此処での戦争

 翌朝、まだ朝日が昇ったばかりの平野を俺達は走る。

 

 昨日の様な全力疾走ではない。 これから長い一日が始まることを見越しての、ほとんどウォームアップのスピードだ。


 「それでっ、戦場って具体的にどこにあんの?」

 「西にあるって言う砦だろうな。 俺も行ったことはないから、具体的な場所までは分からん」


 フィオナの問いに、走りながら答える。

 

 バーゼル領は、北のアケロス山に連なる山脈と山々が南北に…国境線の様に伸びている。

 山を越えて進軍するのは、能力者はともかく一般兵士には至難…西に構えられている砦がその舞台となる筈である。


 「そんなので辿り着けるの? 今も道に沿って走ってるだけだけど…」

 「それでいいんだよ。 街道を行けばいずれ着く」

 「へー。 なんで?」

 「兵站の為に整備された道だからだ」

 「…ほー」


 …こいつたぶん分かってねーな 


 なんて、そんなことを考えていると…。


 

 

 

 「…見えた」


 前方に大規模な施設。 全容はまだ分からないが…


 「ここからは気配を消す。 …迂回しつつ、近づこう」


 少ない遮蔽物に身を隠しながら、ゆっくりと近づいていく。 

 

 どうやら軍施設であるのは間違いない。 だが、砦だと言われると疑問符が浮かぶ。 とにかく周りを囲む塀が低く、薄っぺらい…敵の攻撃を想定しているとは思えなかった。 

 俺も軍事に詳しい訳じゃないが、駐屯地と言ったほうがしっくりくる佇まいだ。

 


 「……やっぱおかしいな」


 さらに近づき、疑問が増える。


 施設内には、確かに千人規模の兵士の気配がある。

 

 だが…能力者がいない。

もちろん、気配を消されていたら…この距離からそれを看破するのは不可能だが…。


 今この場面でそんなことをする理由を、俺は見つけられない。


 「…一度離れよう」 

 

 

 施設から十分に距離を取り、二人に向き直る。


 「…で、どう思う?」

 「なにが?」

 「…何故オーラ能力者が居なかったんでしょう? 戦争になれば、貴族は出て来るはずですよね?」

 「そうだな…。 領土の奪い合いを下っ端だけに任せる訳がない。」

 「…ちょっと、何言ってんの?」

 「…それに、建物もイメージと違ってます。 もっと…守りに適ったものを想像してたので」

 「俺もそう思う…。 つまり…」

 「だから、何の話してんの?」

 「………」

 

 …あーもう、うるさい。 付いてこられないなら、せめて静かにしといてくれないかなフィオナくん。


 「…フィオナ、うるさいよ」

 「無視すんのが悪いんでしょ? それよりあっち…ん」

 

 しばらく黙って貰おうと思って顔を向けたのだが…不意に場所を示された。


 フィオナの指差す方に視線を移すと…そこには施設の裏手から、更に西方面へと続く道があって……。


 「道を辿れば砦に着くんでしょ? 早く行かない?」

 「「…………」」


 「…そうだな、そろそろ出発しよう」

 「コホン……ですね」



 …何故だか、泣きそうになった。



 

 


 ほのかに熱くなった身体を冷ましつつ走ること数十分。 眼前に小さく、新たな建造物が見えてきた。


 山間に建てられた…人をき止めるかのように立つ巨大で重厚な防御壁…。

 

 今度こそ間違いなく、あれが目指す砦。


 「おー。あれかぁ…でかぁ~」

 「…ふぅ。こ、今度は…想像通りですね、レイ様?」

 「あ、あぁ。 そうだな、リア」


 俺とリア、何とも言えない表情で顔を見合わせる。


 …全く、まさかフィオナに恥をかかされるとは……


 

