家族

 ──バンッ…!



 家の扉を勢いよく開ける。


 「父さん。 小銀貨十枚って大金? うちにはある?」


 俺はエドウィンの姿を確認すると、何の脈絡もなく話を切り出した。


 「おいおい…。 なんだ急に騒がしい。 まずはただいまを言え~ただいまを。」

 「あー…ただいま。 急だけど今すぐ聞きたいんだよ」

 「おう、おかえり。 もう直ぐ昼飯だ、食べながらでいいだろ?」

 「いや、それじゃだめなんだ」


 俺とエドウィンの目が合う。 俺は逸らす事なく見続ける。

 二秒ほど視線を交わした後、エドウィンは視線を切って溜息をついた。


 「はぁ… 頑固だなぁお前は。 それで?何の話だっけ?」

 「小銀貨十枚がうちにはあるのかって」

 「小銀貨十枚だぁ? 大金だなそりぁ。 まぁうちに有るか無いかって言われりゃ、もちろん有るさ。 サレオン村一番の農家なめんなよ?」

 「やっぱ大金か… ちなみにお金ってどうやって稼ぐの?」

 「どうやってって…そりぁ一番の稼ぎと言えば麦しかねぇだろ? 領主様に納める分と食べる分、あと保管しとける分を除いた…まぁいわば余りを売ってるわけだ」 

 「それって年にどれくらい稼げるものなの?」

 「どうだろうなぁ収穫によって変わるから。 不作なら全く稼げない年もあらぁな」

 

 作った農作物の余剰分を売る。 まぁ大方予想通りというか、それ以外ないだろうなという感じだが。

 しかし、だとすると小銀貨十枚って相当大金じゃないのか? この家の毎日の食事は知っている。余剰分なんてそんなにあるとは思えない。

 


 ……それなら、やっぱ選択肢はないか



 「じゃあ毛皮は? 動物の皮は売れたりしない?」 

 「皮ぁ? 皮なぁ、そりぁ売れはするだろうが… なぁレイモンド、これが急いで聞きたいことかぁ? 内容は農家の息子らしくて嬉しくもあるがよぉ、そんな感じでもないだろ? 銀貨十枚なんて具体的なことまで言って…欲しい物でもあるのか?」


 核心に迫る質問だが、俺は偽らず答えることにした。 

 ……この後の行動は、既に決めている。

 

 「…デールっていう奴に仕えてる、奴隷の女の子を買い取りたい」

 

 俺がそう答えると…


 「ハァッ?! なんた何言ってんのよっ!?」


 今まで興味なさげに椅子に腰掛けていたフィオナが、声を荒げ立ち上がった。

 

