照れ人魚と煽り幼馴染

夜になって再び川に来た。


「こんばんは。≪ガサガサあっくん≫です。朝の放送を見てくれた人には痴態をさらしてすいませんでした。これから元気にガサガサをやっていこうと思うのでお願いします」


”あの後の詳細Kwsk≪2000≫”


”イレーナさんと○○○ピーしてたんか?”


”通報しました”


”イレーナさんとイリスさんが映ってるやん”


”仲直りしたんかな?”


視聴者には申し訳ないけど、詳細は話せない。いや、話したくない。スパチャを送ってくれた人には申し訳ないけどそこはプライバシーだと思って納得してほしい。


イリスはビキニの水着をシャツの下に着ている。ただ赤色という濃い色で、かつ、アレが大きいので俺からは色々見えてしまっている。しかも、シャツを腰のところで結んだへそ出しスタイルだ。腰には愛刀の≪霧時雨≫を携えている。


イレーナもいつもの貝殻ではなく水色のビキニをシャツの下に付けている。単純にエロい。


二人とも俺のシャツを着ないと嫌だと駄々をこねられたので貸している。それを見た時は一瞬前かがみになりそうだったが、二人の獣が俺を見て舌なめずりをしたのを見て、一瞬で冷めた。それでも水着の美女が二人もいたら、興奮を抑えられるわけがない。


「ふっ」


頬を両手でぶっ叩いて、俺はガサガサの準備をする。イレーナも今日は一緒にガサガサする。なんでも、


「私が泳いでいる時に泥棒猫さんがあっくんをさらおうと画策しているんじゃないかと思いましてねぇ」


とのことだ。イリスの方を見たら、顔を逸らして俺と目を合わせようとしなかった。俺はイレーナに近くにいるようにアイコンタクトで頼んだ。


網に関してはイレーナには自作のモノがあるらしい。見せてもらったら金とサンゴと真珠でできたヤバすぎる網だった。時価で数千万はありそうな網だった。だから俺は、


「イリス」

「なに?ってこれは・・・?」

「俺の網。持ってないだろうからあげるよ」

「なっ!」

「あーくん・・・」


イリスに網をあげたんだが、反応がおかしい。


もしかして安物すぎたか・・・?


カインズホー●に売っている千円くらいのやつなんだが、イレーナに比べると見落とりしてしまう。すると、イリスが俺の手を両手で掴んできた。


「やっと私の元に戻ってくる決意をしたのね!これって千円の網結婚指輪でしょ?」

「違うよ?」


とんでもない思い違いをしていた。


「あーくんったら、昔から照れ屋さんすぎよ。それにこんな大きな輪じゃ、薬指に入らないでしょ?」

「眼科に行けなのです!」


円形の形を見て、結婚指輪だと思ったなら病院に行った方がいい。イレーナが照れながら俺の千円の網を大事そうにしている。その姿を見て、イレーナが激昂する。


「貴方には金ぴかの網このゴミをあげるのですぅ!だからそれは妻として私がいただくのです」

「いらないわよ!そんな金ぴかの網ゴミ!」


なんで俺の千円の網と金ぴかの網で価値が逆転してるんだよ・・・


”あっくんのモノ>>>>>>金ということですね”


”俺も明日買いに行こう。このチャンネル見てるとガサガサしたくなる”


”俺はガサガサをやって人魚と幼馴染にモテるんだ”


”儚い夢だなぁ”


”明日休日だから埼玉の川にガサガサしに行こう。海の幸が獲れるかもしれない”


結局イリスとイレーナの喧嘩を止めるために、俺はもう一本の網をイレーナにあげて、その場を収めた。その時に「こんな金ぴかの網ゴミはもういらないのです」と川に捨てたので俺は全力で拾いに行った。


1000人の子供を養うためには、はした金を捨てるわけにはいかないからな。



配信を開始してから十分後、ようやくガサガサをはじめられた。二人とも俺の後ろにピタリと付いてきて、服を掴まれている。動きにくいから離してほしいんだけど、それでまた喧嘩が起こると面倒なので、そのまま放置している。


「配信を見たけど、信じられないわね・・・本当にこの川でサザエなんて獲れるのかしら」


まぁそれが普通の反応だろう。だけど、


「イレーナが俺の家に来てからこの辺りの川は川と同時に海の性質を持つようになったんだよ。なぁイレーナ」

「そうですぅ。どっかの幼馴染とは違って、私はあっくんの趣味の環境ですら整えてあげられるんですよ」

「あ?」

「お?」


俺を挟んでメンチをきるのは勘弁してください・・・


”マジでこの川はどこにあるんだ?”


”特定急げ!”


