リア。
「それで、どうしますか?」
「どうするも何も、会わないと始まらないだろ? 警戒はしつつ、気配は隠さずに行こう。 …自然体でな」
「分かりました」
出来るだけ警戒させないように、あえてこちらの存在をアピールするかの如く振る舞い、距離を詰める。
通常の索敵範囲に入ることで、相手の事が少し分かった。
…それは、隠密能力の高さ。
既に相手にもこちらのことは認識出来ている筈だが、緊張その他…一切の気配が伝わってこない。
まるで野生の獣の様な気配消しが、どこかフィオナを彷彿とさせた。
「…何者でしょうか?」
「さぁ…? 奴隷ではないのかもな」
「ですね…」
兵士二人を殺したのもこいつだとすると、戦闘能力も高いという事になる。
そうすると、奴隷という身分に若干の違和感が芽生え出す。
…まぁ、何もかも…会えば分かること
「あー…。お~い、そこの人ー。 ちょっと話したいんだけどー」
「れ、レイ様?」
「こっちのが早いだろ?」
困惑するリアを尻目に、気配や声に敵意を一ミリも乗せずに歩を進めるが…。
特に反応なし。
こりゃ、出会い頭の一当たりは覚悟しなきゃいけないみたいだな…
「リア、ちょっと待っててくれる?」
リアを待機させて、一人さらに距離を詰める。
潜伏場所まで…およそ五メートル。
そろそろ出て来てくれると有り難いが…
潜伏場所まで…およそ三メートル。
…ゼロ距離まで行かなきゃならんのか? これ
と、そんな事を考えていると…。
…おっ来たか
─瞬間、草木から飛び出す黒い影
踏み出された一歩が三メートルの間合いを一瞬で潰す。
速い、だが間違いなく無能力者。 …でも、やっぱ速い
天性のバネ?いやそれだけじゃない…おそらく鍛錬の結実
出て来た人影に、まずは能力分析。
続いて…。
潜伏時の凪の様な気配とは打って変わった、目も眩むような殺意。 正にヤル気満々
…精神分析。
女、年上…多分リアより。黒髪黒眼…初めて見た
ついでに外見分析。
明らかに素人じゃない。 鍛え上げられた戦士だ。
そして、強い意思と殺意を持っている。
俺が申し訳程度の総合分析を終えた、ちょうどその時。
彼女の右手に持つ長剣がその間合いに入り、そして躊躇わず振り下ろされる。
このままだと、コンマ数秒後には俺の身体に触れるだろう。
…だから俺は、何もせず彼女の眼を見つめる。
彼女は、何かに対して怒っている。 それこそ身を焦がすと表現して良いほどに…。
でも、それと同時に戦士でもある。 彼女には分かる筈だ。 …相手の敵意を、敵対する意思の有無を。
だから、俺は何もしない。 ただ彼女が刃を止めるのを待つ。
だが…
止まらない。
その腕の振るいも、突き刺さるような殺気も…。
…どうした、伝わってる筈だ。 分かってる筈だ…あんたなら
止まらない…。
それでも、殺すのか…
…………少し…気に入らないな
ガシッと…長剣が頭に触れる寸前で、女の手を掴んで止める。
当たったところで傷一つ付かないが、わざわざ殴られてやる理由もない。
「───ッ」
女は右手を封じられたことを認識すると、すぐさま左手に持つナイフで刺しに来る。
だがそれも、当然の如く手首を捕らえて阻止した。
「───ぐっ …このッ」
女は捕らえられた両手を解放しようともがくが、離してやる訳もない。
「…なんで殺そうとする」
女に問う。
「─っこのッ、死ねッ!!」
女が俺の股間を蹴り上げる。 …容赦のない事だ。 …だが。
「あっぐぁッ…ぅがっ」
…オーラもなしにじゃ、生身で鉄塊を蹴るのと変わらない。
「…なんで殺そうとした?」
再度、問う。
「─っあッ、なにがッ」
「だから…何で俺を殺そうとする? 分かってるだろ?お前なら。俺にその気がないって事ぐらい」
