12.冷やし中華は戦いたい!
「冷やし中華的に考えて! 武器が欲しいと思います!」
「? ゴンさん、いきなり何を?」
あれから数日。俺は腐ることもなく冷えた皿の上にのり、たまにナツに食べられ、オークを狩ってはナツに食べられ、オカモチの中でぐったりしてはナツに食べられる生活を続けていた。
生活費はナツの収入である。
ぶっちゃけヒモである。麺だけに。
「つーわけでね。俺も戦いたいの。役に立ちたいの」
「? ゴンさん役に立ってるよ。ゴンさんが居なきゃわたし、こんな力でないもん」
「ちがうの! そうじゃないの! 戦闘で活躍したいの! もう無害なままの冷やし中華でいるのは嫌なの!」
いやまぁ分かってる。ナツが活躍できるのは俺の冷やし中華パワーのおかげだし、俺のパワーはナツが食べなきゃ使えないし。お互い持ちつ持たれつ食われつつのいい関係だと思ってる。
けど! 俺は男の子なの! いつまでも女の子におんぶにだっこされてたら「もにょ」ってするの! 麺が!
「……ゴンさん男の子だったんだ?」
「一応ね! たぶんね! いや今世では卵でまだ性別分かる前に調理されちゃったからわかんないんだけどさぁ、気持ちの上では男の子なの!」
え? 冷やし中華に性別なんてあるのかって?
俺が男って言ってんだから男なんだよ! 体じゃない、魂の問題なんだよ!
「えと、部屋、別々にした方がいい? わたしはゴンさんなら気にしないけど」
「あ、それは同じでいいと思うよ。どうせ俺オカモチの中だし。従魔だし」
と、そう。従魔。俺は従魔なのである!
従魔といえば、前世のゲームとか小説とかでは「いけっ! ○○!」みたいな感じに主人の前に躍り出て、敵と戦う。そんなカッコいい存在のはず。
いや中には勝手気ままにふらふらしたりする変わり者とかもいたけど。このままじゃ俺はぴちぴち跳ねる鯉の王様よりも下の存在……あれ、そういえばあいつ進化したらドラゴン属性だっけ? 俺とキャラ被ってんな。訴訟。あ、俺がされる側? 敗訴。
「というわけで、武器が欲しいのです……」
「うーん、わかった。ゴンさんに合う武器を探せばいいんだね」
さすがナツ。心の友よ。分かってくれたか。……あ、この顔は「よくわからないけどゴンさんにはお世話になってるし付き合うよ!」って顔だ。くっ、眩しすぎるぜ!
「冷やし中華の武器……カラシ?」
「カラシは武器じゃないと思うカシラ!?」
「武器だと思う。あれは舌に痛いから」
「ちーがーうーのー! カラシは武器じゃないし! 辛いのが好きな敵だったらどうすんのさ!」
「えぇ……じゃあ、麺でぺちぺち叩くのは?」
麺でぺちぺち……なるほど、ギルドの実力測定の時に見せたあの麺ペチングか。
「いやあれはダメ。弱すぎた」
「極めれば……?」
「いやまぁ、今のところ一番マシな攻撃だけどさ。せめて武器が欲しいわけよ。麺。武器。……めん? メーン。剣道? 竹刀? 竹……はっ! ひらめいた。メンマブレード!」
俺はこの間具に取り込んだメンマを取り出した。へにょり。うん。だめだこれ。
「うん、これはちゃんとした武器を買うべしという神のお告げに違いない」
「ただのメンマじゃないの?」
「よぉし! そうと決まれば早速武器屋に行くぞ! ついでにナツの武器も買おう!」
「お、おー?」
はい! そんなわけで場面転換!
武器屋にやってきましたよー。いやー、剣とか飾ってありますねぇ。盾! おお、これもいろいろあるなぁ。うーん、いい仕事してますねぇ。さすがギルドおすすめの武器屋。
さあ、早速交渉だ! いけっナツ! そのドワーフのオジサマにおねだりだ!