 …相変わらず突然会話に割り込むやつだ。そして今は、いつも以上に相手をしてる暇がない。


 「…姉さん 今はちょっと静かにしといて欲しいんだけど」

 「しない! だってあんたバカだから! 奴隷の女なんて買ってなにすんの?! 何の使い道もないのにっ!」

 「…そんな言い方は嫌いだな、俺は」

 「なによっ! かっこつけんなっ子供のくせに‥」

 「はーいっそこまで。 流石に口が悪いわよ?フィオナ?」

 「んぐっ…だってお母さん…あいつが」

 「今はお父さんに任せて、…ね?」


 パンッと両手を打ち鳴らし、ヒートアップした場をアンナが冷やした。

 普段はおっとりしているが、彼女の落ち着いた態度はこういう場面では頼りになる。


 エドウィンは何も言わずにじっと俺の眼を窺うように見つめていたが、数秒の後口を開いた。


 「奴隷の女の子かぁ…なるほど、それで銀貨十枚… それで、誰が主なんだって? この村に女の奴隷を買おうなんてのがいるとは思えねぇが」

 「デールって奴だよ。 やっぱり女の人の奴隷は珍しいんだね、僕も今日初めて見たけど」

 「そりゃあな、フィオナじゃないが、労働力が男に比べて数段落ちる。 俺達みたいな農夫にゃあ過ぎたもんだろうさ。 だがまぁ…デールかぁ、なるほどデールねぇ」


 エドウィンは何故か納得したような声色を出しながら考え込んでいる。


 「デールならあり得るってこと?」

 「ん?あぁ。 デールなら、というより親のデイモンならって感じだが。 というかレイモンドぉ、お前なんでデールのこと知らねぇみたいな口ぶりなんだ?」

 「口ぶりもなにも、本当に知らないんだけど。 会ったのも今日が初めてだし」

 「会ったのはそうかもな。 でも俺が聞かせたことはあるはずだぞ? 特にデールの父親のデイモンって男の家は、この村で我が家に次ぐ二番目にでけぇ農家だからな」


 …二番目の農家がどうのという話は、確かに聞いたことがある気がする。だが興味がなさ過ぎて聞き流していた。

 

 しかし村の二番手か、デールのあの意味不明な敵対心はそこに起因してるのかもしれない。


 「…だから、うちの家を敵視してるってこともあるのかな?」

 「敵視? …あるかもな。 デイモンの奴はよく俺の家をライバルだっていってるよ。 まぁ俺だって負けたくないって思ってるから、お互い様だが」


 ゴホンっと咳払いをして、エドウィンはそこで一度話を区切る。


 「…それで、さっきの話だが…。 デイモンのとこならあり得なくはないな。 奴ぁ最近収穫量を伸ばしてる、特に去年は最高だったはずだ。 そんで、一番跳ねたのが息子のデールが面倒みてた農地だってんで、村中に自慢してたよ。 あいつは親バカなとこがあるからなぁ、経緯は分からんが…買い与えたんだろうよ」


 さぁて と、エドウィンは呟き、俺と今日何度目かの視線を交わす。


 「…で、どうして買い取りたいなんておもったんだ?」

 「……俺が耐えられないから。 彼女が奴隷でいることが、我慢出来ない」


 本心を伝えた。 


 「それって好きってことぉ?」


 フィオナが、あざけるような口調でまたも割り込む。

 

 「そうは言ってないだろ?」

 「じゃあどういう訳ぇ? それしかないでしょ? でも残念~奴隷と結婚なんて出来ないから! そばに置いとくだけでもドン引きするよ?! 村の女の子!」


 どうして、こいつはこうも人の心を逆なでさせるのか。 それが分からない。


 「フィオナ。 ちょっと静かにしろぉ?」


 今度はエドウィンに諫められ、渋々一歩下がる。 だがその怒りは治まらないようで、その眼は俺をずっと睨んでいた。


 「あーレイモンド、理由は分かった。 いや、俺も全部は理解してやれねぇが、それでもお前が優しい子だって事はわかった。 だから言いづれぇが…」

 「うん、分かってるよ。 お金を用意出来ないってことは」

 「おん?」


 そう、分かっていた。 この会話が始まってからすぐ、いや…何なら始まる前から。


 小銀貨十枚。家にどれ程の蓄えがあったとしても、それはおそらく非常用。

 七歳のガキがどんな理由を並べ立てたところで、引き出させることは出来ないだろう。

 

 でもそれは、なら、当然そうなるってだけのこと。


 「皆、俺に付いてきてくれる? すぐそこ家の裏まで」

 「なんだまた突然、皆ってのは家族みんなってことかぁ?」

 「そう。家族皆 アルはまぁどっちでもいいけど。 …お願い、すぐ済むから」


 そう言って歩き出す。 背後でフィオナが暴れてる音が聞こえてくるが、全員付いてきてくれてるようだ。 


 家の裏手に回り、そのまま三十メートルほど歩き、立ち止まって、振り返った。


 困惑、怪訝、怒り、様々な顔が見えるが、その一切を無視して語り始める。


 「ねぇ、昨日の夕食での会話でさ、貴族の話が出たよね? 俺達にはない、神様から授けられた力を持ってるって。 父さんと母さんは直接その力を見たこともあるって、確かそんなことも言ってた」


 父と母を見る。 二人は、それがどうしたんだ って表情を浮かべて、俺の言葉の続きを待っている。


 

 …だから俺は、呼吸を整え…身体により一層力強いオーラを纏う。

 


 「それってさ…… じゃなかった?」


 言いながら、俺は右腕を軽く掲げる。


 事前の説明なんて不要。 どれだけ言葉を尽くすより、見せた方が話が早い。


 そしてそのまま…振り下ろされた拳は


 

 地面に突き刺さり───


 ─ドゴォォッ!!


