鬼畜人魚と幼馴染

結局あの後は警察が来て事態を収拾してくれた。社長は横領やパワハラ、労働基準法違反やその他諸々の罪で連れてかれた。藪をつついたらたくさん悪いことが出てきたということで現行犯逮捕だった。


山本は俺への暴行罪、イリスへの痴漢行為で連れてかれた。イレーナもさりげなく暴行を加えていたが、その部分だけ動画が切れていたので、山本は打ち所が悪かったということで事件が終わった。


「サンゴで殴られたんだ!」とかわめいていたが証拠品は全くないため、訴えは聞かれないまま社長と仲よく連れてかれた。


結局、退職金はもらえず仕舞いだったが、それを引いても余りあるほどのスパチャと再生回数で俺は一日で数千万の利益を得た。そして、イレーナが積極的に切り抜きを行い、さらに利益を伸ばす。暴露系の話はやはり美味しいらしい。


おそらくだけど、イレーナはここまで計算していたんだと思う。


だって、切り抜きしている時に「計画通り」って言ってたし・・・


同僚たちは俺に「冗談だったからな?」とか「実は信じてたぞ」とか色々言ってきた。俺が配信で甘い汁を啜ってると思って、お近づきになりたいという魂胆が見え見えだった。だけど俺からしたらこいつらも復讐対象だ。誰一人として、俺の味方をしてくれなかったからな。


この不景気に仕事がなくなる苦しみを存分に味わってほしい。


というのが表の顛末。問題はその後のイリスだった。イレーナと一触即発という雰囲気だったが、配信されていたり、片付けなければならないことがたくさんあったため、一時休戦ということになった。


視聴者たちは俺たちの様子を撮影してほしいと嘆願してきたが、流石にプライベートすぎるので撮影は止めた。


「一週間後に前原君の家に行くわ」


俺に拒否権はなかった。


そして、今が一週間後の今日。俺の部屋では丸いちゃぶ台を中心にイリスとイレーナが向きあい、俺が真ん中でちょこんと正座しているというシュールな絵面だった。


「「・・・」」


イレーナは笑顔でさっきからイリスを見て、イリスもさっきから一言もしゃべらない。俺はというと、


「お茶汲んでくるわ」


十五回目のお茶くみ。気まずくて何もできない。しかし、俺の家にはもう茶葉がない。ほとんどお湯の出涸らしになっていた。


高梨イリス


俺の小学校の頃からの幼馴染だ。小中高大すべて同じで、就職先まで同じの生粋の幼馴染だった。家も隣で昔から仲が良かった。北欧系の血が混じったハーフで雪のような長い髪と吸い込まれそうな赤い瞳が特徴的な超絶美人だ。


スタイルも抜群で、頭脳明晰、そんな完璧超人だったのでどこにいってもファンクラブができるほどの人気を誇った。


おかげで近くにいた俺は嫉妬の対象だったけど・・・


そんなイリスがイレーナと本気で向き合っていた。そして、ついに場面が動いた。


「どうも、高梨イリスさん。いつも、主人・・がお世話になっております」


イレーナが仕掛ける!主人の部分が滅茶苦茶強調されていた。


「こちらこそ、私のあーくん・・・・がお世話になっております。配信面白かったですよ?」


イリスもピクンと眉を動かした後、笑顔で返した。


怖いよぉ・・・後、「あーくん」なんて言われたことはないよぉ。


「ふふ、ありがとうございます。ですが、『私の』っていうところは訂正してくれますかぁ?あっくんと私は既に身も心も通じ合っているんですよぉ。ぶっちゃけぇ?幼馴染さん・・・・・がぁ、出てくる余地はないほど私とあっくんは愛し合っているんですよぉ。ですよねぇ?」

「そ、そうだな」


イレーナがイリスに挑発しながら俺に聞いてきた。どもりながら返事をすると、イリスの額には怒りマークが浮かび上がってきていた。


「愛し合っている・・・ねぇ。だけど、それはイレーナさんの幻想よ」

「・・・それはどういう意味ですか?」

「そんなのあーくんはずっと私のことを好きだったからよ。ねぇあーくん?」

「え、いや、その」

「そうよね?」

「はい・・・」


確かに好きか嫌いかで言ったらイリスのことは好きだった。いつからか分からなかったけど、意識していたのは事実だ。バレていたのかと恥ずかしくなった。


「ふふふ、何を言うかと思えばそんなことですかぁ」


今度はイレーナがマウントを取りに行く。イリスが眉をひそめる。


「・・・何が可笑しいのかしら?」

「それはあくまで過去のことでしょう?大事なのは今なのです。ほらほらあっくん。どっちを愛しているのかはっきり教えてあげてください」

「え、とイレーナです。はい」


俺の本心だ。イリスには申し訳ないが俺の今の彼女はイレーナだ。諦めてもらおう。そう思っていたのだが、イリスは溜息をつくだけで、俺の方を優しい表情で見てきた。


「可哀そうに・・・この淫乱尻軽女に洗脳されていたのね・・・無理しなくていいわよ?」

「それはこっちのセリフですぅ。妄想負け犬残念幼馴染が何か言ってますねぇ(笑)?現実を突きつけてやってくださいよ、あっくん」

「「二コリ」」


ヒぃ・・・もう怖いよぉ。


お互いに最高の笑顔だ。イリスのあんな笑顔なんて見たことがない。それが合図になって嵐が始まった。


「あっくんは私のものです!泥棒猫はさっさと家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってやがれなのです!」