 だが、ここからは気を引き締め直す。 ここはもう敵の懐だ…散漫でいる訳にはいかない。


 「…とりあえず、もう少し近づこう。 さっきと同じように‥‥」


 気合を入れ直し、二人に号令を掛けようとしたところで…ふと気付く。


 …なんか、砦の前に妙な建物が建てられてる気がする


 流石に遠すぎて細かくは分からないが、非常に派手な建物だ。 …まるでこの場にそぐわない、そんな建物。


 「…どうしたんですか? レイ様」


 言葉を中断し砦の方を凝視していたことで、リアに気を遣わせてしまった。


 「いや、ごめん…何でもないよ」


 …まぁ、どうなっていようと…進めば分かることだ


 「さっきと同じように…慎重に行こうか」


 気配を殺しながら、ゆっくりと距離を縮めていく。 

 だが進むごとに、目の前の光景はより鮮明になってゆき…

 

 「なーにあれ」

 「…なんだこれは」

 「…貴族の屋敷…でしょうか?」


 …思わずフィオナとシンクロしてしまう。 それほどに、理解が追いつかなかった。

 

 砦の内側に…併設されるように豪奢な建物が建ち並んでいる。 …リアの言うとおり、あれは正しく貴族の邸宅だろう。


 …どうしたことだろうか? またしても、俺が抱く砦のイメージと激しく乖離している。

 無骨な砦と煌びやかな屋敷の、余りに似合わない組み合わせに脳が混乱する。


 「…砦ってのは皆こうなのか?」

 「さぁ? 他の見たことないし」

 「…わたしも、ここが初めてですから」

 「…まぁ、そうだよな」


 混乱から、意味のない質問をしてしまった…。


 もしかしたら此処もまた、本命ではないのかも知れない…そんな疑念が頭によぎる。 


 ……しかしそんな疑心を余所に


 「居るな……」


 砦の中からは…しっかりと能力者の気配を感じる事が出来た。


 「居るって?」

 「能力者。 複数居る、砦の中に」

 「わたしには、まだ感じられませんね」 

 「それは仕方ない。 この距離だからな。 それより…一応西側も確認しておこう。 さっきみたいなミスは、もうしたくない」

 

 この砦は、左右を高い山に囲まれている。 山の頂上に立てば、向こう側を覗き見る事が出来る筈だ。


 


 砦を左手に大きく迂回し…山を登り、山頂へと到着する。

 …砦の西側には高原が広がっており、その更に西にはまた山々が連なっている。


 これより西には、道はないようだ。


 「…やっぱりここが本命みたいだな」

 「…じゃあ此処が、戦場になるんですね」

 「そうだろうな…。 この砦の場所からして、目の前の高原を主戦場に想定してる筈だ」

 「じゃあ良かったじゃん。 まだ戦いは始まってないし、始まってもここからなら全部見れるよ」

 「……まぁ、それは…確かにそうだな」


 周りを山に囲まれているこの場所は、戦闘を観察するのに適している。

 

 まさに絶好の観測地点。 なのだが…。

今はそんな事より…この奇妙な場所が、最前線の要所と確定してしまった事への衝撃が勝る。


 …こんなのが砦なのか? 本当に…


 「…二人はここで待っててくれ。 俺はもう一度様子を見てくるから」

 「えー。私も行きたいんだけど」

 「駄目だ。 次はさっきよりも深く踏み込む。 …人数は最小限で、だ」

 

 言い終わる前に歩き出す。 


 問答をするつもりはなかった。 中に能力者がいるなら、慎重過ぎるくらいで丁度良い筈だ。




 砦へと最接近する。 


山から見下ろすことで、敷地内が良く見えた。


 砦防御壁の上に歩哨が三人、いずれも普通の兵士だ。

 …そして、砦内部に能力者が…恐らく十人。 この距離だと人数を知るので精一杯。

 十人という数が多いのか少ないのか、それを判断する事は今はまだ出来ない。 判断するだけの材料はない。 

 

 …だが確実に言える事が一つ…この砦は、やっぱりおかしい…。



 …人が


 

 一体何人だ? 敷地内には百人程しか居ない。 しかも驚くべき事に、その殆どが非戦闘員だ。

 今も眼下のを忙しなく走り回っている。 …メイド服を着て…だ。


 …こんなものが軍施設と言えるのか?


