人魚と逆●イプ
俺はかつてないほど緊張していた。人魚が俺の風呂に入ってきたこともそうなのだが・・・
「ダーリンの服最高ですぅ・・・」
彼シャツというものの破壊力は凄まじい・・・
スタイル抜群の超絶美女人魚さんが俺のシャツの匂いをくんくんと嗅いでいて、萌え死にそうになっていた。
不法侵入、覗き、ストーカー・・・色々訴えられそうな案件はありそうだったが、そんなことはどうでもよくなった。
俺と謎の人魚さんの間には丸いちゃぶ台が置いてある。俺は一応客人としてお茶を出した。人魚ってお茶を飲めるのかなぁと思っていたが、ずずずと飲んでいたので問題はないのだろう。
さっきから俺の汗だくのシャツを楽しんでいる人魚さんに俺は話を切り出した。
「それであなたは誰なんですか?俺には人魚の知り合いなんていないはずなんですけど」
「え・・・?」
俺が本題を切り出すとシャツを床に落とし、お茶をこぼされてしまった。すると、俺が怒るよりも先に人魚さんが泣きそうになってしまった。
「ダーリン・・・私のことを覚えていないんですかぁ・・・?」
「え・・・?」
人魚さんがうるうると瞳を震わせる。
罪悪感が唐突に募ってきた。俺はそう言われて、ない頭を使って全力で目の前の人魚のことを思い出そうとするが、どうしても思い出せない。こんなに美人なら忘れるはずがないんだけどな」
「も、もぉ!美人で最高の嫁だなんてぇ!私はそんな安い人魚じゃないんですよぉ?でも、そんなダーリンも大好き!」
「お、おう」
心の声が漏れてしまっていたらしい。いやんいやん悶えている人魚さんが可愛い。そして、可愛い子に大好きって言われると照れる。だけど、申し訳ないが俺の記憶に彼女がいない。
すると、くすりと笑って人魚さんが姿勢を正した。
「まぁダーリンが思い出せないのも仕方がないですねぇ。私はあの時小さかったですからねぇ。なんせ稚魚でしたから」
「稚魚・・・?」
「ええ。人魚は成体になるまで魚の姿なんですよぉ。私はこ〜んな小さな
指先でその大きさを表してくれる。つまめるくらいの大きさだった。
メダカ・・・もう少しで何かが繋がりそうなんだが・・・
「私をブラックバスの群れから救ってくれたじゃないですかぁ。思い出せませんか?」
「あ!お前、スイミーか!?」
「そうです!私ですぅ!やっと思い出してくれましたね!」
「ぅぐ!」
人魚さんがちゃぶ台の上から抱き着いてきた。俺は人魚、いや、スイミーのその大きな胸の中で窒息させられそうになった。
スイミー・・・
俺が子供の頃に河原で見つけたメダカの名前だ。いや、メダカだけなら全然珍しくない。問題はブラックバスの数だ。優に百匹はいそうなブラックバスの群れがその一匹のメダカめがけて突進していたのだ。
メダカを捕まえる趣味はなかったがいくらなんでもメダカ一匹に酷すぎたので、俺が網で捕まえた。鱗がとても綺麗で見惚れてしまったのを覚えている。川に戻したら食べられてしまうと思ったので、一時俺の家で育てた。
最初は中々懐かなかったが愛情をもって育てていたら懐いてくれた。しかし、一か月後くらいに突然消えてしまったので、俺は一時期何も考えられなくなるくらいに灰になっていた。それがまさかこんな形で再会するとは・・・
「人魚の稚魚は敵が多いんですぅ。あの時ブラックバスに食べられなくてすまなかったのはダーリンのおかげなんですぅ。ありがとうございましたぁ」
「ふがふが(とりあえず解放して!)」
「あっ、失礼しましたぁ。これじゃあ会話ができませんねぇ」
俺はようやく天国?から解放された。危なかった。あのまま捕まっていたら天に召されてしまうところだった。
そして、スイミーはひれを器用に使って、俺の真横に来る。そして、俺の両手を掴んだ。
「改めてありがとうございました。貴方は命の恩人です」
俺は照れくさくなって目を逸らした。しばらくお礼なんて言われてなかったからどう反応すればいいのかわからなかった。