「それはこっちのセリフよ!人魚だかなんだか知らないけど、私のあーくんに色目を使わないで頂戴!私とあーくんは今年中に結婚する予定だったんだから!」


え?そうなの?


全く身に覚えのない情報を伝えられてぎょっとしてしまった。


「そんな妄想なんて知りません!現に結ばれているのは私です!それにあっくんと私は子供を1000人作ってここに楽園を作るのです!志から既に貴方の負けなんです!」

「志に貴賤はないわ。頭大丈夫ですかぁ(笑)?大事なのはどう暮らすかよ!これだから淫乱人魚は・・・」

「お、お前ら落ち着けって」


身を乗り出して喧嘩を始めた俺は仲裁しようと間に入ろうとするが、ヒートアップした二人を止められなかった。


「あーくんは私のことが大好きなのよ!あーくんの検索履歴は中学生の頃から『幼馴染 距離を縮める方法』『幼馴染 付き合う方法』『幼馴染 巨乳』で埋め尽くされていたんだから!」

「え?なんでイリスが俺のスマホの検索履歴を!?」

「残念でしたぁ!今のあっくんは『人魚 〇〇〇する方法』『人魚 夜の戦い』『人魚 体力負け』で埋め尽くされているんですよ。幼馴染の履歴なんて彼方の空に消えているんですよぉ!」

「いや、ちょ!」

「そ、そんなの序の口よ!あーくんは高校生の頃から私と会話するときに、三秒に一回私の胸を見るのよ!」

「ち、違う!そんなことはない!」

「私なんて毎日見られてますよぉだ!見ていないフリをしてチラ見しているところが可愛いんですよねぇ!」

「それは共感できるわ!」

「やめてくれぇ!」


イレーナにもイリスにもほとんど気が付かれていたことに俺は情けない気持ちになった。



「ふーふー」

「はーはー」

「・・・(チーン)」


一時間後。俺をどれだけ知っているかというマウントの取り合いで巻き添えにされた俺は死にかけ、二人は肩で息をしていた。


「中々やりますね・・・」

「そっちこそ。あーくんのストーカーをするだけあるわね」


なんか二人で認めあっちゃってるよ。そのまま二人で仲良くしてほしい。ただ、そろそろこの勝負にケリをつけなければならない。この戦いは俺以外では止められない。


「ふぅ」


俺は覚悟を決めた。イリスは社長室でグズグズしていたとか言っていたが俺もそうなのだ。お互いのすれ違いでこんなことになった。その責任は取らなければならない。


「イリス、あのな「聞きたくないわ!」」


イリスから激昂が向けられた。


「この一時間で良く分かったわよ。その女とあーくんが本気で好きあっているなんて・・・だけど、そんなの簡単に認められるわけがないじゃない!ずっとず~~~っと好きだったの、それがこんな形で終わるなんて嫌よ!」

「イリス・・・」

「ねぇあーくん、私と一緒に居てよぉ。一生のお願い・・・・・・だからぁ・・・」

「っ」


イリスが泣きじゃくってしまった。


『一生のお願い』


俺とイリスがどうしても頼みたいことがあった場合に使っていた小学生の頃からのポーズ。俺は多用していたがイリスから使われたのは初だった。


「グス・・・グス」


こんなイリスを見たら、俺も突き放すなんてできない。本気で俺を好きでいてくれたということがありありと伝わってきた。俺はどうしたもんかと考えていると、


「分かりました」


俺とイリスの会話を黙って聞いていたイレーナが割って入ってきた。イリスも泣くのを止めてイレーナを見ていた。


「『分かりました』ってどうする気なんだよ?」


まさかイリスの熱量に押されて俺を捨てるとかじゃないよな・・・?