 道中にあった基地…あれと中身を入れ替えたなら、正に俺の想像する砦となるのだが…。

 今はガワだけ変えた貴族の避暑地と言われた方が、まだしっくりときてしまう。

 

 ………わからん


 どういう理屈でこうなっているのか、まるで分からない。

 

 

 

 理解出来ない敗北感と、何とも言えない気持ちの悪さを抱えて…二人の元へと帰る。 

 …ここに居ても溜め息が出るだけだ。


 「ふぅ…。 ただいま」

 「おかえりー。 どうだった?」

 「…どうって、能力者は多分十人だろうな…。 警備はめちゃくちゃ薄かったぞ。守る気があるのか、もう俺には分からん」

 「……レイ様、何かあったんですか?」

 「あぁ。 ちょっともう分かんなくてな。 …兵士が殆ど居なかったよ、ほんの数十人だ。 あとは皆、メイドか使用人」

 「…めいどってなに?」


 …今はそんなとこに引っ掛からないで欲しいな、フィオナさん


 「…お手伝いさんみたいな感じだよ、女性のな。 …てかそんな事はどうでもいいんだよ。 何でこうなってんのか考えたいんだから」

 「どうでもいいって言われてもね。 そもそも私には、あんたが何を悩んでるか分からないし」


 …そりゃお前がフィオナだからだろ


 「…敷地内には貴族の屋敷が建ってて、働いてるのは殆どが非戦闘員だぞ? …言ってる意味分かるだろ?」

 「意味は分かるってのっ。 何が問題か分かんないって言ってるんだからっ」

 「そりゃお前がフィオナだからだろっ」

 「はぁ?! 喧嘩売ってる??」

 「リアっ。 …言ってやってくれ」


 これ以上やり合っても仕方がない。 

後はリアに任せる。と、そう思って話を振ったのだが…


 「は、はぁ…えと、何を言えば…?」


 リアも、呆けたような顔を俺に向けた。


 …ウソだろ?


 「…リア。 お前もあの砦は見ただろ? あんな変で…しかも兵士も居ない。…な?」

 「そ、そう…ですね? うーん…わたしは、こんなものだと納得しましたけど…。 貴族の居る所ですから…。 兵士も…最低限居ればいいのかなと、思いますし…」


 …なに?最低限?…違うだろう


 「最低限もいないよ。…数十人だって言ったろ?」

 「だから、十分でしょ?」

 

 フィオナが困ったような顔で俺を見る。


 「…なんで?」

 「だって…必要ないでしょ」


 …? 

 

 戦争だぞ…?    

 兵士が必要ない訳が………………………



 



 …おい




 マジか…

 



「…必要…ない?」

 

 …クソっ。 馬鹿過ぎる…


 「…うん。 そんなにいたって、あー…どうすんの?ってかんじ?」


 …知っていたはずなのに、オーラの性能っやつを…


 「………そうか…兵士は、必要ない」


 …思い込みだ。 俺の記憶が、勝手にイメージを作り上げた…


 「…でしょ?」

 「あぁ。 戦争に…兵士は参加しない」


 …此処が別の世界だってことも忘れて…


 「参加しないの? ちょっとはするんじゃない?」

 「いいや…。 しないね。 フィオナの言う通りだよ、兵士は必要ない」


 …そうだ。 オーラを使える者とそうでない者との距離は…まさに隔絶している。

 銃器や爆弾がある世界とは違うんだ。 剣と弓で、どうやって能力者を傷つける?


 …不可能だ。


 オーラを覚えて二年ちょっとのフィオナだって、さっきの基地を一人で壊滅出来る。


 無意味だ。 …全くの無意味。

 兵士を何千人殺しても、戦況には何の影響も与えない。

 …ならば、兵士を参戦させることに意味はない。



 「…二人は分かってたんだな。 …兵士が参戦することはないって」

 「いや別に、私は全く参加しないとも思ってなかったんだけど…」

 「わたしも…なんとなくオーラ能力者は、オーラ能力者にしか対象出来ないと、漠然と考えていただけで…そんなに深くは…」

 「いや、十分だよ。 なんせ俺は…ついさっきまで、戦争は貴族と兵士が仲良くくつわを並べてやるもんだと思い込んでた」

 「えー。 なんか、謎な発想だね」

 

