人魚の逆鱗

「ガハハハハ!」


某所では酒盛りが行われていた。


「これであの生意気なやつらに報復できただろう!」

「馬鹿な若造だ!俺たちに逆らうとこうなるんだよなぁ」

「それより女共はどうなったんだろうなぁ。二番煎じなのは仕方ないが、楽しみで仕方がないぜ」

「目の前で犯してやろうぜぇ。なんたって正義の味方の警察官がこっちの味方なんだからなぁ(笑)」

「ひでぇ話だ」


権力者たちは碌な働きをせずに連日連夜飲み会を行っていた。


「しかし、あいつらおせぇな。楽しんでるにしても遅すぎるだろ」

「俺ちょっと見てくるわ。痛、ちくしょう、イルカにやられたところが痛むぜ・・・」


男たちが外に出ようとした瞬間、意識が落とされた。


「は・・・?」

「おいおい、どうした・・・?」

「口を閉じろ」

「「「!」」」


それは突然現れた。双剣を町長の首元に突きつけ黙らせる。誰もが中心にいるそいつに視線を送った。酔った中年には到底視認できるものではなかった。


「なっ、貴様!?なぜここにいる!?」

「≪光の剣≫はどうした!?」


やっぱりこいつらか。簡単に口を割ってくれてありがたい。だからお望み通り連れて来てやった。


「ぐ・・・」

「う・・・」


五人とも縛ってここまで連れてくるのはだるかったが、仕事だと思えばどうとでもなる。


「う、うそだろ・・・?」

「Aランクパーティだぞ!?」

「どんな手品を使った!?」


手品?とんでもない。


「普通に力でねじ伏せただけだよ。こんな雑魚共に俺を狩れると思ってるんだったら残念だったな」

「くっ、使えんゴミめ!」


町長が呻く。ゴミはどっちだと言いたくなるが、俺は刃を町長の首につきつける。


「ちょ、町長に手を出してこの町で暮らしていけると思うのか!?」

「そうだ!」

「お、俺たちを開放するならゆるしてやる!」


本当にクズだな、この二世共は。こうやって権力を私物化することによって、今まで好き勝手やってきたんだろう。だけど、


「うるせぇ」

「グぼっ!?」


俺は町長の腹を思い切り蹴とばした。


「きたねぇ声をあげるんじゃねぇよ豚が」


唾をつけられたので物凄く不快だ。一撃どついただけで泣きそうになっていた。


「う、うっぐ・・・」

「俺のイレーナを悲しませたことは万死に値する。お前ら一人一人にこいつと同じ目に遭わせる」

「ま、待て!」

「俺に手を出すと親父が「黙れ」ぐうぅ」

「て、てめぇ!」

「うるせぇっていってんだろ?」

「グフ」


どこかのドラ息子の頭に肘鉄を落とし、警察官の恰好をした中年の顔面に蹴りをいれた。


「俺はお前らの生殺与奪をすべて握っている。法律で説得しようと思うなら無駄だからな?俺は特殊な環境にいたから人殺しを厭わない」


半分は脅しで半分はハッタリだ。ダンジョンという過酷な環境にいたから、生死に関しては人並み以上に鈍感になっている。


生き物を殺すことをためらっていたら死ぬからな。ただもちろん人を殺したことはない。


まぁそれだけの経験をしていないこいつらには俺のハッタリはバレていることはないだろう。


「ひ、ひぃ!金なら出すし、謝罪もする!」

「お、俺もだ!」


一人一人から泣きそうになりながら言われた。もう少し見せしめを作らないとダメかと思ったけど、その必要はないらしい。


こんなのが地元でトップを張っているやつらなのか・・・


呆気なさ過ぎて呆れてしまうが言質は取れた。だったら言われた通りにしてもらおうか。


「それなら一人一人、今までやってきた悪事を言ってもらおうか。嘘だったり、隠していると思ったらすぐにでも同じ目に遭わせる。110番なんて考えるなよ?もしやったら・・・分かるな?」


