人魚と川デート
イレーナは超完璧だった。料理をすればめちゃくちゃ美味しいし、掃除洗濯その他諸々の家事全般すべてが高水準。性格も穏やかで、一緒に居て全く苦にならない。
ただ、
「ちょっとあっくん!」
「なに?」
ちなみにイレーナはこの一か月で俺のことをあっくんと呼ぶようになった。イリスが小学生くらいまではそう呼んでくれていたので少しだけ感慨深い。
「洗濯物はまず私に匂いを嗅がせてから洗濯機に入れてって言いましたよね!」
「ご、ごめん」
「もう!脱ぎたてが一番ほやほやなんだから気を付けてくださいよぉ~?」
ことあるごとに変態に成り下がるところだけはなんとかしてほしい。いや、それだけ愛されているのは嬉しいんだけど、それにしても度を越しているというかなんというか・・・
「罰として今夜は朝まで寝かせません!」
「う、嘘だろ?」
「ふふ、それじゃあいただきますねぇ~じゅるり」
「待て!ちょっと、あああああ」
そのまま朝まで俺は精魂尽き果てるまで搾り取られた。
●
「ふんふふ~ん、今日も川デート~」
結局朝まで搾り取られた俺はミイラに、イレーナは肌がつるつるしていた。イレーナの性欲の強さに毎日毎日やられていた。ダンジョンに潜っていた方がまだ楽だったかもしれないと思えるくらいには凄まじい。
まぁそれでも幸せなのは変わりないし、イレーナと一緒に居るのは癒される。クビにされたことがどうでも良いと思えるくらいには救われたしな。
俺とイレーナは朝早くに川に出かけていた。イレーナは人魚の力で人間に擬態しているが、相当なエネルギーを消費するらしい。エネルギーを補充するには自然の川や海の中で一時間ほど浸かる必要がある。だから、俺たちは近所の越辺川に向かっていた。
早朝なのはイレーナの正体が人にバレないためだ。もっともその心配はあまりないかもしれないけど。この辺にはスマホを使えないおじいちゃんおばあちゃんしかいないからな。必然的に外に情報がいくことがないのだ。だから、あまり心配はしていない。
イレーナの恰好は白のワンピースにサンダルという夏らしい恰好だった。シンプルが故にイレーナの清楚な雰囲気が際立っていた。
「ん~どうかしたの~?」
「イレーナと一緒にいれて幸せだなぁと思ってな」
「も、もう誰が最高の嫁ですかぁ」
「言ってないけど、その通りだからなぁ」
「もう大好き!」
イレーナが俺の頬にキスをしてくる。こんな感じで今はバカップル真っ盛りだった。
「あらぁ、いつも元気ねぇ」
「あっ、石川のおばあさま!おはようございま~す!」
「おはようございます」
土手の向こう側から元気に歩って来るおばあちゃんが来た。八十を過ぎた方だが、滅茶苦茶若い。地元の権力者の奥さんだ。
「ふふ、いつもラブラブねぇ」
「はい!」
そんなに元気に返事をしないでくれ。そして、俺との密着面積を増やさないでください。恥ずかしいんですよ。
「いいわねぇ、いつも微笑ましいわ。淳史君もこんな良い子を逃がしちゃダメよぉ?」
「はい・・・」
「もぉ、あっくんったら照れちゃって~ちゃんと言葉にしてくれないと分かりませんよぉ?」
「うるさいわ!」
二人きりならあまり抵抗がなくなったけど、他人が見ているところでイチャイチャするのはまだ無理だ。
「ふふ、ごめんなさいね。夫婦の時間を邪魔しちゃって」
まだ夫婦じゃないけど、最近は普通に流してしまっている。
「い、いえ。それよりも後で
「まぁ!いつもありがとねぇ~主人も喜んでるから楽しみに待ってるわ」
そう言って石川のおばあちゃんと別れた。そして、俺たちはいつもの場所に着く。すると、イレーナは力を解いていつもの貝殻ビキニの人魚の姿に戻る。そして、すぐに川に潜った。
「はあああ、生き返りますねぇ」
プカプカと背泳ぎの恰好で浮かんでいる。そういう恰好をすると、イレーナのデカいアレが際立ってしょうがないんだよなぁ。
いかん!イレーナがこっちをニヤリと見ている!
『一発ヤリますかぁ?』という合図を出されるが俺は見なかったことにする。寝ていた息子が起きてしまったが煩悩を振り払う。
俺はここ一か月、趣味に没頭していた。中々できていなかった趣味であるガサガサ。川で生き物を捕まえることが大好きだった俺にとってはここ一か月はようやく好きなことがやれたという達成感でいっぱいだった。
そして、さらに嬉しい誤算があった。それは、
「やった!