「黙れッ」
だが、女はまるで聞く耳を持たず…今度は腕を噛もうと頭を振る。
話にならないな…
「リアッ!」
名前を呼んだだけだが…リアは意図を理解してくれた様で。
「───ッ! なっ…」
瞬時に女の背後に回り、身体を拘束した。
「ありがと」
「いえ、このくらい」
リアにお礼を言って、改めて女に向き直る。
「リアにお礼言っとけよ? じゃなきゃ、歯が砕けてた」
「──何言ってッ! ぐっ、離せッ!」
こんな状況になっても、女の殺意は些かも衰えていない。
「質問に答えたら離す」
「─ッ 質問ッ?!」
「さっきから何度も言ってるだ‥‥」
「─お前がッ! お前がアルスト人だからだろうがッ! 死ねッ全員ッ! 殺してやるッ!!クソっ、死ねッ!」
いや、それどころか…益々激しさを増していく…。
それにしてもなるほど、アルスト人だから。…か
「………何があったのか知る訳もないし、言われ無くても分かってるだろうが…俺はお前に何もしちゃいない」
「黙れッ、死ねッ!! このッ、っ離せぇッ」
彼女は歯を剥き出しにして藻掻く…。
「この国に住む全員を殺さなきゃ収まらないのか? 女も子供も…全員?」
「─ックソッ…ふぅッ! ─っ ふぅ!!」
…まるで狂犬だな
「もし、そうなら…俺もお前を殺すしかなくなるが」
女が落としたナイフを手に掬い取る。
「─ふぅッふーッ! あぁ、殺せっ! ─っ殺せよッ!呪ってやるッ! 滅びろッ畜生共ッ!死ねッ!」
「はぁ……」
思わず大きな溜息をついてしまった…。
「…それでいいのか?」
「私は死を恐れたりしないッ!!」
「そうじゃない。 このまま、クソ詰まらない人間のまま死んでも良いのかって、そう言ってんだよ」
「───…なに、?」
女が初めて言葉を詰まらせる。
「お前に何があったのかは知らない。聞くまでもなくクソ胸糞悪い事なんだろうな。 まったく、気持ちは分かるなんて口が裂けても言えねぇ。 …でもお前は、俺を殺そうとした。 それだけは…どうしても気に入らない」
「……なに言って」
「俺が聞いてるんだよ。 俺は無抵抗だったろ。 お前とは会ったこともない、無関係の人間の筈だろ。 …それを問答無用で斬り捨てるのは、どう考えても格好悪い。 お前自身の矜持と誇りを傷付けてる」
「──なにをっ、勝手な事っ…! …無関係? そんな訳ないっ!」
女の言葉を、再び怒りが包み込む…。
「─無関係な訳ないッ! あなたは此処に住んでるんでしょ?! 散々私たちを殺してっ、踏み付けてッ! …無関係な訳ない。ふざけた事言わないでっ!」
…ただし今度は、同じくらいの悲しみが一緒だった。
「………そうかもな…。 それでも…やっぱり、俺はアンタに何があったのかさえ知らないんだよ」
「────っ」
「俺だけじゃない。 …俺の家族だって、何も知らない」
「─だから何っ? 何が言いたいのっ?!何がしたいのっ?! あなた誰よっ?!」
彼女の眼を見つめる。 …未だ殺意は健在。 だが、話が出来る程度には落ち着いているように見えた。 …だから。
「……俺はレイ。 そして、今アンタを羽交い締めにしてるのがリアだ」
彼女の両手を掴んでいた手を離しながら、自己紹介をする。
「すいません、無理やり押さえつけて…」
リアも俺に倣って拘束を解き、軽い謝罪をした。
「…っ……」
突然身体の自由を得た彼女は、困惑と警戒の雰囲気を纏いながら、油断なく身構えている。
「それで、さっきの答えだけど…。 言いたい事はさっきのが全部で。 何がしたいかについては、ただ話を聞きたいだけとしか言えないな」
「…………」
「とりあえず、名前聞いてもいい?」