 …謎の発想…。 …ホントそうだな


 「…でも、それこそ二人のおかげで…色々謎が解けたよ」

 「謎…ですか?」

 「あぁ。 例えば…戦争が稀にしか起こらない理由、とかな」

 「…そんな話してたっけ?」

 「昨日、父さんが言ってたろ? 親父の代で1度だけって。 実は少し気になってたんだ、少なくねぇかって。…でも、今なら分かる。 やりたくないのさ。 …人任せに出来ないから」

 「人任せに…?」

 「あぁ…。 農作業だろうと何だろうと、貴族なら指示を出し…人にやらせる事が出来る。 …だが戦争は、そうはいかない。 自分の前に数千人の兵を並べたところで、どれ程の盾になる? 相手の能力者に引き裂かれるだけだ」


 …そう。 彼等は、恐れている


 「…戦争だけだ。 恐らく、唯一…戦争だけが、彼等が人任せにも、誰かの後ろに隠れていることも許されない。 …自らが最前線に立つことを強制される、唯一の物事」


 …死と、苦痛の脅威が付き纏う…戦場を


 「だから滅多に起こらない…死にたくないから。 …そして滅多に起こらないのに、能力者は前線を離れられない。 だから居住空間だけは充実していく…この砦みたいに」

 「ほえー。 なるほど…」

 「…死にたくないから…。 そうですよね、誰だって…当たり前のことなのに…」


 リアの瞳に哀しみが宿る。 彼女の境遇を考えれば、仕方がないことだが…。


 「リア…。 大丈夫か?」

 「…はい。 もちろん、大丈夫です。」


 「……………」


 俺の言葉には笑顔で応えたリアだったが、その後すぐに黙り込んでしまう。


 「…ど、どうした?」

 「いえ、少し気になることがあって…。」

 「おう…。 なんだ…?」

 「今のレイ様の話を聞いて、わたしも…考えてみたんです。 貴族の事、兵士の事。 そうしたら疑問が出てきて…。 …さっきレイ様言ってましたよね? 兵士は必要ないって。 でも、兵士はいるんです…ここに来る前にも何千人って人数が…。 それが気になって」


 とりあえず、何か深刻な悩みとかでなく安心する。


 …そして、リアの疑問はもっともだ。 必要のないものは淘汰される。 …そうでないなら、需要があるということ。


 だが俺は、さっきの話と矛盾するようではあるが…自分なりの答えは得ていた。


 「…リアは何でだと思う?」

 「…レイ様は、分かってるんですね」

 「考えはあるな」

 「ホントに~? 実はわからないからリアに聞いてたりして」

 「いいから…。 フィオナもちょっと考えてみろよ」

 

 俺の言葉に、リアは唇に指を当て…真剣な表情で考えを巡らせている。


 「……戦わない、 のに……必要……だから」


 一人呟いていたリアだったが、不意に顔を上げ…


 「つまり…必要なのは、戦いの後…?」


 …俺の顔を見て、答えた。


 「…多分ね」

 「ほー。 つまりどういうこと?」


 フィオナが、今も全く考えてなかったくせに質問する。

 

 …興味あるんだか無いんだか、分からん奴だ。 まぁ何だかんだ聞いてはいるけど…


 「…例えば、俺達三人で…このバーゼル領を出来るか?」

 「…支配」

 「この領地の状態を、貴族に変わって維持できるのかって…そう言い換えてもいい」

 「…きっと、無理です」

 「そう…。 無理だ。 支配どころかその前段階…制圧がそもそも出来ない」

 「………人数が足りないから」

 「あぁ。 敵地に入り、広大な土地を面で押さえ…制圧する。 これは俺達じゃ出来ない。…もちろん貴族達にも。 力だけじゃ不足してる。…必ず一定の、数が必要になる筈だ」

 「…つまり………どうゆうこと??」

 「つまり…役割分担ってこと。 貴族に出来ない事を兵士がする。 考えてみれば当たり前の事だろ?」


 貴族同士の戦闘に兵士は役に立たない。 だが、敵貴族を倒した後の敵地の掌握は…貴族だけでは完成しない。


 貴族が道を拓き、兵士がその道を通り…地に根を下ろす…。


 …完全なる役割分担。


 「道中の基地があんな半端な場所にあったのにも、意味があったんだよ。 …あいつらの出番はまだ先って事でな」

 「なるほど…。 ……きっと合ってます。 わたしも、そう思います」

 「…だろ?」


 俺は今の推理が当たってると確信しているが、まぁ別に外れていても構わない。

 