 ───大地を、激しく揺らした


 

 叩きつけられた右拳は地面を抉り、その拳から伝わるエネルギーは地面の中で行き場を失い…周りを吹き飛ばす。


 俺の拳は、大地に深さ二十センチ程のクレーターを創り出した。

 

 

 「───なっ─」

 「──えっ?…」

 「───っなに‥‥」


 言葉にならない声を聞きながら、立ち上がる。


 今の俺じゃこの程度。 貴族が二人に見せた力には及ばないだろうが、果たして……

 

 「…どうかな? まだまだ弱っちいけど、貴族しか使えないはずの力を俺は使える。 だから…提案したいことがあるんだ」

 

 「「「……………」」」

 「お兄ちゃ…」


 俺の言葉に誰も反応を示さない。 唯一事態を飲み込めていないアルだけが、不安そうな声を発して俺と家族を交互に見やる。


 「…驚かせてごめん。 信じられないかもしれないけど、でも…今見た通りだ。 この力は別に貴族だけのものじゃない。 だから、話を聞いてほしい」


 …今の俺は、喋り方、態度、その雰囲気も、何から何まで七歳という年齢を逸脱している。

 その自覚はある。 だが、もう止まれない。


 彼等は、俺を見てどう感じているんだろうか? 突然異能を目の前で使い、歳にそぐわない振る舞いをする息子に、兄妹に。


 怖いだろうか? 気持ち悪いと思うだろうか?


 どんな反応だろうと受け入れる。 そして、もし必要なら俺は彼等の元を去ろう…。 たとえ今回そうなったとしても、時期が少し早まっただけのこと。 

 …俺はこの村で生き続けるつもりなんて、さらさら無いのだから。

 

 彼等のことは嫌いじゃない。 四年共に過ごしてきて、情もある。


 だがそれでも、俺は…俺でいることを辞めるつもりはなかった。



 「…レイモンド、お前‥」

 「─よ、それ…!」

  

 しばらくの沈黙を破ったエドウィンの言葉を、震える声が遮った。



 ……フィオナ?



 「─なによそれッ!! っ意味わかんないッ!! ふざけんなッ!こんなっ おかしいよッ!? なんでそんなことになんのッ!? なんでッ!?なんでッ!なんでぇッ!? 変だよッ!? おかしいよっ……そんな……ッ…」


 フィオナが大声でまくし立てる。 声を震わせながら…でもその瞳は、しっかりと俺を睨みつけている。


 …分からない


 元々、事あるごとに突っかかってくる奴だった。何が気に入らないのか分からないから、いつも適当に受け流していた…。


 でも今日は、いつもとも様子が違う。 彼女が何に対して怒りを覚えているのか、その源泉が分からなかった。


 「…姉さん、何をそんなに‥」

 「ッ──あんたはッ! 私の弟なんだよッ?! …私のッ!」

 「──っ…」

 

 普段とは違う、悲痛ともとれるフィオナの表情に、思わず言葉を詰まらせてしまう。


 …その瞳は、いつの間にか涙で滲んでいて…。


 「なんでっ…こんなになるのよっ! なんで……ぅグスッ…ぅ おかしいよっ、あんたっ……いつもでっ、どっかいってぇ…うぅ…変なことゆって… なんでっ……ぁう…そんな、……うぅ……大人みたいな顔しないでぇっ……」

 

 …フィオナ、 お前は……

 

 「フィオナっどうしたの? 大丈夫だから! ね? 大丈夫…大丈夫よ」


 泣きじゃくるフィオナをアンナが抱き寄せる。 でもそれでも、一度堰せきを切った感情は溢れ続けて


 「うっ……ぅ…だってっ、…私はレイのお姉ちゃん、なんだよっ……グスッ…お姉ちゃんなのにっ…ぁぅ、怖いのっ、お母さんっ…ずっとっ、レイがっ…レイが、どこかに、いっちゃいそうでぇ…ぅ…ずっとっ…もう、帰ってこないかもってぇ…ぅ…怖いのぉ…」



 …なんてこった… 

 

 信じられない。



 彼女は…俺の本心に気づいていた…?

