10.オークのチャーシュー
オーク? あいつはいい奴だったよ。一撃で沈んだからな。
というわけで、俺たちはギルドにオークの死体を持ち込んでいた。
片手で100kgほどのオークを持ち上げて運ぶナツに周囲が「ざわ……ざわ……」としていたが、俺も幼女が頭の無いオークの死体を掲げて冒険者ギルドに入ってきたらそうなると思う。
普通は台車とか使うよね。
ていうかこれで町中を歩いてきたんだぜ? 門番さんも「は? え、あ、おう」って顔してすんなり通してくれた。
あ、今度は飛んでないよ。冒険者ギルドで依頼票発行してもらったからね。それが通行証になるのさ。
ちなみにナツの両手がふさがってたので俺が代わりにそれを門番さんに差し出したのだが、「あ、うん」とナツに夢中すぎて「冷やし中華がオカモチから麺を伸ばして書類を差し出している」というシュールな光景にもかかわらず無反応だった。
え、何? この世界って麺類が空飛んだりするのって珍しくないの? そんなことないよね。きっと白昼夢か何かだと思っただけだよね。俺分かってるよ。うん。
「ナツ様お疲れ様です!」
「ただいま。これ、どうしたらいい?」
「はい! こちらのカウンターへ。……頭が無いですが、まぁ問題ないでしょう! むしろ血抜きになってちょうどいいかなっ」
ギルドの受付の人が明るく受け入れてくれる。俺達の登録を担当してくれた人だ。
「あれ、私また幻覚がみえるんだけど……昨日寝足りなかったかしら」
「奇遇だな受付嬢さん。俺も見える。きっと酒を飲んだからだ」
おうお前ら、今日は早退するんじゃねぇぞ。現実を見ろよ。ほれ、お前の同僚は仕事してるぞ?
「オークの過食部位は主に首から下ですからねー。このあたりの肉は脂がのってておいしいんですよ。チャーシューにも向いてますね」
「何!?」
チャーシューと聞いて、思わず俺は顔(麺)を突っ込んだ。
「チャーシューがあるのか、この世界に!」
「え、ありますよ。ラーメンとかにはいってますし美味しいですよ?」
「ラーメンもあるのか!?」
「はい。さすらいの料理人が広めた料理のひとつです。材料を錬金術師が作ってたりするらしいので結構高いですけど」
そうか、重曹とかって錬金術師が作れるんだ。へぇー。
「そりゃ食べてみたいな! なぁナツ!」
「ゴンさん、食べられるの?」
……そうだった。俺は冷やし中華だった。
「いやまぁ、あれだよ。ほら、俺の麺ってチャーシューも合うんだよ。」
「ほう。ゴンさん、くわしく」
「なんか今俺に乗ってるのハムだけどさ、チャーシューの細切りを載せるってのもあるんだ。元々冷やし中華とラーメンって親戚みたいなもんだしこれが合うの。ってか、チャーシューの方が見た目豪華になるし俺は好きだね」
「なるほど……受付の人。チャーシュー、欲しいんだけど」
「あ、それなら偶然たまたま今日のお弁当にチャーシューを薄く切ったやつ入れてましたね。1枚を銅貨2枚でお売りしますよ?」
「ぐぬぬ……こ、このハムと交換で!」
おいナツさんや。俺のハムを勝手に交換材料にしないでくれる?
とりあえず、オークの報酬の一部を支払い、ついでに借金も返してチャーシューをゲットした。オークはいい金蔓。俺覚えた。
「さ、ゴンさん。さっそくチャーシューを載せる」
「お、おう。じゃあ細切りにして……包丁とかある?」
「持ってくるまでもない」
すっと手をかざし、チャーシューがしゅっぱぱんと切り刻まれた。えっなにそれ。今の何?
「風魔法、エアカッター。昨日ゴンさんがすねてる間に教えてもらった」
「なん……だと……? そりゃ便利でいいね。じゃ、のせてのせて」
相棒が知らない間に魔法を覚えてたのはさておき、今はチャーシューだ。
ナツが俺にそっとオークのチャーシューを乗せる。
その瞬間。俺の目の前にぴょこんと何か文字が出た。
「お、オークのチャーシューを
「? ゴンさん何を言ってるの? そんなことより乗せたチャーシューが消えたんだけど」
「え、チャーシュー消えた? いやその、目の前になんかそういう文字が出たんだよ。あ、消えた。なにこれ」
「おお! ゴンさん、それは特殊スキルの習得等で出る神の言葉ですよ! おめでとうございます」
受付の人。冷やし中華にそれもっとよく教えて? というか日本語だったけど。
「ちなみにその文字はその人が理解できる言葉で表示されるらしいです。文字が書けないゴンさんには一体どんな文字が表示されたのか気になるところですね」
「お、おう」
いや文字くらいかけるし。この世界のじゃないけど。
「しかし『オークのチャーシュー』なるスキルは初めて聞きました。今乗せて消えたチャーシューが関係しているのは間違いないでしょうが、どのようなスキルか見せてもらっても?」
「うん? えーっと。……どうやって使うんだろう。オークのチャーシュー?」
「!」
「こ、これは……!」
え、何? 何か変化があったの? 俺良くわかんないんだけど。
「ハムがチャーシューになりました!」
「なるほど、これはおいしそう。さすがゴンさん……じゅるり」
どうやら俺のハムがどっかに消えて、かわりにオークのチャーシューが載ったらしい。
うん。
具をマイナーチェンジするスキルか!
あ、「効果:味の深み+1 女騎士特攻+1」だって。また文字が出たよ。
……女騎士特攻ってなんやねん! オークだからか? オークだからかー!? そういう薄い本とかお話があるのは聞いたことあるけどまさか特殊効果で出るとは思わないよ!
っかー、でもこれで冷やし中華さんも女騎士に「くっころ」できるようになっちゃうのかなぁ。うーん、麺で亀甲縛りとか? 胸が熱くなるな!
うん、これ絶対あのクソボケ神ジジイの悪ふざけか何かだろ。あ、すんませんすんません。感謝はしてるってことにするんで天罰とかは止めてください。
「ま、まぁ具で若干の効果の違いとかはありそうだ」
「なるほど。ゴンさんの具を増やせば、それだけ強くなる……?」
女騎士特攻とか妙な感じはするけど、ありえなくはないだろう。
というかあれだよ。これってスキル収集とかはかどるタイプのアレだ。最終的にドラゴンのチャーシューとか載せてドラゴンブレスとか使えたらいいなぁ。
ドラゴンブレス、料理されなきゃ普通に使えてたスキルなんだろうけどね!
「しかしこのチャーシュー、僕のもともとのチャーシューより絶対美味しくなってますよ」
「ゴンさんは美味しい。これ常識」
「っておいおい何食ってんだお前ら。まぁ冷やし中華は食べ物だからいいんだけど……」
「はっ! 全部食べてしまった!」
「む、ハムが生えてきた」
えっ、何、何が起きたの? あ、「オークのチャーシューを
……えっ、具って食べきったらなくなるの? いや普通無くなるけど! きゅうりとか戻ってたじゃん!
「ちょちょちょちょっとまったぁ! チャーシュー消えた! ロスト! これ全部食べると戻らないっぽい!?」
「ええっ! そんなぁ!」
「というかおめぇチャーシュー食べた分返せよ! ほら、早くもっかいのっけて!」
「カットはまかせて」
と、改めてチャーシューを取得。ちなみにこのチャーシューでも食べかけで放置すれば回復しそうだな。
うーん、これ、ここいらでちゃんと検証しなきゃ命にかかわるかもしれん。
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