11.冷やし中華クッキング


「はい、というわけでー。冷し中華クッキングー!」

「わーわー。……っで、なにがというわけなの?」


 俺たちはギルドの炊事場(宿直用のがあった)を借りて、検証をすることにした。


「いやまぁ、前々から感じてたんだけど……俺の体ってたぶん全部食べられたら復活しないんじゃないか、と思ってさ」

「……なるほど。それは、怖い」

「だろ? さっきも実際オークのチャーシューを全部食べられたら消えたし」


 幸いにして今まで具材含めてまんべんなく半分までしか食べてなかったので、完全に食べきっちゃったという状況にならなかったのだ。


「というわけで、色々試せる範囲で試そうと思ってさ。ほら、俺の命に係わる事じゃん?」

「わかった。わたしは何をすればいいの?」


 うん、そこは冷やし中華に命とかあるの? とか突っ込んで欲しかったけど。まぁ、ナツからしてみたら俺に命があるのはもはや当然なのだろう。割と容赦なくちゅるちゅる食べてくるけど。


「そうだな。借りた小皿に俺の具材をまるっと移してみてくれ」

「わかった」


 と、箸を使ってひょいひょいと俺の具、まずはハムを小皿に移動させていくナツ。


「……箸使えるんだ?」

「? 常識……でしょ? スラムの子供だって使えるよ」


 おう。あの王様なんで使えなかったの? やっぱり甘やかされて育ったの?

 あ、そんなら今度からオカモチに箸いれとこうね。うん。やっぱ手づかみより箸だからさ。冷やし中華って。


「っとと、ストップ。……『美味ハムを喪失ロストしました』って出たわ。うん、これやっぱり食べきったら回復しなさそう」

「なるほど……今後は気を付けるね」

「ああ。頼むぞ」


 と、ハムを半分戻してくれた。無事復活。もう半分? ナツの口の中。


「というか、『美味ハム』って名前だったんだな。よし、一応他の具材も試してくれ」

「もぐもぐ。わかった」


 そうして分かったこととして、キュウリは『しゃきしゃき千切りキュウリ』、トマトは『ジューシートマトの切り身』、あと今まで描写されてなかったけどわかめが『美毛のワカメ』、紅ショウガが『紅ショウガ』、もやしが『大地の息吹』という名前だった。

 紅ショウガまんまやん。あともやしがなんかカッコイイ!


 あ。で、ある意味メインの錦糸卵については、これはなぜかロストしなかったので名前は不明だ。いやまぁ、俺の錦糸卵だからドラゴン錦糸卵でいいと思うけど。


 そして素材は半分ずつ戻ってきた。もう半分? ナツの口の中。


「もぐもぐもぐ……じゃあ次は、麺?」

「あ、待ってナツ。さすがに麺全部持ってかれたら死が見えそうだ」


 なにせ冷やし中華の命はこの麺と言って過言ではないからな。具材など変わったところで麺とタレさえあれば「あっ、冷やし中華だ!」って分かるだろ? つまりそういうことだ。

 そしてタレはゴマダレとかにも変えられる。変えられないのは、そう! この麺なのだ!

 チキンと言われようともここだけは譲れない。冷やし中華だけど。あ、鳥の茹で肉をチャーシュー枠にいれてもいいかも。


「麺は俺の心臓部だ。ここは怖いから試さないでおいて」

「わかった」


 ナツも納得してくれたようだ。


「ところでカラシは捨てていい?」

「だめだよ?」

「これきらい。邪魔」

「だめだってば! 大人になってこの良さが分かるようになったらきっと後悔するから!」

「……」

「ダメ! 絶対!」

「……ゴンさんがそういうなら、やめとくね」


 分かってくれて何よりだ。ちなみに前世の俺も普通にカラシを使わなかったけどな。カラシの良さなんて分かる日が本当に来るのか、それは俺にも分からない。



「じゃ、じゃあ次の検証いってみようか」

「うん」


 さて、先程は取り除く検証だったが、今度は加える検証だ。


「じゃあ買ってきたオーク肉を薄切りにして、さっと茹でて俺にのっけてみて」

「うすぎり。えいっ」


 エアカッターで器用に薄く切り分けるナツ。この子、魔法の才能あるわ! え、今まで本当に魔法使ったことなかったの?


「あとはさっと……?」

「箸で持ったまま色が変わるくらいまで茹でて」

「ん。こう?」

「そーそー。そのくらいでいいよ。ヘイカモン!」


 茹でたてのオーク肉を体に受け止め、ほわっちゃ! あっつ! ホット! いっつぁベリーホット! 麺が火傷しちゃうぅうう! ……あ、すいません。ちゃんと『オークの豚シャブ』を獲得ゲットしましたよ。『オーク』の『豚』シャブってオークなのか豚なのかはっきりしろと言いたい。効果はチャーシューと同じだった。

 まぁ冷やし中華なのにちょっとぬるくなってしまったがな……

 ……

 あれ? そう言えば俺って割と冷えてるよね。やっぱこれって俺がクールな男だからかな?


「お皿の真ん中が冷たい」

「皿! そういうのもあるのか」


 全然気付かなかった。どうやら王様御用達のこの皿は、皿の中央に『冷やし中華冷やし機構ギミック』を兼ね備えていたらしい。多分魔道具ってやつなのだろう。


 もしかして俺が意識を持ってるのってこの魔道具と反応したから? ドラゴンの卵に魔道具の組み合わせがなんやかんやいい具合に反応し、バースト。そしてなんやかんや(二度目)して今の俺になったとか。

 それなら王様以外の俺達冷やし中華が大人しく食べられたのも納得できる話だ。


 ……いや、あいつらは美少女に食べられてたもんな。大人しく食われて当然か。


「ふむふむ。これはすばらしい……」

「あ、ナツさん? 何食べてんすかね。ステーキ?」

「オーク肉の余りでステーキを作ってみたの。で、ゴンさんのタレをかけてみたけど結構合うよこれ」


 考え事してたらタレを料理に利用されていた。こう、皿を傾けてつつーっと。

 うん、なんか血が抜かれてるように気がふらーっと遠く……


「はっ、タレをロストしてもヤバい気がするなぁ! せめてほどほどにお願いね!」

「了解した。もぐもぐ」


 あぶねぇ、献血した気分だ。したことないけど。


 そして、あと具材としてはメンマとナルト、万能ネギを獲得ゲットした。お金があんまり無かったので試せたのはこのくらいだ。カニかまぼことかないかなぁ。

 ただ、こいつらはオーク肉と違って効果がついていなかった。モンスター素材じゃなきゃダメなのかね?

 そのあたりももっと調べてみたいところではあるな。


 モンスター素材でも「ウルフの牙」とかは取り込めなかったから、食べ物限定なんだろうなって感じはする。(あ、ちゃんと洗って使ったよ?)

 ……もし取り込めてたら「キラー冷やし中華」となって、異世界をB級ホラーアクション映画に染め上げてやってたのにな!




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