こくこくと情けなく頷いている。


まぁここには警官もいるから、110しても来ないだろうけどな。


「わ、分かった!」

「俺も言う!」

「だから助けて!」


そして、一人一人から数々の悪事がバラされた。その中には吐き気を催すものもたくさんあった。その間に俺は殴りたくなる気持ちを押さえつけるので精いっぱいだった。


「・・・それで全部か?」

「あ、ああ本当だ!」

「だから、助けて!」

「ああ」


馬鹿みたいに安堵しているがべらべらしゃべってくれて助かったよ。


「今の音声をお前らのパパママにすべて流してやったよ」

「「「は?」」」

「聞こえてる?」

『バッチしよ。こっちの声も流すわ』


イリスにはご近所さんたちを石川家に集めてもらうように頼んだ。


『馬鹿息子!人様の税金でなにをしているんだ!』

『強姦じゃと!?○○さんがいなくなったのはそういうわけじゃったのかい!』

『町の若い子に手を出しておったとは・・・』

『なんて馬鹿な子なの・・・』

『かえってこんかい!この馬鹿息子!』


口々に聞こてくる。想像以上に人が集まっていたようで驚いた。


『あーくんとイーレナの頼みって言ったらすぐに人が集まったわ。この辺りはあーくんの人望ね』

「そうか・・・」


近所づきあいをしておいてよかった。俺のご近所さんは皆お金持ちの家庭が多かった。息子たちよりも俺とイレーナのことを信頼してくれて本当に助かった。


『哲也・・・』

『お、親父』

『お前は町長失格だ。親子の縁を切らせてもらう・・・』

『くっ・・・』


この瞬間に町長並びにその他諸々のやつらが一斉に罰を受けることが決まった。本当はもっと苦しめてやりたい。だけど、後は司法に任せるしかない。歯がゆいが人間社会っていうのはそういうもんだ。


「罪を償え。クソ共」


俺はこいつらが逃げ出さないように、警察がくるのを待った。



≪光の剣≫も含めると十人強。パトカーも複数台来た。


「くっ、あの若造め!」

「町長がバレないっていうからやったんだぞ!俺は悪くない!」

「なっ!お前もだろ!」

「くそったれ!何で俺まで捕まらなきゃいけないんだ!」


数台のパトカーに乗っけられた町長たちは暴れていた。しかし、警察官が若い女であることに気が付くと、ニヤリと笑った。


「おい、お嬢ちゃん」

「はい?」


婦警は振り向かずに反応した。バックミラーでは顔が見えない。


「金なら言い値を出す。だから、ここから出してくれんかね?」


あんなことがあったのに全く反省していなかった。当然こんな誘いにのってはいけないのだが・・・


「いいですよぉ!私、お金が必要だったんですぅ」

「おお!話が分かる嬢ちゃんだなぁ」

「こっちも新婚でしてぇ。お金が必要なんですよねぇ」

「そうかそうかぁ。若いのに偉いもんだなぁ」


車中内で町長たちはやったと喜ぶ。すると、


「それにしてもお兄さんたちはなぜ通報されたんですかぁ?」


若い子に『お兄さん』と言われて調子に乗った町長たちは先ほどまでの出来事を思い出す。すると、さっきまで恐怖で蓋をされていた怒りがヒートアップしてきた。


「確かに俺たちは悪いことをした!だけど、それは町をよくするための必要経費だ!」

「そうだ!そんな俺たちにけがを負わせたあのイルカとあの若造こそが逮捕されるべきだ!」

「あの女たちもだ!女は黙って俺たちに抱かれてろよ!」

「全くだ!」

「・・・」


最後の方はやつあたりにというか自分を正当化するものになっていた。


「それより、お嬢ちゃん。そろそろおろしてくれんかね?」

「ああ、そうですねぇ」


しかし、中々止まる様子がない。その態度にだんだんと怒りが湧いてきた。


「おい!どこまで「あ、ここがいいですねぇ」ちっ」


そこは橋の上だった。下には川が見え、隣町に行く途中だったのだろう。後続に続くパトカーも止まっていた。おそらく町長たちと同じように後続のパトカーでも裏取引が成立したのだろう。


「全く手間をかけさせおって・・・」


今度は目の前の婦警に怒りが湧いてきた。一回犯してやろうかと思った。しかし、そんな場合じゃない。口座を凍結されたりする前に引き出して海外に逃げる手はずを整えなければならない。