「お礼はいいよ。そんなことよりもスイミーが生きていてくれたことの方が嬉しいよ。まぁ人魚になって再会するとは思わなかったけど・・・」
「うう~ありがとうございますぅ。ダーリン大好きですぅ」
「そのダーリンっていうのはやめてくれ・・・」
すると困ったような顔をした。
「すいません・・・ダーリンの名前を知らなくて・・・」
「あっ、そうか」
そういえば名乗った記憶がない。まぁメダカに自分の名前を名乗るなんてことは普通はしないか・・・
「俺は前原淳史。改めてよろしく・・・ってどうした?」
「前原淳史・・・日本では最初に苗字で後に名前・・・ということは私が結婚したら前原・・・えへへ」
「もしもし~?」
「はっ、失礼しましたぁ!少しトリップしてました。スイミー改め、私はイレーナ=クライユ。海の神ポセイドンの三千人目の娘です!王位継承権は一位でしたが、そんなものよりも淳史さんとの結婚生活に憧れてすべてを海に投げ捨ててきました!」
色々気になることをたくさん言っていた気がしたが一回流そう。それよりも美女に名前を呼んでもらえるとは・・・イリス以外に俺のことを名前で呼んでくれる人がいると「今、別の女のことを考えていましたよね?」
「ヒぃ!?」
目の前の人魚さんのハイライトが消えている。俺の冷め切ったお茶が沸騰し、溢れてきた。
「まさかとは思いますけど、私以外に付き合っている、もしくは、結婚している女性がいらっしゃるということはありえませんよね?」
「いないないない!」
「ふぅ、良かったですぅ。マリアナ海溝に沈めなきゃいけなくなるところでしたからね」
笑顔でこええよ!
スイミー、じゃなくて、イレーナさんは結構嫉妬深いらしい。
「当たり前です。ずっとダーリン、じゃなくて淳史さんのことを考えて頑張ってきたんですから・・・」
「スイミー・・・」
その憂いを帯びた表情には色々な苦労があったことが書いてあった。
「人魚の肉は魚や人間にとっては美味なので、生まれてからすぐに食べられてしまうことがほとんどなんです。それでいて私は運が悪いことに魚の部分がメダカでした。弱肉強食が常の水中では生き物のすべてが私にとっては敵だったんです」
人魚の肉を食べると不老不死になるとかいう伝説もある。それでいてあの大きさのメダカだ。ブラックバスがあれだけ血気盛んにイレーナを追いかけていたのにはそういう理由があったのか。
「だから、あの日、淳史さんに助けていただいたのは運命だったんです。最初の方は無礼な態度をとってすいませんでした。食べられると思っていたので・・・」
「もう気にするなって・・・」
もうお礼なんていいのに・・・むしろ助けたメダカが生きてお礼を言いに来てくれたんだ。その方が圧倒的に嬉しいっての。
「愛情をもって育ててくれたのはお母さまと淳史さんだけなんです。
「今、ポセイドンのことをクソ親父って言った?」
「いいえ?」
ニコリと笑った。これ以上追及するなという合図に俺はしずしずと下がる。だけど、聞きたいことがあった。
「それじゃあなんで突然消えたんだ?滅茶苦茶心配したんだぞ?」
俺は長年の疑問をぶつける。すると、困ったような笑顔になる。
「淳史さんと一緒にいるためですよ」
「え?」
そして、再び憂いを帯びた表情をする。
「私だってあのままずっと暮らしていたかったです。だけど、私はポセイドンの娘です。海以外で死ぬことは許されていません」
「そうなのか」
「ええ。もしあのまま暮らしていたら淳史さんの家だけピンポイントで大洪水が起きていたでしょうね」
恐ろしい事実に身の毛がよだつような思いをした。
「王位継承権を他の兄弟姉妹と争い続けるのが私たちのルール。そこからのリタイアは認められていません」
「凄いな・・・」
浮世離れしすぎて想像できない。兄弟と争うなんていうのは今の日本では考えられない。
「ええ。ですので私が淳史さんと一緒にいるには王位継承戦争で勝ち残らなければなりませんでした。死に物狂いで頑張って二十年以上経ちましたが、なんとか勝ち残ることができました」