「………エレナ、よ」
よーし、名前ゲット。 これで少しは会話がスムーズにいくといいんだが…。
「じゃあ、エレナ…。 聞きたいだけど‥」
「格好悪いってなに?」
「ん?」
エレナが言葉を遮り質問をぶつける。
「格好悪いって言ったでしょ?私の事。 誇りがどうとか…。 何様のつもり?偉そうに。 私のこと何も知らないくせに」
エレナの敵意剥き出しの視線が俺を射抜く。 なかなかに強烈だが、会話をしてくれる気はあるようだ。
「いやまぁ、そもそも…何も知らないって訳ではないし」
「何を言ってるの? あなたが言ったのよ、会ったことも無いって」
「その通り。 でも偶然…此処に来るまでに、兵士二人の死体を見つけてね」
「……だから?」
「いやキレイなもんだったよ。 殺意の高さは窺えたが…それ意外は普通。 スパッとさっくり、対して苦しんでもいないだろ」
「…………」
「皆殺しを心から望む奴の殺しにしては、あっさりし過ぎてると思うんだけど?」
「……そんなの、何の根拠にもならない」
「でも俺にはそれで十分。 アンタの眼も確認出来てたし」
「何なのその自信…。 決め付けも甚だしいし」
「俺は大概、決め付けることから始めるんだよな」
「………なんて身勝手な…」
「ははっ、このタイミングで褒められるとは思わなかったな」
「褒めてないのよっ!」
エレナは鼻息も荒く、数秒間俺の顔を見つめる…。
「…あなただって、私たちと同じ目に遭ったら…きっとそんな平静でなんて、居られない」
そして…溜息混じりに視線を外し、先程までとは違う殺意の解けた声色で溢した。
「かもな…。 だから、少し聞くのが怖い。 でも、それでも俺は…意地でも殺すのは当事者だけに留めるよ。 …苦しみたくは無いからな」
「苦しむ…?」
「自分を曲げた後悔に。 …多分死ぬより辛い」
俺の偽らざる本心で…生き方だった。
エレナと再び視線が交わる。
何故か口をへの字に歪め、不機嫌そうな表情を貼り付けてはいたが、敵意は感じなくなっていた…。
そして、俺の顔を見ながら深く、深く溜息をついた。
なんて失礼なヤツだ…
「…はあ、 …なんだかな~」
「どうかしたか?」
「いえ、別に…。 …話を聞きたいって言ってたわよね?」
「あぁ」
「何でも聞いてくれていいけど、その代わり私にもあなた達のこと話して貰う。 …一体何者なのか、全部ね」
「いいよ」
俺があまりに軽く答えたせいで、エレナが疑いの眼を向けてくる。
仕方ないだろ、隠す気なんてないのだから。 わざわざ神妙なフリをするなど馬鹿らしい。
「……もう一つ。 話は歩きながらでもいい? もう戻らないといけないから」
「戻るって、何処に?」
「皆のとこ。 …一緒に逃げて来たの」
「……何処から?」
「…最悪の場所。 アイツらは『牧場』って呼んでた」
「牧場…。 嫌な響きだな」
「ええ。 …ホント」
嫌な予感がビンビンする。
あまりイラつかせて欲しくはないのだが…無理かも知れないな…
「…それで、今は追っ手排除の最中だった訳か?」
「ええ。 後、食料もね」
「レイ様」
不意に、リアから呼びかけられる。
しまった。 ほったらかしにしていた…。
「ぉう…ごめん、リア。 どうした?」
「なんで謝るんです?」
「お、おう。 …まぁ、別に」
「…? それより、逃げて来た人がいるなら、
「………なるほど」
……確かに、あそこなら追っ手は掛からないだろうし…リアの言うとおり食料もある。
猿達にも、一度面通ししておく事で襲われる心配は無くせるだろうが…。
ここから拠点まで、一般人の足だと四時間以上は掛かる。 それまで戦況は膠着し続けるだろうか…? 可能性は低い気がする。
