人魚と幼馴染は反省しない

「おはようございま~す。今日も元気にガサガサしていきたいと思います」


イレーナのエネルギー補給と配信のために再びいつもの川に来ていた。ただ、


”おはよう、あっくん、イレーナさん”


”この配信を見るためだけに超絶早起きになった”


”俺は逆に超夜更かしするようになった”


”隣にいる子だれ?”


”あっくんの唇を奪った子だ”


”会社の同僚の子じゃん。超絶美人”


”あの後のことをkwsk”


今日はイリスも付いてきていた。朝五時だっていうのに早起きだなぁとイリスに言ったら、


「貴方たちが、寝かせてくれなかったからでしょ、グス」


瞳に涙を浮かべながら言われてしまった。確かに熱い夜を過ごしてしまったので、そこは申し訳なかった。「罪悪感があるなら私を連れてって」と言われたので、俺はイリスをガサガサも連れてガサガサに来ていた。


その時のイレーナの視線が物凄く痛かったけど・・・


さて、イリスをどう紹介するかな。イリスが配信に映っているのはイリス自身の願いだ。なんでも配信をやってみたかったらしい。しかし、安請け合いをしたことをこれから後悔することになる。


「はじめまして、高梨イリスです。あーくんとは小学校からの付き合いよ。これから、か・の・じょとして、一緒に活動していくのでよろしく」

「ファ!?」

「何言ってんですかぁ!?」


”あっくん浮気か!?”


”イレーナさんというものがありながら何をしてんだ!”


”お・も・し・ろ・く・な・って・き・ま・し・た!”


”修羅場キタア!”


”おら、あっくん!素直にお縄につけ!”


”イリスちゃん頑張れ!”


イリスの爆弾発言でコメントが大盛り上がりを見せる。


まさか配信に映りたいって外堀を埋めるためか・・・?


イレーナも珍しく狼狽している。イリスを見ると悪い顔で笑っていた。そして、俺の方を見てウインクをしてきた。


くそ!可愛いぜ!


「あっくん・・・?」


コホン!


そ、それよりどうするか・・・


このままだと俺はイレーナとイリスを手籠めにした変態鬼畜野郎として名を馳せることになってしまう。俺は彼女に助けを求める。すると、「仕方がありませんねぇ」と言ってフォローしてくれるそうだ。


「おはようございまぁす!」


”お美しい”


”おはようイレーナさん!”


”可愛い”


”あっくん浮気してんの?”


”正妻様”


イレーナは元気よく挨拶をする。それだけでファンたちはスパチャをしてくれるんだから、ありがたいもんだ。


「違いますよぉ。イリスさんはあっくんのことが好きすぎて彼女だって夢を見ているだけなんですよぉ。なので、皆さんも温かい瞳で見守ってあげてくださいねぇ?」

「は?」

「あん?」


火に油を注ぐなよ!?


イレーナの挑発で二人がカメラの前でガンを飛ばしあっている。事態の鎮静どころか炎上させてしまっている。


”あっくん、罪な男!”


”朝から面白いものを見させていただいています”


”あっくん、どっちが好きなの?はっきりした方がいいのでは?”


”三角関係か。とりあえず爆発しよう”


ワクワクと嫉妬が俺にぶつけられまくっている。面白がって静観している人たちがほとんどなのだろう。


とりあえず止めないと。


「イレーナは俺の彼女兼婚約者でイリスは俺の幼馴染です。昔から家が隣で仲良くしていたんですよ」


『”おおおおお”』


「流石あっくん!よくわかってますねぇ」

「グス・・・何でよぉ」


コメントは俺に対する賞賛で溢れていた。昨今のハーレム野郎じゃないと女性からの評価も高い。はっきりと主張できるところは主張しておく。ただ、泣いてしまっているイリスに対しては心の中で平謝りしておく。


しかし、イリスの暴走を俺は止めることができなかった。


「先日、イレーナの前で〇〇〇ピーしたのに・・・あーくんにとって私は都合の良い女だったのね・・・」

「え?」


聞き逃せないことを言われたような気が・・・


「でもいいの。あーくんとの関係は夫婦だけじゃないと思うの。〇〇〇ピー○○○ピーであったとしても最終的に私の元に戻ってきてくれたらそれでいいのよ・・・」

「ち、違う!何を言ってるんだイリス!」


”あっくん・・・”


”サイテー”


”モテ男には死を”


”イレーナさんの目が(笑)”


”浮気発覚か!?”


