第二焼 攻略済みの洞窟
攻略済みダンジョンに到着した。出没するのはザコの鳥型魔物だけ。こいつらを狩って、焼いて売る。
魔物は食えるのか。それは確認済みだ。昔、腹が減って鳥型魔物を焼いて食ってみたことがあるのだが、匂い・味・触感ともに鶏肉のそれで、旨かった。腹も壊してない。
また、魔物は動物とは違い、交配によって増えるのではなく、凝縮した穢れが具現化して魔物となるため、狩り過ぎて絶滅することはない。ダンジョンに魔物が出没するのは、穢れが溜まりやすい性質があるからなのだ。さらに死体は穢れを集めやすいので、不可食部を放って置けばそこに穢れが溜まってまた鳥型魔物が出現する。無限の資源が確約されているのだ。
闇が支配する洞窟。初めて入ったときは緊張したなあ。そう言えばここで初めて役に立ったんだっけ。炎魔法を光源にして進んだ。みんなすごいすごいって。今はランタンを持ってるから俺の役目もないけど。
洞窟の入口は明るく魔物も出てこない。ここにカウンターと調理場を作ろう。土魔法で。
頭の中に洞窟が変形するイメージを思い浮かべ、掌を胸に当ててから膝をパンパンと叩いてジャンプし、——着地!
ゴンゴンゴンッ! ギャンッ! ギッ、ギャンゴン!
壁面が押し広げられ地面からは岩石が突き出してくる。胸より下の位置。平らになったこれが机になる。その斜めうしろに椅子になる岩石。反対側には調理場。腹の位置に台。ここで肉を捌く。隣には焼き場を作った。U字の溝が掘られた岩石。この上に串刺しにした肉を置き、溝に敷いた薪の炎で焼くのだ。我ながら良い感じの店構えになった。
自分の仕事に満足していると胸がムカムカしてきた。せり上がってくる。——ヤバイ。
咄嗟に洞窟の出口の草陰に行って口を開ける。
「オロロロロロ!」
はあ、はあ。危なかった。
土魔法を使うと胃がやられるから、強い魔法は使わないようにしていたんだが、久しぶりで加減を忘れていた。
気を取り直して今度は材料の調達に向かう。
洞窟の奥は真っ暗だ。人差し指を立てると指先に炎の球体が現れた。人差し指を立てたまま振りかぶり、洞窟の奥に向かって放つ。天井に突き刺さった炎は洞窟内部を明るく照らした。
すると奥の方から鳥型魔物がやって来た。
俺は柏手を打つように一度だけ合わせ、両掌を後方に伸ばし、前進と同時に両掌を下段から弧を描くように振り上げた。魔物の首と胴体が真っ二つに分かれる。風の刃が切り裂いたのだ。
加減したがちょっとだけお腹が痛くなった。次から次へと出て来る魔物に加減をしながら風魔法を使うも、お腹がやばかったので、諦めて炎魔法を使って焼き尽くした。
洞窟の入口に戻って奥への道を土魔法で塞ぐ。
魔法使用に伴う不調は魔法使いの体質による。俺の場合、炎魔法以外はだいたい体に良くなかった。なぜか。魔法は穢れをエネルギーにしているからだ。俺の場合は土魔法を使うときは胃に、風魔法を使うときは腹にある穢れを消費するからそうなる。
それを知っていたからずっと炎魔法しか使ってなかった。おかげで“
洞窟の外の森に出て枝を拾い集めて来て、焼き場に放り込む。水分を含んでいてもこの“
「ごほごほっ!」
……っと思ったけどすごく煙出て来た。湿った木は煙が多く出るらしい。周りは真っ白だ。
風魔法を岩に付与して送風。煙を外に押し流す。
肉を捌いて串に刺して焼き場にのせる。しばらくすると良い匂いが立ち込めて来た。ある程度火が通ったところで一旦取り出して秘伝のタレを付けてもう一度焼き直す。益々良い匂いが立ち込める。
このタレはエフィの秘伝だ。なんでもニホンジンがこよなく愛する甘辛ダレなんだとか。この世界にあるもので代用したから本当の味は再現できなかったらしいのだが。
今日は鳥を焼いただけで終わった。この場所は土地代もないし材料は半永久的に湧き続けるけれど、集客は見込めない。明日タレの材料を買いに行くついでにこの店の宣伝をしていこう。
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