攻略済みダンジョンで焼鳥屋始めました。

詩一

第一焼 焼鳥屋始めるわ

「俺、焼鳥屋やるためにパーティ抜けるわ」


 あまりにだしぬけだっただろうか。三人の視線が俺に突き刺さった。絶句である。


「待て待て待て待て! 待てぇぃい!」


 女勇者のエフィが銀髪を振り乱しながら言った。


「なぜ急に?」


 隣にいたクリエやスティナもキョトン顔をしている。


 俺は魔王討伐目的でこのパーティに入った。魔王討伐の勅命を受けた勇者エフィと、王直属の剣聖のクリエ。さらに、元盗賊の領袖であるスティナが居るこのパーティに。


「嘘だよね? ヤキト」


 見上げて来たのはスティナ。ワーウルフの彼女の尻尾は垂れさがっている。不安なのだろう。シルバーの毛並みを撫でてやる。昔クリエに捕まり、部下を処刑しない代わりに王に従うと約束した。13歳にして領袖だったのは頭が切れるからであり、悪党として認められたからではない。解錠、索敵、クロスボウによる遠距離攻撃など幅広い場面でパーティを助けてくれる。


「私は嘘が嫌いなのだがな」


 青眼で俺を睨み付け、サラッとした長い金髪をうしろにかき上げたのはクリエ。

 剣術の他に回復、結界を使える。重い鎧を身に纏っているため敏捷は低いが体力面に長け、パーティを最後まで支え続ける力を持っている。

 実直で冗談が通じない。今も現在進行形で通じないと言っている。


「嘘じゃない。純度100%で抜ける気満々だ」

「だからどうして!」


 悲痛な声で訴えるエフィ。別の世界の記憶を持っている異世界転生者。異世界の知識が豊富で、『石鹸』なるものを開発し、村を疫病から救うなどした。神より授かった能力は“天地改竄リクリエイト”。対象の弱点を任意に変え、レベルを最大まで引き上げる。これが本当に強い。

「俺、いる?」

「え?」

「この間も敵の弱点を水に統一して汗で死ぬようにしてたよな。俺の必要性皆無じゃん」

「しかし私とて完璧ではない」

「サポートは必要だ。クリエの結界と回復、スティナの解錠や索敵はいるだろう。でも攻撃役はいらない。先祖が魔王を封印したパーティの一人だったからっていう使命感だけで付いて来たけど、心に余裕ができたことで魔王討伐後の生活が心配になってきてさ。ならいっそ先に抜けて商売始めようかなって思って」


 エフィは口を結び、それ以上は言えないと言った様子で項垂れた。

 

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