人魚と将来設計

いやぁまさかあそこまでバズるとは・・・


埼玉県産のサザエに始まり、そして、俺のシーサーペントの討伐。普通の、しかも超絶馬鹿にされていた埼玉の川で行われていたことでニュースにまでなっていた。


『ガサガサあっくん、サザエの淡水養殖成功か!?』『海の大蛇!埼玉の川に爆誕!』『可愛い彼女が人魚だった!?』


Twitterのトレンドにも『埼玉 サザエ』が入っていた。俺が動画を消そうとも意味がないだろう。既に切り抜きが出回っているのだ。しかも俺の顔どころかイレーナの顔までバレているのだ。どうしようもないだろう・・・


だけど、張本人は、


「ここのあっくんはセクシーですねぇ、あっ、ここも!これは私に抱き着かれて赤くなってるあっくんです!世界で一番かわいい!私のオカズが満たされていきますぅ」


動画の切り抜きを率先してやっている。≪夜の覇者≫とかいう厨二ワードを使ったアカウント名を作って勝手に切り抜き動画を作っていた。自分の観賞用にやってるんだろうけど、俺が恥ずかしいからやめて欲しい。


後、俺が拡散をどう止めるか考えている時になぜ率先して拡散しているんだろう・・・


味方に後ろから刺された気分になった。めちゃくちゃ再生回数が増えているのも納得いかない。しかし、途中で手が止まる。しかもハイライトを消した瞳で画面を見ていた。


「どうしたの?」

「ん」


そういってスマホを見せられた。そこには、


”こんなうだつの上がらない男よりも俺の方がカッコいいし夜も満足させられますよ”


”カス男。死んだ方がいい”


”気持ち悪いわ、このカップル”


”一か月後に別れるな”


”あっくん不細工だね”


”美女と野獣、月とすっぽん。不細工しか選択肢がなかったんですね(笑)”


俺への誹謗中傷が書かれていた。挙句の果てには強姦とか強盗をしていたとか身に覚えのないことを言われていた。なるほど、これがアンチか。


「とりあえず〇してきますね!」

「ちょっと待てぇ!」


イレーナが笑顔でトライデントを持って、アンチを潰しに行こうとしたので、俺は全力で止めにかかる。


「離してください!私のあっくんがこけにされて落ち着いていられません!」

「だからって〇そうとしちゃダメ!」


イレーナが怒り心頭だ。ここまで想われているのは素直に嬉しい。だけど、暴走したイレーナは恐ろしい。おれなんかじゃ歯が立たない。海神の後継者だったのにその席を捨ててきた人魚だ。じゃなかったら毎日毎日、吸い尽くされない。


仕方ない。これは恥ずかしいがやるしかないか。


「イレーナ!」

「なんうむむむむ!?」


イレーナの唇を無理やり奪う。俺からするのは恥ずかしくて中々できないが、たまに「あっくんから襲われたいですねぇ」とちょくちょくアピールされるので、やってみた。すると、イレーナがとろんとしてきて、そしてへたりこんだ。


どうやら、落ち着かせるのに成功したようだ。俺は一安心した。しかし、次の瞬間に別の問題を発生させてしまった。


「もぉ、あっくんったらぁ。私の発情スイッチを押してしまうなんていけない夫ですねぇ。でも仕方がありません。あっくんから襲ってくるなんて中々ありませんしね」

「え?イレーナ!?」

「はぁはぁ、あっくんがいけないんですよぉ?それじゃあいただきまぁす!」

「あああああああああ」


俺は無理やり地面に押し倒されて、アンチの代わりに犠牲になったとさ。



「ふぅ、やっぱり愛し合うことは大事ですね!」

「う、うう情けない・・・」


俺はエネルギーを吸いあげられた。一回戦で終わることは全くなく、結局イレーナのされるがままにされてしまった。いつも通りとはいえ、たまにはぎゃふんと言わせたいのだけど、どうしても体力負けしてしまう。


「配信の話に戻りますが、私としてはガンガンやっていくべきだと思うんですよぉ」

「え?なんで?」


俺としてはなんとか火消しに回るべきだと思っていたから意外だった。


「これを見てください」

「ん?」


俺はイレーナにスマホを渡された。


”埼玉に幸あれ!≪2000≫”