”早く見つけてくれぇ”


”さりげないこの修羅場が凄く良い”


”あっくん、羨ましいなぁ”


”俺はあっくんにサンドイッチされたい”


”What are you saying?(何を言っているんだお前は?)”


埼玉の川というヒントを元に特定班が俺たちのポイントを見つけようとしているらしい。


ただ、こんな川を見つけるのはロマンだろうけど、おそらく見つけられる人はいないと思う。その話は置いておこう。


俺は二人が争っている間に魚がいそうなポイントを探すことにした。すると、イイ感じのテトラポットが見つかった。俺はその下に網を入れた。


「この辺かなぁ」


”わくわく”


”楽しみ。何が獲れるんだろう”


”サザエか?”


”ヤバいの期待”


楽しみにしている等のコメントが溢れる。俺も楽しみだ。何が獲れるか分からないけど、大きい生き物かレア物が獲れるととても嬉しい。


「よし、これくらいかな」


俺は網を引き揚げる。ガサガサをやると土も混ざるから二十秒くらい何が入っているか見えない。そして、煙が晴れてきたところで俺は一匹ずつ生き物をカメラに見せていくことにした。


「どうですかぁ?」

「何が獲れたの?」


俺に密着しながら二人がこっちに来た。


”美女が獲れましたかってかぁ!?”


”しかも二匹も!俺もガサガサしたいよぉ!”


”そういうのいらないです(血涙)」


俺は見なかったことにした。そして、俺は網の中に入った生物をカメラに見せた。


「ジャンボタニシだ。テトラポットにくっついていたみたいだな」

「普通ね・・・」

「そうですか?海だと珍しいですよぉ?」


イレーナは海底に住んでいたから、淡水にいる生き物が珍しいのだろう。だけど、イリスの反応が普通だ。


どんどん行こう。


「それから、こいつはミシシッピアカミミガメですね」

「懐かしいわ。昔はよく、ふ・た・りで獲ったものね」

「お、おう」

「・・・」


脅迫まがいの同意を求められたので俺は頷く。すると、ドヤ顔でイリスはイレーナを見た。そして、イレーナの頭に怒りマークがついた。


”ガッカリ。面白いって言われたけどこれじゃあ普通だ”


”むしろ後ろ二人の美女のやり取りの方が面白い。


”頑張れイリスちゃん!俺は応援してるで!”


”俺もだ”


俺は後ろ二人を無視することにした。止めに入っても時間の無駄だ。俺が網の中に手を突っ込むと、珍しい生き物が獲れた。これはみんなびっくりするだろう。


「あっ、これはアンモナイトですね。珍しいなぁ」

「え?」


イリスがイレーナとの喧嘩を中断してこっちを見てきた。


”あんもないと、あんもないと・・・?アンモナイト!?え?マジ?”


”生きてんの!?”


”ヤバ。初めて見たわぁ・・・”


”絶滅したはずじゃ・・・”


”恐竜博士は今すぐこの動画を見ろ!ヤバイぞこれ!”


”おおおお玩具だろおおお!?”


”埼玉の川やべぇ!”


イリスの驚きとコメント欄の爆発は同時だった。イカのような見た目の生き物が真ん丸の貝の中から顔を出している。図鑑で見た通りのやつなので間違いないだろう。スパチャが一気に送られてきた。


「本当に図鑑で見た通りね・・・」

「なっ。俺も初めて見た」

「普通はみんなそうだと思うのだけれど・・・」


イリスが呆れていたが、俺はカメラに向かってアンモナイトを見せる。


「アンモナイトを見たことがある人はほとんどいないと思います。いやぁ、これは嬉しいですねぇ」


”生で見たことがある人なんていません(笑)”


”あっくんも中々感覚がバグってるよな”


”それ。ダンジョン管理会社で働いていたらしいけど、そこで価値観が変わったのかな”


”むしろイリス、イレーナさんの行動の方に驚いている節もある”


言われたい放題だけど、その通りかもしれないとも思った。ダンジョン内ではモンスターを討伐すればいいけど、人間は殺しちゃダメだから、必然的におっかなびっくり対応するしかない。


アンモナイトに対して驚かないのは最悪殺せばいいと思っているからかもしれない。


「それじゃあ次にいきましょう。まだ、入ってるみたいです」


冷静に自分を分析して、そのまま再び網の中に手を突っ込む。


「あっ、サザエも入ってますよ。今夜は蒸し焼きで食べたいですね。ビールも欲しいところです」


”アンモナイトからサザエの謎の安心感”


”分かる。普通の川にサザエがいることに違和感を感じなくなってきた”


”くっそお!俺も食べたいよぉ!”


”こんな月曜から華金が恋しくなる動画はやめてくれぇ!社会人には毒だ!”