 

 ……たった一人、フィオナだけが。


 「大丈夫だいじょーぶ。 よしよし。もう、そんなに泣いて、どうしたの? レイモンドがどこかに行くわけないでしょう? …だってレイモンドは、『家族』なんですもの。ね?」

 「うぅ…だってぇ……グスッ…」

 

 思わぬ不意打ちに、一瞬言葉をなくす…。


 「…そうだな、レイモンドは『家族』で、俺の息子だ。 それだけは、絶対に変わらねぇ。」


 そこに… 娘の…フィオナのことを見て、しっかりしなければ なんてことを考えたのだろうか。


 「…ったく、異常に賢い子だとは思ってたけどよぉ、まさかこんなことになってるとはなぁ…それで? 色々話してくれるんだよな?レイモンド」


 エドウィンがさっきまでとはうって変わった、毅然とした様子で問いかけてきた。

 

 

 ……家族


 俺にとって家族は、…もう会うことも出来ない人達だけだと、そう思っていた。 だけど…


 …新しい、家族…か。


 

 …はぁ っと心の中で溜息をつく。 正直に言って、不本意だ。 


 俺は…家族相手だろうと遠慮はしない。彼等の為に、自分の成し遂げたいことを諦めたりしない。

 だから前の家族にも…与えた幸福より、与えてしまった不幸の方が、きっと大きい。


 だけど、そんな俺でも、自分の大切な存在をないがしろにするのは、それなりに堪えるわけで…。


 

 …家族なんて、俺には居ない方がいいってのに


 

 「…父さん、聞きたいことは沢山あると思うけど、今は…話を戻してもいいかな?」

 「話を戻す? 何に?」

 「…奴隷の女の子のこと。 元々はその話だったでしょ?」

 「あっ…あー、そういやぁそんな話だったか。 …そうだったな」


 やっとここまで来た。 

 だがスムーズに進んだ方だ、フィオナのお陰で、皆が気持ちを一度飲み込んでくれたからだろう。


 「それじゃ…。 お金の事なんだけど…家にある銀貨を使えないのって、それが非常時のお金だからだよね? 食べる物がなくなった時に、家族が飢えないように」

 「…その通りだ。 作物は、毎年同じように実を付けるわけじゃねぇ。 奴隷が…病気で死んじまうことだってある」

 「…そうだよね。 でも、俺がいたらそうはならないよ」 

 「? どういう意味だ?」

 「父さん。 俺は今日、父さんが危ないから行くなって言ってた森に行って、狩りをしてきた」

 「おっおい。 そりゃあ‥」


 異議を挟もうとしたエドウィンを右手で制止して、話を続ける。 

 

 「今見たでしょ? 俺には貴族にしか使えない筈の力が使える。 だから、貴族じゃなければ行けない場所にも行ける。 実際、今日村から出て、森で狩りを終えるまで一時間もかかってないよ」

 

 エドウィンだけじゃなく、家族全員が俺の話に耳を傾けている。 フィオナも、ぐずつきながらも話は聞いているようだ。


 「…今日は、狩った動物はそのまま森で食べた。 …でも、明日からは持って帰ってくるよ。 獲物も、山菜も、家族全員分。」


 エドウィンが目を見開く。


 「そしたら、飢える心配なんて無くなる。 毎日、乾いた肉を食べる必要も無くなる。 それで、残った毛皮は売ってしまえば良い」


 エドウィンの喉が鳴った。


 「どう? そしたら、お金はそこまで必要じゃなくなる。 でしょ?」


 一瞬の静寂。 そして…


 「っ…レイモンド、そりゃあ確かに…すげぇな。……凄いことだ」

 