”俺たちの埼玉を頼んだ!≪5000≫”


”ラブラブカップルめ!爆発しろ!≪2500≫”


”シーサーペント瞬殺は面白かった!≪300≫”


”イレーナさんが美女人魚すぎる≪400≫”


「これは・・・」

「スパチャというらしいですよぉ?通称投げ銭といって、これだけで百万円近く稼げていますねぇ」

「え?マジ?」

「マジです。そこに加えて再生数が加わるのでいっぱいお金が増えるのです」


イレーナには誇張して伝えたけど、俺はチャンネルを作っただけで、全く撮影などやったことがないチキンだった。それに加えて、仕事に忙殺され続けたので、動画など観ている時間がなかった。


NinTubeもここまで進化していたのかぁ。投げ銭なんて新しい機能ができているなんて凄いわ。


「あっくんの貯金をこのまま切り崩していってもゆでがえるになるだけです。それなら配信業を始めましょう!配信をするだけでお金もがっぽがっぽ入るなら、これほど楽な仕事はないのです!」

「そ、そうか」


イレーナが熱く語ってくる。それにしても意外だった。


「イレーナがお金のことを俺に言ってくるなんてなぁ。何か欲しい物でもあるの?」


裕福ではないけどこのまま暮らせばしばらくは持つ。川で軽く漁をすれば、食べることには困らない。家賃だって全部合わせて二万いかないくらい。あんまりにも高級だとキツイけど、イレーナの欲しい物くらいは男としてしっかり出してあげたい。


「子供が欲しいのです!」


ズルっと転げ落ちた。それなら、毎日夜にヤルことをやってるはずなんだけど・・・


すると、イレーナはスチャっと眼鏡をかける。俺が会社で使ってたブルーライトカットだ。知的なイレーナも可愛い。


「ふむふむ、今度はこの眼鏡を使ってヤリましょう」

「あっ、はい」


夜のバリエーションが増えた。


「というのは1%の冗談で」

「99%はマジなのか・・・」

「あっくん。私の夢を言ってください」

「夢・・・?」


はて。イレーナの夢ってなんだ?そんなことを聞かされた覚えはない気がするんだけど・・・


「お忘れですか?1000人の子供を作って、楽園を作ることなのです!」

「え?それマジなの?」

「大真面目ですよ!これを見てください!」


そう言われてスマホの画面を見せられると、子供の養育費について書いてあった。


全部公立で大学も国公立にいれるとなると800万円、全部私立だと2000万以上もするのか・・・


改めて親に感謝したいと思った。すると、イレーナが恐ろしいことを言ってきた。


「私たちの子供にはしっかり教育を受けさせたいのです!ですから1人2000万、それを1000人ですから、200億稼ぐ必要があるのです!」

「無茶すぎるだろ!?」


せめて国公立にしてくれといいたいところだが、それでも80億円・・・


俺の社畜の頃の給料が手取りで20万ほどだったから、4万か月、私立なら10万か月働けば、稼げるってよ、ははは。


「冗談ですよぉ。あっくんにばかり負担をかけられません。最悪、ポセイドンの宮殿から財宝を盗み出せば、世界を支配できるくらいにはお金が手に入りますから」

「それって戦争とか起きん?」

「ユーラシア大陸の半分以上が海に沈むでしょうねぇ」

「精一杯配信を頑張らせていただきます!」


俺にノーと言う選択肢はなかった。俺が頑張らないとイレーナとポセイドンが争い、ユーラシア大陸が半壊する。


まぁそろそろ仕事を探そうと思ってたところだったから僥倖だったかもしれない。しかも好きなことをしてお金を稼げるかもしれないのだ。社畜にもどるよりも圧倒的に良い。


にしても、目標額はバクってるけどな・・・


「私たちの楽園のために頑張りましょうね!」

「お~う」


イレーナは意気揚々に呟いた。俺はあまりの桁数に間抜けな返事しかできなかった。



余談だけど、その日の夜はギンギンだった。夕飯に食べた何かが俺の息子を寝かせてくれない。


「ふふ、すっぽんの効果はおりがみ付きです!そして、昼間の眼鏡ですよぉ。どうですかぁ?」


その後の記憶はほとんどない。ただ、朝になったら俺が枯れて、イレーナは「最高の夜でしたぁ」と呟いていた。


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