ブチキレあっくん

「ひっぐ、ひっぐ・・・これは夢よ。抱かれたのは私、あははは・・・」


イレーナと濃厚な昼と夜を過ごしてしまった。昼から晩まで俺が収まることを知らなかった。初めてイレーナに勝てたかもしれない。ただ、ぶっ通しだったので、気が付いたら俺が死にかけていた。イレーナが水をかけてくれなかったら死んでいたかもしれない。


イリスが壊れているが、俺たちのアレが聞こえていたのだろう。申し訳ないけど、イリスには俺以外の誰かと幸せになってほしい。


「あーくん以外の女になる気は全くないわ」


イリスは中々しぶとい。ここまで好かれて悪い気はしないけど、俺はもうイレーナなしでは生きていけないほどずぶずぶだった。


「もぅ!さっさと諦めてくださいよぉ!サザエのつぼ焼きをあげますからぁ」

「諦めるという選択肢はすでにないの。いただくわ。んぅ~美味しいわね」

「このマヨネーズとサザエの組み合わせが中々美味しいんですよ。人間って面白いものを作りますよねぇ」

「確かにそうね。コショウも合いそうじゃない?」

「名案ですね!」


イレーナとイリスが喧嘩したと思いきやすぐに仲直りして、会話を始めてしまう。喧嘩するほど仲が良いというが、この二人は典型的なそれだろう。


二人は絶対に認めないだろうけど・・・


それにしても酷いやつらが川島の実権を握っているなぁ。あれじゃあ地元は栄えないし、引っ越してこようなんていう住民が来ない。じいちゃんばあちゃん連中には申し訳ないけど、あんなやつらに権力を渡したことは悪手としか考えられない。


まぁイレーナが釘を刺したからこれ以上被害が起こるようなことはされないと信じたいけど・・・


「あっくん、そろそろ川に行きませんか?」

「おっ、そうだな」

「私も行くわ」


今日の朝は川にも行っていない。理由は俺。これ以上は言わない。今日は午後イチに行くことになっていた。


俺たちは土手を歩いて、川に向かう。


「私もイルカに乗ってみたいわ」


おもむろにイリスがイレーナに頼みごとをしていた。俺も乗ってみたいと思ったので期待の視線を送った。しかし、


「イルカさんたちは気難しいですからねぇ。心を許した人しか乗せることはないんですよ」

「そうかぁ・・・」

「残念ね・・・」


まぁそんなもんだよなぁ・・・


「じゃあ、あーくんに乗せてもらえないかしら?」

「何言ってんの?」


何が『じゃあ』なんだか教えてくれ。


「私の永久座席なので絶対に無理で~す!」

「なら奪うまでよ」


イレーナとイリスが喧嘩を始めた。俺はもう知らん。超高レベルの戦いが繰り広げられているが、俺は関与しないことにしている。川に付けば大人しくなるはずだ。


「ん?」


誰かが川にいる。昨日の権力者共かと思ったがそうでもなさそうだった。明らかに若い。十代後半くらいの集団で、明らかに地元の人間ではない。


だとしたら、運が悪い。俺は別の場所に行こうとポイントを変えようとするが、


「あっ!≪ガサガサあっくん≫だ!」

「マジでいるのな!」

「後ろのイレーナとイリスじゃね?」

「うひょ!超美人!」


大学生らしき人間が土手を上がってこっちに来た。しかも超が付くほどチャラい。


「おっす、俺たち登録者数三百万人の五人組ニンチューバ―の≪光の剣≫っす」

「ああ、どうも・・・」


まさか同業に見つかるとは・・・


川島は前にも言ったがアクセスが酷い。駅から行こうにも、最低五キロは歩かないといけないし、バスも一時間に一本。しかも、川まで歩くとなるともっと時間がかかる。車で来るにしても超が付くほど大変なはずなんだが・・・


こりゃあ本気で移住を考えないといけないかもな。


「いやぁまさか本当に≪ガサガサあっくん≫に会えるなんて・・・滅茶苦茶光栄っす!」

「はぁ・・・」


ん?今何か引っかかる言い方をされたような・・・


「それじゃあ、これで」

「ちょっと待った!代金を払ってくださいよ!」

「は?なんですかそれ?」

「とぼけないでくださいよぉ。これですこれ」


イリスとイレーナを嫌らしい視線で見ていた。俺は身に覚えがないので、詳細を見せてもらうことにした。そこには、


『先着一組!秘密の漁場を教えます!イルカを捕縛した者には一人百万円!達成した暁には美人なスタッフもお貸しします!≪ガサガサあっくん≫』


俺はSNSの公式アカウントを持っていない。だから、こんなのは出回るわけがない。胸糞悪いのはイレーナとイリスをお貸しすると書いてあることだ。俺がそんなことをするわけがない。


「これは俺が書いたものではありません。申し訳ないですが帰ってください」

「はああ!?ざけんな!てめぇがイレーナとイリスを貸すっていうからこんなクソ田舎までわざわざ来てやったんだぞ?」


本性を現してきたか。さっきから態度にイラついていたが、こいつらはいわゆる迷惑系ニンチューバ―ということだろう。


「知りませんよ。さっさとお引き取りください」

「ざけんな!朝からイルカなんていう生き物を捕まえるために、ダンジョン系ニンチューバ―の俺たちが出払ってやったんだぞ!?金を寄越せ!後女を貸せ!」


ダンジョン系ニンチューバ―


俺が会社でダンジョンを管理するように、個人やパーティを組んでダンジョンの配信をするというのが最近流行っているらしい。どうりで動きが素人じゃないわけだ。


それよりさっきから気になることを言っていた。イルカ・・・?


