08.空飛ぶ冷やし中華モンスターの実力


「ったくよぉ、この世界の奴らは冷やし中華が空飛んじゃいけねぇってのかよぉ! 喋ったら幻聴かよぉ!」

「おちついてゴンさん……もぐもぐ」


 麺を1本たべられつつ、俺はナツと一緒に冒険者ギルドの訓練場に来ていた。

 ちなみに俺が『SSSランクなんて無いよショック』から再起動したのが従魔登録の直後であり、「えっ、それ本当に従魔だったの!?」と受付の人(俺にSSSランクなんてないよってオブラートに包み隠さずもせずドストレートにおしえてくれた人は帰ったので別の人)が驚いていた。

 あ、従魔の首輪とかは首が無いんでつけられないです。というわけで皿の裏に冒険者ギルドのハンコを押してもらった。

 あ、普通にひっくりかえったら上に乗ってる俺がこぼれるので、ふわりと飛んで下からポンっと押してもらったよ? 俺って天才じゃない? え、そのくらい普通? けっ、もっとちやほやしてくれてもいいじゃん異世界なんだからさぁ!


「なんかゴンさんがやさぐれてる……」

「おっと、すまんすまん。それでなんだっけ?」


 と、この冷やし中華を従魔登録してくれた受付の人が目を泳がせつつ改めて説明してくれる。


「あーその。えっと、従魔の危険度とか『皆無』って書いちゃったけどそこのあたりしっかり確認しておきたいので……その、どれくらいのことができるのかとか、というのを見せてほしいなと」

「あー、なるほどなるほど。おっけおっけ、ここはスーパーでスペシャルな俺のSSSランク……げふんっ! 改めSランクパワーを見せてやろう」


 そう言って俺はふよんとオカモチの上から飛び立った。


「あの、ところで食べられてましたけど大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。問題ない」

「そうですか。……いやまぁ本人?達がいいならいいんですけど。食べ物の従魔って前代未聞ですよ、しかも人の言葉を話して飛べるパスタとか……」

「冷やし中華だ!」

「は、はぁ、すみません。人の言葉を話して飛べる冷やし中華とか……うう、自分が何言ってるのか分からなくなってきた」


 すまんなややこしくて。それもこれも俺を料理したさすらいの料理人ってやつが悪いんだ。悪いことは全部あいつのせい。


「それじゃ、まずあの的に向かって攻撃してもらってもいいですか?」

「よかろう。この俺の、華麗なる麺さばきを括目してみよ……とう!」


 ひゅーん、と俺は的の前まで飛んでいき、ぺちんぺちんと麺で的を叩いた。

 なおこの麺はあとでスタッフナツが美味しくいただきます。あ、ちゃんと洗ってからね!


「ふぅ……ざっとこんなもんよ」

「攻撃力皆無、と……何かものを持ち上げたりは?」

「あ、うん……オカモチのフタとかは持ち上げられるよ?」

「ではこの重りを軽い方から順に……」


 言われるままに持ち上げる。あーん、私オカモチのフタより重いもの持ったことないのー。ふんだらぁああ! とりゃぁああ! ぐぬぬぬぬぬ!!


 ……うん、10kgくらいで限度っぽい感じだな。俺の麺、なんてひ弱なんだ……ひ弱な坊ちゃんなんだ……! 雑誌の裏とかにある怪しいトレーニング機器で麺トレ(麺力トレーニング)しなきゃ……


「くっ……お、俺が全力をだしたら、まだまだこんなもんじゃないしっ!」

「力もなし、と。えーっと、次に、魔法とか使えますか? その、飛ぶ以外で」

「ふっ、よかろう。実は俺ってきっと魔法使いタイプだぜ? ……ファイアー!」


 出なかった。


「アイスストーム!」


 出なかった!


「たいやきうどん!」


 そもそも魔法じゃなかった!


「ブレイン○ムド!」


 そもそも効果知らなかった!


「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ!」


 ってこれ人名(の一部)だった!


「ダメみたいですね」

「まって! まって。なんかある、なんかあるはずなの! だって俺空飛べるもん! 絶対なにか魔法使えるはずなのぉ!」

「じゃあライトなんてどうです? こんなのです。ライト!」


 ぺかっと受付の人の指先が光った。


「……地味じゃね?」

「洞窟の探査とかタンスの裏に落ちたコイン探したりするのに便利ですよ?」

「うーん、まぁやってみよう。ライト!」


 ぺかっ。おお、光った! 麺が光り輝いてる! うふふ、おいしそうでしょ? え、発光する麺とか食べるの怖い? 俺もそう思う。だが魔法が使えたぞっ!


「俺は光属性だったのか……!」

「生活魔法のライトは使える、と」


 あふん。いいもん。いいんだもん。俺、ドラゴンだけど冷やし中華だから……美味しい美味しい冷やし中華だから……っ


「ゴンさん。大丈夫。わたしがついてる」

「ナツ……!」


 がしっと抱き合う――とべちょっとなるので、ナツの手を麺で握手した。


「ではナツさんも計っておきましょう。まず攻撃から」

「わかった。見ててゴンさん、がんばってくるから」

「おう! なんか今日のナツは光輝いて見えるぜ! って、あれ? 実際光ってません? ねぇ」


  *


「こ、これは素晴らしい! いきなりBランクから始めても大丈夫なくらいですよ!」

「ふふん」


 ナツはすさまじい成果を挙げた。

 的に対してはたった1歩で近づいて殴り壊し、重りの持ち上げでは一番重いの(たぶん150kgくらい)でも片手で持ち上げた。

 さらに魔法については、こう、パンチ。パンチで放出し、どっかーん。というアレを見せてくれた。あの、俺を初めて食べたときに見せてくれてたアレだ。


「まぁ新人の登録は最高でもCからなのでそこでお願いします。けど、ナツさんであればAランクだってすぐですよ! すぐ! いやぁこんな掘りだしものの子の登録を担当させてもらえたなんて同僚に自慢できちゃうぞーこれ!」

「それもこれも、ゴンさんのおかげ」

「そうですね! やはり守るものがあれば人は強くなる……くぅう! 名言です! ありがとうございますナツさん!」


 おい。おい。俺のときと態度が違いすぎるわ。

 つーかそのパワー俺のだよね? つまり実質俺の力。あ、こら、ちょ、目をそらすな、俺の目を見てしっかり答えて? いや冷やし中華に目とか無かったわごめん。


「まぁこれほどの力量差があれば、従魔は無害で全く問題なしっと。いやぁこれで何事もなし! 責任問題なんてなかった!」


 喜ぶギルドの受付の人と、目をそらしつつも得意げなナツ。

 こうして俺は、無害な空飛ぶ冷やし中華モンスター(時たま発光)という評価を得た。解せぬ。


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