そうなると、次第によっては撤退を選んだ貴族らと道行き鉢合わせる事すら考えられた。
そんな損得勘定が一瞬頭をよぎる。
…だが。
「…ベースって言うのは?」
エレナが首をかしげる。
元々自分から首を突っ込んだ事、放り投げるのは気分が悪い。
それに、良く考えれば何も困らない。 戦場に居ないなら、誰に遠慮する事なく倒せば良いだけのことだ。
「…あぁ、アケロスの中腹辺りに拠点があってね。 割とデカい家も建てたから匿えると思うんだが…。 ちなみに、皆ってのは何人?」
「…ん? ごめん、もう一度言ってもらえる?」
「え? 逃げて来たのは何人かって…」
「十人もいないわ。 そうじゃなくて…何処に拠点があるって…」
「アケロス連山の中腹らへんだよ、どうした?」
「はぁ~??」
「…………」
エレナが『嘘つくんじゃねーよ』と表情だけで語る。 ちょっと半笑いなのが、むかつきポイントを爆上げしていた。
普通にキレそうになったが、そのリアクションのおかけで思いだした。
この辺りが、神獣の住まう禁足地だと言われている事を…。
「…神獣の事なら心配ない。 仲良くやってるよ」
「いやっ、え? そんな訳ない、本気で言ってる?」
エレナは俺が冗談をかましたと思っていた様で、平然と会話を進行させる事に随分と動揺している。
「もちろん。 それより、先に皆のいる場所っての教えてくれる?」
このままだとずっと立ち話する事になりそうだ。
「えっ? あー、えと…。 この先の洞穴だけど…? いえ、やっぱり嘘でしょう?
エレナは狼狽えながらも方向を指し示す。 …なるほど、その方向の洞穴って言ったら…。
「その洞穴って…近くに折れた大木があって、入り口のほとんど岩で塞がれてるヤツか?」
「いや、…そうだけど。 どうして分かるの? いやそれより質問に答えてよっ」
「ここら辺は俺達の庭みたいなもんだから。 …あとハヌマンっては初耳だが、もしかして猿のことかな」
「さる…? ちょっと、真面目に‥‥」
「まぁその辺の事はリアに聞いてくれ」
「「え…?」」
リアとエレナの声がハモる。
「リア、頼む。 さっきから俺ばっか喋ってるからさ。 女同士親交を深めるって事で…。 警戒その他諸々は任せてくれ」
そう言って、有無を言わせず先行する。
猿の話になったらオーラの話になって、オーラの話になったら出自の話になって……。
考えるだけでもめんど‥‥ゴホッゴホ。
…いや俺ばかり喋ってたのは事実だし、親交を深めて欲しいのもホントなんだ。
…だから問題ない。 あぁ、問題ない
「ええ…。 私は別に、どちらからでも構わないんだけど…。 えーと…」
「あはは…すみません。 マイペースな人で…。 あの、よろしくお願いします。 エレナさん」
「あ、うん。 よろしく…。 でも、ああいうのは自分勝手って言うんじゃないかな…」
背後でぎこちない自己紹介が行われ、ポツポツと会話が始められる。
その後、まんま俺の想像通りの話運びが繰り広げられ…リアはオーラを信じさせる為に道中の岩を叩き割ったりしていた。
歴史は繰り返すとはこの事。 俺はエレナの驚愕と驚嘆を背中に感じながら歩く。
ただ一つ予想外だったのは、エレナが一番驚いていたのが…俺が十一歳だと判明した時だった事。
場所も憚らず大声で俺をなじって来やがった…。
俺は老けてる訳じゃない。 ワザと身体の成長を促進させているのだ。
むしろ神業と賞賛されるべき事だと言うのに…。
思わぬダメージに、そんな言い訳を誰に聞かせるのでもなく心中で繰り返してしまうのだった…。
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