 …今俺はとてもスッキリしている。 …それで十分だった。

 

 「二人とも頭回るねー」

 「……フィオナ。 …お前は考える素振りぐらいはしろよ。 最後、『どういうこと?』しか言ってねぇじゃねーか」

 「えー? いーよ私は。 聞いてるだけでも面白いし」

 「本当かよ…」

 「ホントだってっ。 だからちゃんと話聞いてたでしょ? …それよりどうすんの? これから」 

 「…なにが?」

 「だから、これからの事。 結局ここが目的地でいいんだよね? 戦いが始まるまでやる事なくない?」


 …よく分かってるじゃないか。 その通り、やる事なんてない


 「そうだよ。…気配を消して待つしかない」 

 「えぇーー」


 フィオナの顔が苦痛に歪む。 …そんなに嫌か…。


 だが、我慢してもらうしかない。 この場で出来ることは限られている。 

 『諦めろ』と、フィオナに言おうとしたその時…微かな音を感じた…。


 俺は人差し指を唇に当て、二人に静寂を求める。……そして、聴覚に意識を集中させて…。


 

 …恐らく、馬が駆ける音


 …この辺りが山に囲まれているおかげで、反響した音がこちらまで良く届く。


 「…誰かが馬でここに向かってる。 …見に行こうか」


 二人に目をやり、追従を促す。


 「なんで分かるのよ…。 相変わらず人間辞めてるわね」

 「流石です…」

 

 山から俺達の通ってきた道を見下ろす。 …遠くに人影が見えた。 人数は三名だ。


 「…何者でしょうか?」

 「それは分からない、が…。 貴族ならありがたい」

 「…ですね」


 オーラを見ればおおよその戦闘力が分かる。 …早く、この眼で貴族を見たかった。


 

 やがて人影は近づき、ハッキリと…全体を視界に収める…。


 

 …貴族だ


 能力者は一人だけ、だが先頭を馬で駆け…身長二メートル優に超す大男は、間違いなくオーラを纏っている。


 ……しかし。


 

 「……なんか、弱そう」

 「……………うん」



 二人がそう溢すのも無理はない。 ……それ程に、つたないオーラ…。


 体格が良く、オーラも量だけはある。 …だが、それなら猿達と同じだ。

 

 まるで、脅威を感じない……。

 

 

 …これが、貴族?


 

 失望を隠すことが出来ない。 裏切られたとの思いから、理不尽な怒りさえ覚えた…。 


 だが、男が更に近づくことで…。

 


 男に、絡み付くかのように漂う“未知の力”が……知覚に触れる…。



 ……アレは!?


 瞬間、目を見開き…衝撃で気配が漏れてしまいそうになる。

 

 …そして、自然と口が綻んだ…。



 そうか……ここで来るのか…



 ──自分のに感じたこともないエネルギーが存在している──

 


 ずっと、感じていたのに…オーラを覚えた後でさえ、触れることが叶わなかった…。



 『大気に溢れる…もう一つのエネルギー』


 


 「…二人共、油断すんな? あいつは見た目程弱くない」

 「えっ? …なんで?」

 「前に話したことあったろ? オーラとは違う…もう一つの力の事」

 「…はい。 わたし達の周りに在る…。 わたしはまだ、ほんの少ししか感じられないですが…」

 「私はまったく分かんないアレ?」

 「…それじゃあ…?」

 「あぁ…。 あの男の周りを渦巻いてる」

 「……………」

 「…マジ?」

 「面白い事になってきたな」


 想像とは違ったが、ある意味では想像以上の事態だ。

 恐らく、貴族は俺達とは全く違う“進化”をしている…。


 …ははっ。 どうにも笑いが押さえられない。 

 どうしても分からなかった力の正体。 それが…ヒントどころか答えが目の前にある。


 

 見せてくれ…。 全部、俺達のものにしてやるから…



 期待の大きさに比例して、時間の進みは遅くなる。



 …少しだけ、フィオナの気持ちが分かった気がした…。


 

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