川で
その原因は言わずもがなイレーナの影響だ。成体の人魚には水の環境を変える力があるらしい。だから、埼玉の川は川と同時に海の性質も持つようになったのだ。そのおかげで俺は楽しいガサガサライフを送れている。
川も綺麗になったし、一石百鳥くらい得していると思うんだよなぁ。だけど、メリットだけではない。
「ホオジロザメか!」
あらゆる海の生物が埼玉の川に集結しているため、当然危険だ。俺はホオジロザメに襲われそうになるが、網の後ろに付けた仕込み槍。正確にはポセイドンの使っているトライデントを改良した網だ。
俺は襲い来るホオジロザメの突進を躱し、上からトライデントをぶっ刺した。息の根を止めたところで俺はトライデントに付いた血を振り払う。
「ふぅ危ない危ない」
「凄い凄ぉい!さっすがあっくん!」
「そ、そうかぁ?」
イレーナが俺のことを手を叩いて褒めてくれる。俺は褒められて天狗になってしまう。
「
「あ、ああ。それにしてもこの槍強すぎるだろ・・・」
イレーナがこっちに来る時に海神からくすねてきたらしい。俺が網を買いに行こうと思ったときに突然槍を出されて驚いた。それを網の形にして渡されて、トライデントだと言われた時は発狂したけど・・・
トライデントはポセイドンの象徴的な武器だ。イレーナ曰く、水場では自分の力を何倍にもする効果があるらしい。そのほかにも水を操ったりすることもできるようになるとか。
ただ、そんな強力な力を普通の人間が持っていたら、魚になっていしまうらしい。イレーナがそれを俺がトライデントを触った後に説明してきた。再び発狂しそうになったが、俺には変化がなかった。イレーナはそれを人魚と人間がまぐわったからだと推測した。
俺は魚になんてなりたくなかったから、一安心。ただ、それはそれとしてイレーナをジトっと見ると、
「てへペろ」
と舌を出して頭をこっつんした。その姿が可愛すぎて俺は悶えた。その後に、「あっくんがどんな姿になっても愛しますから!」と言われて人魚とは価値観が違うんだなぁと思った。
「それでも人間であるあっくんがトライデントを使いこなせるとは思いませんでしたけどねぇ。強さまで兼ね備えているなんて妻として鼻が高いです!」
「ほめ過ぎだっての」
「そんなことはありませんよぉ。トライデントは持ち主を選びますからねぇ」
「そういうもんか」
「はい!」
なんとなく照れくさいがまぁ悪くない。
俺はガサガサを再開した。するとイレーナが俺の背中に引っ付いてきた。
「獲れてます?」
「ああ、もう少しだけガサガサしたら帰ろう。イレーナもいいか?」
「はぁい」
そういって再び川に潜ってしまった。最後のエネルギー補給をしているのだろう。俺は石川のおばあちゃんだけじゃなく、近所の人に川の幸を届けるためにガサガサをしている。俺の前の失敗は一人で会社を支えようとしたことだ。
ある意味では周りとの関係を断っていた。どれだけいいことをしても他人が見てくれていなかったら全く意味がない。だから俺は目に見える形で周りの人に尽くすことにした。まぁ石川のおばあちゃんはこの辺で権力を握っているという打算もある。だけど、それ以上に直接感謝を言われるのは嬉しい。
「ふぅ、イレーナぁ!終わったぞぉ?」
「はぁい!」
元気よく川から出てくる。その笑顔に毎日癒される。いやはや人生とは分からないものだ。
そんな風に人生を振り返りながら、俺が片づけをしていると、イレーナが水を操って俺を川の中に引きずりこんだ。
「やっぱりだ~め」
悪戯が成功した少女の顔をしていた。
「あっくんが私を捕まえられるまで鬼ごっこです!」
「それ、一生終わらないやつじゃん」
「スタート!」
「話を聞いて!」
最後に鬼ごっこをすることになった。結局捕まえられずに捕まえられて、その後は・・・
●
「いつもありがとうねぇ」
「い、いえこちらこそ」
石川のおばあちゃんとご近所のばあちゃんじいちゃん連中に川の幸を配っていく。少子高齢化が埼玉の中で一番酷いので若い人がいない。だから、俺やイレーナのような若い人が川の幸を配るとその倍のものをくれる。
ありがたいんだけど、ここまでされると逆に申し訳なくなる。
「私の夫が人気者過ぎて最高・・・」
イレーナがそんなことを言っていやんいやんしているが、俺としてはイレーナの方が可愛いし優しい。俺はイレーナの手を握る。そして、驚いた表情をしているイレーナに対して、
「イレーナのおかげで俺は幸せなんだよ。いつもありがとな」
「~~~~!あっくん大好き!」
「むぅぅ!?」
人通りの多い場所で俺とイレーナは熱々のキスをした。
後日、その様子を見ていたおじいちゃん連中が田舎ネットワークを駆使して俺たちに伝えられて俺は三日三晩悶え続けた。
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