言われてみればビールとサザエなんて社会人にとっては最高の組み合わせだ。今出してしまったのは申し訳ない。俺はそこにポテトサラダも付けるんだけど、これは内緒にしておかないとダメな気がしてきた。だからこれ以上は黙っていることにした。


「本当に海そのものなのね・・・」

「ふふん!これが私の力なんですよぉ!ほれほれ何か言ったら「本当に凄いわね」え?」


イレーナはイリスに褒められたことに驚いて固まってしまっている。すると、そのままイリスが言葉を続ける。


「この目で見るまでは信じられなかったけど、こんな奇跡みたいな力を見せられたら素直に賞賛するしかないわね。凄いわイレーナ」

「あっ、あの、ええと、はい」


イリスが目をキラキラさせながらイレーナを褒めているんだが、イレーナが後ろを向いてしまった。イレーナの様子がおかしい。


「どうかした?」

「あ、えと、私って劣等種の人魚だったので貶されたことしかなくて・・・だから、敵とはいえ、心の底から褒められると、ちょっと・・・」


喜ぼうとして、だけど、敵だからとジレンマに陥っているようだった。その様子が可愛すぎてもっと見ていたかったため、俺は心を鬼にした。


「イリス!イレーナがお前に褒められて嬉しいってさ」

「あっくん!?」


裏切られたような顔をしているが、イレーナの魅力を引き出すためだ。仕方がない。うん。ポカポカ殴られるがその威力はトライデントがなければ内臓が破裂しているレベルだった。


「そう・・・そうやって、私を出汁にしてイチャイチャするのね、あーくんは・・・グス」


”あっくん、鬼畜すぎ・・・”


”イリスちゃん頑張れ!”


”幼馴染はNTRされる運命なんよな・・・”


”なんだろう。泣き止んでもらってもいいですか?≪10000≫”


イリスが川の深いところに沈もうとしていたので俺が全力で止めに行こうと思ったら、意外なことに脇からイレーナが飛び込んだ。


「どうして・・・?」

「か、勘違いしないでください!私を褒めてくれた人と友達になりたいと思っただけで、それ以外に他意なんてないんですから!」

「そのまんま言ってるじゃん」

「あっくんは黙っててください!」


本心しか伝えていないツンデレらしきものに冷静にツッコミをいれるが真っ赤になったイレーナに口封じをされた。


”百合の波動を感じた”


”百合警察です!堂々といちゃつきなさい!”


”イリスさん、イレーナさんとお幸せに”


百合は早いと思うが、思い返してみるとイレーナって同性の友達はいないな。近所のばあちゃん連中たちは友達というよりも孫と娘の関係と言った方が正しい。となると、同年代のイリスとは仲良くなりたいということか。それはぜひそうしてほしい。


イリスの性格の良さなら俺が保証する。なんせ小学生の頃から一緒にいるからな。あいつの性格の良さなら俺が一番わかって・・・


「友達になりたかったら、あーくんと別れて私に土下座しなさい。それから私とあーくんの〇〇〇ピーを指をくわえて眺めながら「いっぺん沈んでこい!なのです!」ブクぅ!?」


あれれぇ?おっかしいなぁ?イリスが右手で首をかき斬るジェスチャーをしながらイレーナを挑発したような気がしたんだけど気のせいだよなぁ?


”イリスさん最高(笑)”


”いい性格してんな(笑)”


”イレーナさんの友達にぴったりじゃん”


”二人で百合空間を作り上げてほしい”


イリスがイレーナに沈められたんだけど、命までは奪わんだろ。たぶん。大丈夫だよね・・・?


ザザーン・・・


「ん?」


突然、波が強くなってきた気がする。陸に打ち付ける川の音が少し強い。イレーナが暴れているのかと思ったが俺の直感が違うと言っていた。すると、異変はすぐに分かった。川面に巨大なヒレが現れた。


”サメ・・・?”


”デカすぎる。ジョー●じゃん”


”ホオジロサメ?”


”川にホオジロザメっていう時点で色々おかしいけどな”


サメ映画の金字塔であるホオジロザメを想像するのは仕方ない。俺も一瞬そう思った。だけど、


「いや、違いますね。ホオジロサメは前に倒しましたが、あんな大きくありません」


”倒したんかい(笑)”


”その動画みたいなぁ”


”普通に言っているけど、あっくん強すぎん?”


”それな。過去が気になるわ”


”ってことはどんな種類のサメなんだ?”


”ジンベエザメとか?”


視聴者の予想はすべてありうる。だけど、俺の勘が今泳いでいるそいつを常識で捉えてはいけないと言っている。


メガロドン・・・・・ですかね」


絶滅したはずの超巨大なサメ。イレーナの力でこの辺りに現れても不思議ではない。



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