支配する者される者
「ただいま」
そんなことを考えている内に我が家に辿り着き、扉を開く。
「おぉ、帰ったかレイモンド、もう直ぐ晩飯だぞ」
「……ぁー…」
帰宅早々、父親のエドウィンに声を掛けられた。
…しかし、何度言っても改めてくれねぇ
「どしたーレイモンド? 調子悪いんかぁ?」
俺は
「…父さん レイって呼んでって、何回も言ってるでしょ?」
「まぁーたそれか、 しつこいなぁお前も。だいたいあんなに気に入っていたじゃないか? なぁ?母さん?」
「え~? そうねぇ、レイモンドぉって呼んだら嬉しそうに返事して、とてとてこっちに歩いてきて、とっても可愛かったわね~」
話を振られた母親のアンナが、食事を机の上に並べながら応え…。
「てかレイモンドのどこがイヤなのよ、あんたもしかしてバカなんじゃない?」
姉のフィオナ(十歳)が聞かれてもいないのに参戦する。
「………」
こいつらぁ、ふざけやがって… レイモンドで良いわけないだろうがぁ レイモンドでよぉ…
いや、別に他意はないんだ、レイモンドって名前を馬鹿にする気はない、本当だ。
ただ俺の意識と乖離しすぎている。 俺の記憶が拒絶を示すんだ。 だって俺はレイモンドって感じじゃない。 …そうだろう?
だから、何度もお願いしてるというのにこいつらは、俺の記憶にない頃の思い出で煙に巻き、果ては普通に馬鹿呼ばわりだ。
この頑なさ…もう諦めたほうが良いのかもしれない。 俺も毎度訂正するのがしんどくなってきていたし…。
これが親と子、あと姉の覆せない上下関係というものなのか…
おもわず、フッ っと乾いた諦観の笑みを浮かべてしまった。
「レイモンドー ご飯の準備出来たから、アルちゃん連れて来てちょうだ~い?」
「……分かったよ」
…アルちゃんとは、弟のアルフレド(三歳)のことだ。 何故アルフレドのことは略して呼ぶのか? …そこはかとない理不尽を感じざるを得ない。
まぁ、弟のことは嫌いじゃないので、少しくらいの世話焼きはしてやらないでもないが。
俺は部屋の隅で一人、木人人形で遊んでいるアルフレドに近づき声をかける。
「アル。 ご飯出来たから兄ちゃんと一緒にいこうな」
「ん~おー! わかった~レイお兄ちゃん」
これだぁ。 アルだけは俺の言うとおり素直にレイと呼んでくれる。 まったく良いやつだよこいつは。
そして、家族五人が席に着き…
「よ~しっ 皆揃ったなぁ。 それじゃあ、…今日も女神シェーラの恵みに感謝を!」
「「「女神シェーラの恵みに感謝を」」」「かんしゃお~」
祈りを捧げ、
ちなみに女神シェーラっていうのはこの国で、いや…この大陸のほとんどで信仰を受けている神様である。
知識や豊穣、秩序や倫理…そんなものを司っていて、彼女が興した宗教がこの国の国教でもあるらしい。
…そして、俺が今いるこの国は『アルスト神皇国』って名前で、シェーラ神の兄弟だか、夫婦だかの、…
この世界の神話にはまだまだ馴染みがないが、まぁよく知らないうちから否定するつもりはなかった。
…積極的に信仰するつもりも、当然ないのだが。
それにしても…
自身の目の前に並ぶ相変わらずの料理に辟易する。
麦と雑穀の粥、あとは乾いた肉。
これじゃ話にならない。 オーラを習得した今、一番に取り組むべきはこの食生活の改善。
早速明日から始めよ。 とそう考えていると…
「あー、そういやレイモンドよ。 お前最近一人で何やってんだぁ? 馴染むのも仕事の内なんだから、ダズんとこのガキも最近お前と遊んでねぇって寂しがってたぞ」
エドウィンの小言が始まってしまった。
…面倒くさい。
「…ちょっと一人でやりたいことがあったんだよ」
ダズんとこのガキって…
…ダズラオのことか。 家が近いからっていちいち絡んでくる面倒な子供。
最近と言わず、ずっと疎遠でいたいものだ。 子守りをするのは、弟のアルだけで十分というもの。
「あんたねぇ 一人で遊んでたって何にもなんないのよ? 社交性って言葉知ってる? わたしが友達紹介してあげよっか?うん?」