「きゃああああ!」

「!?」


俺は悲鳴がする方を見た。すると、網に引っかかり、傷だらけのイルカが捕えれていた。イレーナはそれを見て発狂していた。そのイルカはイレーナの友達だった。しかもそのイルカだけじゃない。十数匹捕えられていた。


「おっと、行かせないぜ。全く、魚ごときが苦労させやがって・・・」

「ってかここまで来てタダ働きじゃわりに合わんだろ。この女たちを犯してやろうぜ」

「はは、そりゃいい。広告にもスタッフを貸し出すってあるしなぁ!」

「酷い・・・」


イレーナは捕えられたイルカたちを見てぺたりと座り込んでいた。


十中八九あいつらの仕業だな・・・


裏で糸を引いてるやつらの詳細は分かった。だから、


「・・・イルカを開放しろ。そして二度とこの場所に来ないと誓え。そしたら、許してやる」

「「ぎゃははははははは」」


裏で糸を引いている人間を知らないようだからと最後の慈悲を与えたんだが、馬鹿な奴らだな。


「あっくん、立場分かってますかぁ?俺たちA級パーティなんでしゅよぉ?」

「カッコつけてるところ悪いけど、俺たちって最強だからなぁ(笑)」

「痛い目みないうちに「うるさいゴミね」は・・・あ」


イリスがスラっと鞘に剣を収めると一人が音もなく倒れた。


「は?おい?ヤマト!?」

「どうしたんだよ!?」


うろたえている≪光の剣≫をよそにイリスがこっちに来た。


「ごめんなさいね。最近気色悪い視線しか浴びてなくてストレスが溜まっていたのよ」

「ああ、いいよ。ただ、イリスには」

「分かってるわよ。イルカの解放とイレーナを見ててあげるわ。存分に暴れなさい」

「な、何言ってんだお前ら!?どうせ卑怯なことをやったんだろ!?」


四人はいつの間にか武器を構えていた。


剣士二人に、槍使い、弓使いか。


中々バランスがいいし、隙もない。A級パーティの名は伊達じゃないな。


だから、なんだって話だけど。俺はトライデント・・・ではなく、会社員時代に使っていた双剣を構える。トライデントを使うと人を殺してしまう恐れがあるからな。万が一のために持ってきておいて正解だった。


「はっ!不意打ちごときでいい気になる「おせぇよ」グハ!?」


俺は剣士の一人の首に肘鉄を落として気絶させる。そして、そのまま弓使いの弦を双剣で斬り裂き、腕をへし折って気絶させる。


「くたばれ!」


明らかに槍で心臓を狙っているこいつには双剣を足に突き刺す。苦悶の表情をあげたところで、顎に一撃。


「な、なんなんだよお前!こんなのどう見てもS級「うるせぇ」グフ」


俺は双剣の刃を持って柄の方を剣士の腹にぶん投げた。全力で投げれば大体のモンスターは風穴を開けることになるが、手加減した。


しかし、中々しぶとい。実戦から離れていたから、加減が分からなくなっているのかもしれない。すると、ニヤリと笑っていた。


「は、はは、残念だったな・・・・お前の暴行は全部カメラに収めた!裁判になったら俺たちが「ああ~知ってる知ってる」え?」


そんなことは知っている。ニンチューバ―になると、どこに撮れ高があるか分からないから、常にカメラをオンにする癖が付く。


「気が付かなかったのか?イリスが最初に六回・・斬ったんだぞ?」

「は?」


まぁそもそもモブAがなんで倒れたのかすら把握していないようだったし、その前にカメラを五台斬っていたのにも気が付かなかったのは無理もない。


「まぁ仮に俺の暴行がバレたとしても問題ないよ。だって、俺も配信してたしね」

「え・・・うそだろ?」


もう一度言うがニンチューバ―はどこに撮れ高が転がっているか分からないからカメラをオンにする癖がある。もっとも俺の場合は今日ついたものだ。昨日の反省を活かしてイレーナとイリス狙いの男がいたらすぐに付けるようにした。


”≪光の剣≫ってこんなやつらだったのか”


”コラボって言ってたから楽しみにしてたけど、イレーナさんとイリスさんを襲おうとした時点で終わってると思ったわ”


”クソ野郎だな”


”110番しました。大人しく捕まってくれ、と言いたいんだけど、そこはどこなんだ(笑)?」


「あ・・・あ・・・」

「人の女と幼馴染に手を出そうとした報いを受けな」


俺はうなだれているやつを置いてイレーナの元に行く。


「大丈夫か!?」


イレーナがイルカたちに触れていた。


「なんとか無事です。亡くなった子はいませんでした・・・」

「そうか・・・なら良かった」


イリスが網を外したおかげでイルカたちはなんとか水の中で力無く浮いていた。だけどその痛々しい姿を見て申し訳ない。俺がしっかりしていればこんなことにはならなかったはずだ。


「私には癒しの力があるので今日だけはこのまま彼らと一緒に水中にいます」

「分かった・・・」

「それじゃあ・・・」


イレーナはイルカを伴って川の底に向かった。俺はイレーナとは逆の方向に向かった。


「イリス」

「分かってるわ。こっちは任せて頂戴」

「恩に着る・・・」


俺は元凶共を潰しに行くことにした。

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