すると、


「最後に一つだけ聞かせてください。そのイルカさんとあっくんとその周りの女の子、そして、今まで迷惑をかけてきた人たちに謝罪の気持ちはないんですかぁ?」


婦警がそんな質問をする。しかし、


「そんな気持ちは微塵もないなぁ!」

「むしろ町のために働いていたのにあいつらが俺たちの仕事を奪った犯罪者だよな」

「俺、検察官の中に知り合いがいるからあいつらを有罪にしてもらおうぜ!」

「そいつはいい!俺も金を出すぜ!」


口々に盛り上がる。


「つまり、謝罪の意思はないんですねぇ?」

「そんなものあるわけがなかろう?さっさと消えたまえ。いつか金は渡すよ」


金なんて払う気がないことが良く分かる。そして、ニヤリと婦警が笑った。その不気味な笑顔に訝し気な気持ちを抱く。


「何がおかしい・・・・?」

「いえ、救いようのない馬鹿でよかったです」

「なんだと・・・?」


そういえばさっきから何かがおかしい。その違和感は目の前の女が帽子を脱いで振り向いた瞬間に分かった。


「貴様!イレーナ!?」

「こっちの女もだ!?」

「こっちも!」

「何人いるんだ!?」


全部で四つの車両にイレーナが四人いた。そして、イレーナ共々すべての警察車両が水になった。


「なっ!?」

「万物は水で創ることがことができるんですよぉ。もっともパトカーなんて見たことがなかったので海に沈んでいたものを再現させていただきましたけどねぇ。どの車両に乗ってたお仲間さんもみんな同じようなことを言っていたので、地獄に案内させていただきますねぇ~」


橋の上で濁流が起こる。あまりの激しさに町長たちは橋の下の川に落ちた。


「ぐぶぶぶ」

「ふふ、あっくんは優しいですからねぇ。これから私がやることを見て欲しくなかったんですよぉ」


水の中なのに良く聞こえてくる声。町長たちが求めたイレーナのすべてが良く見えているのに、今は恐怖が身体を支配していた。


すると歌うようにイレーナが語り始めた。


「私、これでも兄弟姉妹が多くてですねぇ」


空気を求めて上に泳いでいこうとするがむしろ沈んでいく。


「王位継承権を争っていたんですよぉ」


息ができなくなる。しかし、顔の周りに空気の塊が覆った。


「すいません。人間が水中だと息ができないのを脆弱なのを忘れていましたねぇ。で、話を戻すと、私たちは兄弟姉妹で殺し合いをしたんですよぉ」


人魚はその過去を子供に聞かせるように語る。


「幾度殺しても、次の兄弟が襲ってくる。そんな日々に嫌気が差したある日、思いついたんですよ」


そして、誰よりも何よりも残酷な表情になった。


「ずばり公開処刑です。私に逆らったら、どれだけ残酷で無残な死に方をするか。それを思い知らせてあげたんです。そしたら効果テキメン!メダカだと舐めてかかってきた兄弟たちから襲撃がなくなってきたんですよぉ」


もう嫌だ!助けてくれ!


「公開処刑はショーですからねぇ。あらゆる拷問をしました。だから、私って人魚体については誰よりも詳しいんですよぉ。どうやれば一番苦しんで泣きわめくのかを研究しまくりましたからねぇ。なんせ数千も兄弟がいるんです。トライ&エラーはやり放題でした!」


くつくつと笑う。そして、


「人体だとどうなるんですかねぇ。実験したことはありませんが、試してみましょうかぁ」


笑顔で宣言すると、腕が焼けるように熱くなった。


「まずは腕ですかねぇ。足はヒレと違いがあるので最後のお楽しみってやつですぅ。どうですぅ?ノコギリザメさんに腕を削られる痛みは?」


町長たちは一人残らず苦しみだす。普通ののこぎりに比べて、切れ味が悪いので、引っかかる。そのたびに神経が悲鳴を上げる。≪光の剣≫のメンバーは身体が丈夫な分苦しみも長い。


「ふむふむ。人間も人魚も同じ反応をしていますねぇ。やはり上半身は同じなんですかねぇ」


助けてくれぇ!


「それじゃあ次はウミヘビを使いましょうかぁ。毒がいっぱい含まれていて苦しめますよぉ?それから、ワニさんにお腹を噛ませる?シャコさんのサンドバックになってもらって、ピラニアさんにも活躍してもらいましょうかぁ。あっ、アナコンダさんもいいかもしれませんねぇ。全身の骨を折りながら、苦しめるスペシャリストですからねぇ」


つらつらと上がってくる拷問リストに悲鳴が止まらなかった。そして、イレーナは感情をなくした瞳でゴミを見ていた。


「私はあっくん、そして、友達を傷つけるやつらは何があっても許しません。忠告を無視した貴方たちには慈悲はないです。最後に人魚の全身が見れてよかったですねぇ?それじゃあアデューで~す」


イレーナがニコニコと手を振った後、全身をギリギリまで苦しませた生き地獄を味合わせ、最後には何も残らなかった。


翌日、町長たちは行方不明として新聞に報道された。彼らの行方を知っているのは怒り狂った人魚姫だけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る