俺は戦々恐々としていると、イレーナが俺の方に来た。


「グス・・・何よ?別れてくれるってこと?」


目を赤くしながらイレーナに聞くが、首を振った。


「イリスさんがあっくんのことをどれだけ好きかということがわかったのです。その思いと熱意を嫌でも感じさせられます」

「当たり前じゃない・・・あーくんのことは誰よりも好きよ」

「ええ。その熱量だけは私にも匹敵するでしょう。現にあっくんも絆されています」

「ご、ごめん」


情けない・・・イレーナという最愛がいながら幼馴染のことを心配してしまうなんて・・・


俺はスパっと言えない自分が嫌になった。すると、イレーナが俺の手を取った。そして、


「なので、イリスさん。私とあっくんがどれだけ愛し合っているかを思い知らせてあげましょう!」

「「は?」」

「では、いただきまぁす!」

「むぐぐ!?」

「いやぁぁぁぁ!?」


俺はイレーナに無理やりキスされた。大人のキスだ。口の中に浸食してくる。それよりもイリスが頭を抱えて発狂していた。


「ぷはあ」

「なにしてんのよ!?」


イリスがイレーナに真っ赤な顔で指を指して抗議するが、イレーナは舌なめずりをして、淫靡な表情を浮かべるだけだった。


「何ってイリスさんを諦めさせるためですよぉ。これからあっくんと私の営みをそこでじっと見ていてくださいな」

「そんなこと許すわけ・・・って何これ?水!?」

「はい。私の力で拘束させていただきました」


イリスは両手両足を水の縄で縛られて床に芋虫のようになっていた。


「それじゃあ、あっくんも準備してくださいねぇ」

「な、なあ?いくらなんでもここまでする必要はないんじゃ・・・」

「そんなことはありません!イリスさんは並大抵のことでは諦めないほどあっくんのことを好いています!だったら私たちもそれに応えるべきです!」

「でもなぁ・・・」


普通に夫婦の営みを見られるのって恥ずかしい。すると、イレーナは不満な顔で俺を見てきた。


「もぉ!あっくんは意気地なしですねぇ!分かりました。積極的にあっくんから攻められたかったですが、今日は私のされるがままになっていてください!」

「え?いや、ちょっとぉ!?」


俺もイリス同様、あお向けで拘束された。そして、イレーナは服を脱ぎ、俺もイレーナの水に服を脱がされた。そして跨ってきたイレーナは舌なめずりをして、


「ふふ、それじゃあいただきまぁす!」

「いや、待って、ダメよ、ダメ、お願い、いやああああああああああああああああああ」


イリスの悲鳴とイレーナの嬌声が俺の部屋に響き渡った。



「グス・・・グス・・・」

「ああ~気持ちよかったですぅ」


泣きっぱなしのイリスと肌がもちもちして満足したイレーナのコントラストが酷い・・・


天国と地獄を見ているようだった。


「私のあーくんがぁ・・・ははは、別の女に犯されてる、あはははは」


イリスは泣きながら笑っていた。完全に壊れてる。俺はいくらなんでもやりすぎなんじゃないかとイレーナに抗議の視線を送る。けれど、イレーナは俺の視線など意に介さず、壊れたイリスの元に行く。


「どうですか?これであっくんと私がいかに愛し合っているか分かったでしょう?」

「・・・」


鬼畜か!


俺の心情とは無縁に凄いいい笑顔でイリスにとどめを刺しにいった。ピタリとイリスは泣き止む。


「もう他人が入り込む余地なんてないんですよぉ」

「・・・」

「ですので諦めて「・・・す」え?」


イリスがガバっと立ち上がってイレーナを睨みつけた。


「こんな屈辱生まれて初めてだわ!絶対あーくんは私が取り返す!」


イリスはイレーナを見ながら、高らかに宣言した。


「待っててねあーくん!そこのド淫乱鬼畜人魚から解放してあげるんだから!」

「あっ、はい」

「イレーナって言ったかしら?首を洗って待ってなさい!私を怒らせたことを絶対に後悔させてやるんだから!」

「おいイリス!」


そう高らかに宣言してイリスは俺の部屋から出て行ってしまった。「NTRなんて認めないんだからぁぁぁぁ」と外から聞こえてくるが、俺がベランダから外を見てもイリスの姿は見えなかった。


あのクールなイリスがここまで壊れるなんて・・・


すると、お茶を飲んで落ち着いている人魚がくつくつと呟いた。


「あっくんのことを好きな女の目の前でヤるのはいいですねぇ。この優越感は中々甘美ですぅ・・・ってあっくんどうかしたんですか?そんな怖い顔して?え?正座?いや、あの、はい・・・」


ひれで正座はキツイと言われたが、そんなことは知らない。俺は一緒に暮らして、初めて本気でイレーナを叱った。



一週間後


「隣に引っ越してきた高梨イリスです。あーくんを返してもらうまでの間だけど、よろしくお願いね?イレーナさん」

「あらあらご丁寧にどうも。お・と・な・り、さんとして末永く仲良くしましょうねぇ?イリスさん」


俺の家の玄関の前でイレーナと新たに引っ越してきたイリスお隣さんがバチバチにやり合っていた。


俺の胃はストレスで限界を迎えそうだった。


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