04.冷やし中華と行き倒れ
フゥーハハー。やってやった。やってやったぜ。
食べられそうになったところを華麗に脱出!
しっかしこの俺がまさか空飛ぶ冷やし中華モンスターになるとは思わなんだ。
……うん? 魔物、なのかな? まぁ魔物分類だろうけど。
あれ、まって。今ちょっと怖い事に気付いた。
もしかして俺って実はゾンビだったりする? アンデッド?
た、確かに卵の時点から見て一度死んだ(生まれる前だけど)と考えてしまったら俺はドラゴンゾンビのアンデッドである。
「……りょ、料理ってのはぁ! 皿の上に命を吹き込むことだからぁ! きっとアンデッドじゃないとおもうなぁ!」
と、なんとなく誰に向かって言う訳でもないが言い訳をしてしまった。
むしろ式神とかホムンクルスとかそういう系!
だって自分がゾンビとか。
そんな体で食べてもらうなんてできない…! ってなっちゃうじゃん。腐ってそうで。
はっ! そうだよ、腐っちゃうよ! どうしよう、俺、賞味期限いつまで!?
思わず逃げてきちゃったのはいいけど、このまま美少女に食べられることなく腐って大地に帰るとか嫌だぞ俺。
ええっと、冷やし中華の賞味期限って……お酢とか使われてるし、案外長くもつか? きゅうりはすぐダメになりそうだな。……スーパーとかで売ってるやつだと2日くらいはもってたはず、ああでもあれ冷蔵だっけ? となると俺の余命(賞味期限的な)はあと1日やそこら……?
1日!? ばかな! だが今は夏。食品の足が短距離走な季節。暑い日差しが食品を腐らせる。俺は絶望した。なぜ冷蔵庫を探さなかったのか。冷蔵庫に立てこもればもう2、3日は生き(?)ながらえただろうに。
いや! 気を落とすのはまだだ!
俺はドラゴン……元ドラゴン(の卵)だ。その生命力はおそらく卵料理にされても生き返るくらいスーパーでミラクルでハイパーなのだ。
故に! 賞味期限の1日や2日過ぎたところで、まだ食えるはず!
むしろ食え!
と、そんなことを考えつつぴゅーんと空を飛んでいると、王城付近の綺麗な街並みはすっかり離れ、だいぶ汚い崩れたところにまで来てしまっていた。
いわゆるスラムというところだろう。
うーん、どうしよう。引き返そうか? こっちに可愛い女の子とかいない気がする。
だって見た目からしてボロボロじゃん。可愛い女の子が居たら即薄い本な感じじゃん。
それにスラムの人って虫歯とかあるんじゃないのぉ? 俺虫歯だらけの口で咀嚼されるとか嫌だよ。虫歯の穴にかけらが残ってそれに意識も残ってたりしたら最悪じゃん? せめてかわいい子ならともかく。
あー。あの食堂にいた女の子たちほんっと可愛かった。伊達に王族じゃないね、洗練された美人さんだらけ。ただしオッサン王は除く。どうせ食べられるならああいう可愛い子に喜ばれたいもんだ。
でもなー。今更お城に戻るのもなー。
そんな風に色々考えてたら、高度が落ちてきていた。
やべぇ、飛行パワーが尽きたか? これじゃ戻ろうにも戻れそうにないぞ。
少し休めば戻るかもしれないけど……戻らなかったらそれはそれで嫌だな。うん、余裕があるうちに休んで戻るか試そう。
俺は路地裏に降り立った。足はないけど。皿だけど。
ふーぅ、あー疲れた。これまた休めば飛べそう。ジャンプゲージ回復してるような感じがあるわ。なんで冷やし中華が疲れたり休めたりるのか、っていうのはさっぱり謎だが。
パン生地だって寝かせたりするだろ? きっとそんな感じさ。
と、降り立ったその場所をよく見ると、狭い路地裏にボロ布をまとった人間が倒れていた。……行き倒れだ。大きさ的には子供っぽい。
行き倒れかぁー。
腹を空かせている行き倒れ、それは今の俺にとって冬眠明けの熊に近い存在だ。つまりヤバい。食われる。
うーん、こりゃ回復したらさっさと逃げた方がよさそうだ。
と、そのとき「くきゅるるるぅ~」と腹の鳴る音が聞こえた。
……ちょっと声をかけてみよう。もしこれが可愛い女の子なら食べられてやってもいい。そうじゃなかったら逃げる。これでいこう。
いつでも飛びたてるように、もう少しだけ休む。
再び「きゅるるくぅん……」と切なそうな腹の音。
くっ!? そ、そんな腹を鳴らしても、お前が可愛い女の子じゃなかったら食べられてやらねぇんだからな!
……おっ、よし、十分飛んで逃げられるだけのパワーが溜まったな。話しかけてみよう。
「おい」
……返事が無い。ただの屍、ではないよな。腹の虫鳴ってるし。
「おい、起きてるか?」
「……あぅ」
お、少し返事があった。
うーん、この声だけじゃ男か女か分からんな。なにせ子供だ。
「お腹空いてないか? こっちを見てみろ」
「……す……いた……」
顔を上げる行き倒れ。……うん、やっぱり男か女か分かんないんだけど。もっとこう、女の子なら女の子らしく可愛い恰好してくれてたら分かるんだけどなぁー。スラムにそれを求めるのは酷ってもんか。
「…………?」
きょろきょろと周りを見回す行き倒れ。あ、そりゃそうだよな。普通に考えたら冷やし中華がしゃべるなんて思わないよな。
「俺だ。今、お前の目の前にいる」
「……ッ!? な、なに、も、モンスター……?」
ドラゴンって、モンスターでいいのかな。
いやそもそも冷やし中華だけど。
「俺は冷やし中華。モンスター、ではない。食べ物だ」
「食べ物!? ……え、しゃべる、食べ物……?」
そうだよな。そりゃ普通食べ物はしゃべらないよな。
「さて、一つ大事な質問があるんだが……正直に答えろ。お前は、男か? 女か?」
「……えと、お、女……だけど」
よし。まず最低条件はクリアだな。うーん、そう言われてよく見れば可愛い顔しているように見えてきた。
うん、少し薄汚れてはいるが、磨けば光るってタイプだ。
これなら食べてやってもいいかもしれない。
「合格だ。俺を食べていいぞ……!」
「え、やだ」
拒否られた。
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