「というわけで、冷やし中華の武器をください」
「お嬢ちゃん冷やかしかい? それとも出前の押し売り?」
まぁそうなるわな。
「あいや、またれい! まて、まてぇい! ここに冷やし中華、見・参!」
「うお!? パスタがしゃべった!? ……ああ、そうか。そのオカモチ。最近話題の冒険者のお嬢ちゃんだったのか。わけのわからん従魔が居るって噂は本当だったんだな」
え、俺そんなにわけわからない? ただ空を飛んで喋るだけの冷やし中華なのに。うん、全く持ってわけわからんね。再びの敗訴。
「というわけで、ゴンさんの武器がほしいの」
「ちゃーっす、よろしくおねがいしまーっす。ドワーフの眼力で俺にぴったりの武器をおすすめしてください!」
「……いや、ドワーフだからってパスタの武器なんて聞いたこともねぇよ。フォークでも使うか?」
フォーク!? フォークだって!?
「てっめぇこの主人!」
「ああ、悪い悪い、流石にパスタだからってフォークはなかったな」
「最高だよアンタ! そう、フォークとか俺が使える武器として最高じゃね!? あれ刺さったら痛そうだし! ナイフもつけてよ!」
「……あー。そ、そうなのか? えっと。それならほれ。この4つ又のフォークとかどうかね? さすらいの料理人が広めたタイプのやつなんだが」
「おーおー、いいねいいね。これぞフォーク!」
出てきたのは前世で見た形そのままのフォークだった。すばらしい。4つのトゲトゲが攻撃力高そうだ。
「ナツ、これ買ってくれ!」
「だめ」
えっ。
「ナツ、これ買ってくれ!」
「だめ」
なぜに。
「ゴンさん。冷やし中華は……箸でしょ?」
「はっ! ……そ、そうだった。俺はなんてことを……!」
そう。冷やし中華は箸文明で生まれた麺類。それをフォークなどと……! 俺は何をトチ狂っていたんだ!(ただし一部駄菓子やラーメン缶等例外もあり)
「オヤジ! 箸を、ありったけの箸をだしてくれぇ!」
「いやありったけはねぇよ。とりあえず、いくつか出してやるからちょっとまってろ、隣の店から持ってくる」
と、オヤジは武器屋の隣の雑貨屋から箸を持て来てくれた。どうやら門戸を分けてるだけでどっちもオヤジの店らしい。何こいつ金持ちか。すり寄った方がいいかな。
「えーっと、とりあえず武器になりそうな箸を持ってきたぞ。金属のは味が変わるってんであんまり好まれないんだが、少しはある」
「味が変わる!? そ、そいつは盲点だった……」
そうだよ、言われてみれば金属ってあれだろ、鉄とか血の味するじゃん? 逆? いやでもふつう血の味は鼻血飲んじゃったりで知ってるけど鉄とかあんま舐めないし。
「あれ? でもフォークは鉄とかじゃね?」
「そういやそうだな。……あれだ。箸使う奴のこだわりってやつなんじゃないか?」
なんていい加減な主人なんだ。お前それでも武器屋なのか!? ちゃんと武器の事に精通しとけよ……え、箸やフォークは武器じゃない? それもそうか。
まぁそもそも少ないってだけでない訳じゃない。逆に木製のフォークだってあるんだし気にするほどでもないか。うんうん。
「これがいい」
「ん?」
ナツがひょいと選んだ箸。それは、木製で、手にもつところがピンク色に塗られている箸だった。食べ物をつかむところは箸らしくギザギザが入っている。子供向けっぽい……あ、ナツはまだ子供だったね。
「これください」
「あの、ナツさん。今日は俺の武器を買いに来たんで……」
「これください」
「まいど。……えーっと、他の箸も買うかい?」
「あとこれを武器にしたいです」
といって俺をスルーしてナツはオカモチを差し出した。
「オカモチを? ふーむ、確かに丈夫に作れば打撃武器になりそうだな。重くなるが」
「本気ならオークなら片手で持てる」
「そりゃすげえ。じゃあちょっと待ってろ」
うん、俺、総スルー。何この疎外感。そのオカモチ俺の家なんすけど?
あと俺が中にいる時に振り回しちゃだめだからね。
あれ? というか
あ、この後鉄製の箸も買ってもらえました。でもよく考えたらどうせオークはナツの魔法で
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