 エドウィンの声に喜色が宿る。 当然だ、家族を守る身で、この提案に魅力を感じないわけがない。


 考えたのは一瞬。 エドウィンは覚悟の籠もる眼で俺を見据えた。


 「……それで、俺に何して欲しいんだ?」


 決まりきった質問だ。最初から言っていること。


 「奴隷の女の子、リアを買い取りたい。 でも俺じゃ無理だから、父さんは交渉を」

 「どっ…どうして、その、奴隷の女の子のことが… 欲しいの?」


 今度はフィオナが、何かを恐れるように口を開く。その瞳は窺うように俺を見ていた。


 「やっぱり、好きだから?」

 「…違うよ。 さっきは隠してたけど、その女の子のには才能があると思うんだ。 今、俺が見せた力のね」


 俺の答に、エドウィンとアンナは驚愕の表情を浮かべ、フィオナは俯いた。

 アルは…当然話について行けずに、ずっとアンナの足元が定位置だ。


 「あー、レイモンド。 まぁ、話は分かった。 いや、分かんねぇことだらけだが… とりあえず分かったって言っといてやる。 だが、奴隷の譲渡にゃそもそも主の了承がいる。 お前の話じゃデールだってことだが?」

 「デールには話が付いてるから、大丈夫」


 あの様子なら大丈夫だろうし、拒むなら、さらに脅しをかけるだけだ。


 「はぁ…。 …分かった。 じゃあ…後は任せておけ。 俺が話付けてやる」

 「…ありがとう。 父さん」


 

 これで、交渉は成立。 まぁ、上手くいった方だとは思うが…。


 …重荷が、増えてしまった


 だというのに、妙に晴々はればれとしている自分の心の能天気さが、少し心配になる。

 


 …後悔することにならないといいけどな



 さて、リアに報告に行く前に、一つやらなきゃいけないことがある。 


 「…姉さん? フィオナ姉さん?」

 「っ なっ、なによっ?!」


 声をかけると、ビクッと身体を揺らしこちらを見る。 そして、すぐに赤く腫らした目を隠すように、顔を伏せた。


 …全く、何を怯えているんだか


 「いや、ちょっと言いたいがあってさ」

 「──っ そ、そう…言えば、別に。 どうでもいいし……別に」


 俯きながら答えるフィオナ。 その消え入りそうな声に、思わず笑ってしまいそうになる。


 「じゃあ言うけどさ。 …姉さん、さっき俺のことレイって呼んでたよね?」

 「──っ ……ん?」

 「なんだよ、本当はレイって呼びたかったんだ? そうだよな、レイモンドなんて呼びづらいに決まってる。 これからもレイ呼びでよろしく」

 「っ…ッ ぐくぅ…」


 今度は顔を真っ赤にして俺を睨みつける。 本当にころころと表情が変わる。 …こうして改めて見ると、なかなかに面白い奴だ。


 「言ってないっ!」

 「言ったぞ?」

 「っ 言ってないってのっ!?」

 「でも皆聞いてたと思うけど? ねぇ?母さ‥」「っわーー!」

 「ふざけんなぁ!? 聞くなぁ!? バカっ!アホ! っこの、レイモンドのくせにっ!?」

 「ふはっ ははっはっ」

 「──このっ 何笑ってんのよぉっ!?」


 まったく…この世界での初笑いがまさかフィオナになるなんて、何が起こるかわからないもんだ。


 「ははっ…はー。 ……んじゃあ姉さん。 俺はこれから、例の女の子のとこに行くから」

 「なっ 何で私に言うのよ、…そんなこと」

 「だって、帰ってこないんじゃないかと思われるのは、なんていうか…面倒だし」


 「────てめぇ!?このっ! レイモンドッ!!」


 

 過去一言葉が汚くなっているフィオナを背に、俺は歩き出す。


 予想外のこともあったが、こっちは一区切りを付けることが出来た。

 


 後は、リアに選んでもらうだけだ…。







 



 

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