「………」
姉のフィオナは華麗に無視しておく。 大体こいつの口調は、誰の影響だ? アンナはこんなんじゃないってのに。
エドウィンは俺より、こいつの交友関係に気を回したほうがいいな。間違いない。
とにかく、この話題は終わらせよう、面倒だ。それに、丁度聞きたいこともある。
俺は食事を摂りつつ、エドウィンに質問を投げる。
「なぁ、父さん。 この世界で一番強い人って誰だと思う?」
「お? なんだぁ急に。 そうゆうのに興味持つお年頃か?」
「…で、誰が最強だと思うの?」
「そりゃあ… 最強って言うなら…神皇陛下じゃないかぁ? …いや、陛下は戦わないか…。 じゃそうすると、ロアーツ将軍ってことに…。 おぉ、改めて聞かれるとわりと難しいなこりゃあ」
なんとなく信用ならないが、実名が出たのは有り難い。
「…その人達って、今も生きてるってことでいいんだよね?」
「おまっ 当たり前だっ。 この国を治めてる尊い方たちだぞ。 呼ぶときは陛下を付けろよっ陛下をっ!? ロアーツ将軍を呼ぶ時にもわすれるなぁ!? あれを、あれ…なんだっけな」
「閣下、とか?」
「あ、それだ。 良く知ってるなレイモンド、流石だ」
こんな事で褒められてもね…。
だけど、少し雲行きが怪しくなってきた。 俺の想像する“最強”と、エドウィンが言っている“最強”は、多分、全然種類の違うものだ。
「父さん。 俺が聞きたいのはそういう、権力とか軍事力とかじゃなくて。もっとこう…個人的な戦闘力が聞きたいんだよ。 一人で何人も相手取ったりとか、そういった類いのもの」
俺が改めて問いただすと、エドウィンは何故か、頭に疑問符が刺さったような間抜けな顔を向ける。
…しまった。 ちょっと大人びた口調が過ぎたか?
そう考えているとエドウィンが口を開く。
「だからそう言ってるだろ? 一番強いのはやっぱりロアーツ将軍閣下だ。 多分間違いねぇな」
「…なんでそう思うの?」
「なんでって、 さっき言ったろ? ロアーツ将軍は陛下の右腕でって話で…それで、多分凄く位の高い貴族だ。 …だからだ」
さっきは言ってなかったし、意味もわかんねーぞエドウィン。 酔ってるのか?
「見たこともないんでしょ? なのにどうしてそんな風に言えるの?」
「だー! しつこいなレイモンドぉ! 反抗期かぁ?!」
「ちょっとお父さん。 レイモンドはまだ貴族のことをよく知らないんですから」
…貴族のこと? 気になる表現だ…
「…母さん。 貴族だと強いの?」
エドウィンは放っておいて、アンナに問いかける。
「そうよレイモンド お貴族様は私たちにはない力を持ってるの。 手で大きな岩を砕いたりとか出来るんだから。 あなたが大人になるまでには、見る機会があるかもね?」
「…手で岩を砕く、大袈裟に言ってるわけじゃないんだよね?」
「えぇもちろん。 あなたも自分で観たら分かるはずよ。 お貴族様は私たちとは違う───神様に選ばれた方々だってことが…。 楽しみにしていなさいね?」
「……………」
「さっ、食べないとご飯冷めちゃうわよ?」
微笑み、アンナが再び夕食に手をのばし…エドウィンもそれに続く。
俺はそれを横目に、一人得心を得ていた。
なるほど、それがこの世界の支配構造か…
しかし、今の言が正しいのなら、貴族は皆オーラ使いということになる。 信じがたいことだが、あり得ないなんて考えるのは愚か者のすることだろう。
俺はまだこの世界に生まれ落ちて七年ちょっとしか経っていない。 対してこの世界の住人は何百、何千という年月をこの地で過ごしてきたんだ。 俺の知らない知識や技術体系など、あって当然。
だが… 予想以上の情報を得た。
─この世界、想像以上に興味深い
だがまぁ、貴族のことは追々でいいだろう。
今はただ、自分自身を鍛えたい。 そのためには、そう。 …食育だ。
明日は狩りだな
…俺は、心の中で呟いた。
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