イレーナとのアレでイリスが可笑しくなっていた。おそらくあの日の出来事を自分の脳で処理できなくなって、イレーナと自分を入れ替えたんだと思う。ただ、こんなところで放送禁止用語を使われても困る。だから、止めようとしたのだが・・・


「はぁぁ!?何言ってるんですか!私とあっくんが○○○ピーした過去を勝手に改変しないでくださいよ!イリスさんを諦めさせるために○○○ピーしただけなんですから!」

「お前もか!?」


イレーナもイリスに当てられて暴走を始めた。


”あっくん・・・”


”事実だとしたら鬼畜すぎるわ”


”昨今のNTR本じゃねぇか・・・”


”そんな現場に鉢合わせたら脳がぐちゃぐちゃになるわ”


”私は興奮してきた”


”俺も”


”ヤバいのが誕生してる”


コメントもヤバイ。このままだとNinTubeのアカウントが凍結させられる。俺は全力で止めに入ろうとするが、


「あーくんのはじめての○○○ピーは私よ!○○○ピーして○○○ピーされて○○○ピーされるのが夢だったんだから!」

「そんなのは私が叶えてますよぉだ!○○○ピーした後に○○○ピーして〇〇〇ピーしてあげるとあっくんは〇〇〇ピーしちゃうんですよ!」


俺の性癖が赤裸々に配信に流されてしまう。


”あっくん、可哀そう”


”ごめん、同情するわ”


”ここまで赤裸々にされたら俺だったら生きていけない”


”同接者数一千万・・・つまり、あっくんの性癖が一千万人にバレた、と・・・”


”元気出せよ≪10000≫”


今度は一転、俺への同情コメントであふれかえった。それを見て俺の心は凪のように静かになった。今ならなんでもできそうだ。


「あっくん?」「あーくん?」


俺が二人の傍に行くと、俺の異変を察知して喧嘩をやめた。そして、俺もここ一番の笑顔になる。そして、


「お前ら、いい加減にしろよ?これ以上余計なことを喋るようなら、どうなるか分かってるよな?」

「「は、はい」」


俺の言葉に二人は黙った。ようやく分かってくれたか。そして、俺は配信を消すことにした。


「馬鹿二人のせいで垢バンを喰らう可能性があるので、この配信を消します。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。その代わりといっちゃなんですが、今日の夜にまた配信をしますので、それを見ていただければ嬉しいです。本当にすいませんね」


”こわこわあっくん・・・”


”いいよいいよ。楽しませてもらったし!むしろ一日で二回も見れる方がお得”


”それな。後で楽しみにしてますね”


”だいぶ楽しませてもらいました。消される前にスパチャです≪1000≫


”俺からもです。どうぞ≪2000≫


視聴者の温かいスパチャに感謝。そして、俺は最後に一言挨拶してこの動画を締めた。


「さて、俺はこれから家に帰って寝るので二人とも部屋に入らないように」

「え?それじゃあ私は・・・」

「部屋に入らないように」

「はい・・・」

「イリスもな?」

「分かったわ・・・」


イレーナがしゅんとしているが、俺は心を鬼にする。


そして、家に帰ると、ドアにカギをかける。イレーナには液体化という技があるが、入ってきてもすべて無視するつもりだ。


久しぶりにアパートに一人だ。イレーナもこの辺りのじいちゃんばあちゃんと仲よくしている。だから、家にいれなくても居場所はあるはずだ。たまにはしっかり反省してほしい。


なんだけど・・・


「あっくんのあの表情、たまりませんでしたね・・・」

「分かるわ・・・あの射抜くような視線だけで私も・・・」


隣の部屋でイレーナとイリスが俺の下の話で盛り上がっていた。


壁が薄すぎて全部聞こえてるんだよ・・・


全然反省していないイリスとイレーナに頭痛がしてしまった。ただ、俺を犠牲にして仲良くなったっぽいので、結果オーライだと思うことにした。



17時くらいになった時に、俺は家の鍵を開けた。すると、ダッシュで二人が部屋に入ってきて、すぐに正座をした。形だけなら立派な謝罪だ。しかし、


「・・・反省した?」

「はい・・・」

「私もよ・・・ごめんなさい」


うそつけ!


堂々と嘘を付いてきた二人に全力でツッコミを入れたいが心の中で我慢する。


ずっと俺を題材にした猥談をしていたくせに・・・


ついでに俺が消した配信の切り抜きが出回っているのを確認した。一人は言わずもがな≪夜の覇者≫さん。


もう一人は≪壁の向こうの夫の嬌声≫さん。


ツッコミどころはたくさんあるけど、なんか、本当にすいません・・・


二人が三十分に一本のペースで切り抜きをあげていた。隣の部屋で編集している声がずっと聞こえて来ていたので間違いないだろう。


俺はこれ以上相手にするのは時間の無駄だと思ったので、夕食の食材を獲りにいくことにした。


━━━━━━━━━


応援してくださる方は☆☆☆やブクマをしてくれるとありがたいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る