「すご・・・」
笑顔で言ってのけているが凄いことをやっている。
「どっちにしろ兄弟姉妹と戦って人魚の力を覚醒させなければ地上で生きていくことなんてできませんでしたからね。必要経費だと思えばなんとか耐えれました」
「お、おお」
人魚の力を覚醒・・・なんとも気になるワードだ。すると、クスクスと笑って俺のイレーナが見てきた。
「人魚の力の中でもこの力は淳史さんも気に入ると思いますよぉ」
「うお!?」
イレーナの尾ひれが足になった。
すげぇ!と思ったのもつかの間。
イレーナさんがM字開脚をして色々見せてきた。確かに気に入るがエロ過ぎる。
「もぉ!エッチなんですからぁ」
「今のは不可抗力だ!」
「またまたぁ。ああ・・・淳史さんにここまで喜んでいただけて私は幸せですぅ。サプライズで用意した甲斐があったものです」
イレーナは恍惚の表情を浮かべるが、俺がジッと見つめているとコホンと咳ばらいをする。そして、
「人魚の力を覚醒した私にとっては実家などゴミも同然です。王位継承と共に不細工なモブおじと政略結婚をさせられそうになったのですが、会場をぶっ壊して、お父様の顔面もぶっ飛ばしてきました。ざまぁ(笑)」
意外と腹黒いぞこの人魚。ちょっと知りたくなかった・・・
「まぁ、紆余曲折ありましたが、長い年月を超えてようやく悲願を成し遂げました。とりあえず結婚しましょう!」
「無理だ」
「なんでなんですか!?」
驚愕の表情を浮かべられるがそんなのを当たり前のことだろう。
「俺はイレーナさんのことを全然知らないからだよ。そんな人を好きになれるわけがないだろ?」
スイミーの時のことは知っていてもあれは魚への家族愛だ。おもくそ容姿が変わった超絶美女人魚をどうやればスイミーと思えるのだろうか。容姿は関係ないとかいうけど、生物としての構造が違ったらそんなことは言ってられないだろう。
それに今はあまり人のことを好きになる気になれない。真偽はどうあれずっと一緒にいたイリスに裏切られたと思うと一人でいたいという気分になっている。スイミーが生きてお礼に来てくれたのは嬉しいけど、今だけは一人にして欲しい。
「なるほどぉ。メダカの私も今の私も同一人物ですが、あまりにも外見が違うと確かにそう思ってしまうのも仕方がないかもしれませんねぇ」
「だろ?だったら「それなら今から子づくりしましょう!」は?」
いきなりトンチンカンなことを言われてしまった。
「お互いのことを知るには肉体関係を結んでしまうのが一番だとお母さまから聞きました!さぁさぁ服を脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」
「や、やめろ!離せ!」
液体化して俺の服を脱がせてくる。俺は抵抗するのだが、全く意味がない。液体化したイレーナさんに触れることができないのだ。そして、徐々に徐々に服を脱がされ、俺はついに全裸にされてしまった。そして、俺の腹の上に裸になったイレーナさんが乗ってきた。
そして、水の拘束を受けて俺は動けない。そして、上にまたがっているイレーナさんは頬を紅潮させて、鼻息を荒くしている。
「はぁはぁ、イレーナですよぉ?名前でちゃんと呼んでくださいねぇ」
「っ、イレーナ!まだ俺たちは実質知り合って一日目だ!もっとお互いのことを知ってから!」
「ダメでぇす!私の二十年の我慢はそんな生ぬるい物じゃなありませ~ん。淳史さんは天井のシミでも数えていてくださいねぇ。すぐに終わりますからぁ」
「あああああああああ」
俺は逆レイプの形で再会した元ペットに守り続けていた童を奪われてしまった。
●
朝になると、ちゅんちゅんと雀が陽気に朝を告げていた。
「ふぅ~最高でしたぁ。初めてで不安でしたが、凄く良かったですぅ。やっぱり私たちって最高の相性なんですね~」
「うぅ~もうお嫁にいけない」
イレーナは恍惚の表情をしていた。不思議と肌がもちもちしていて、健康的だった。俺はというと顔を両手で隠して情けない気持ちでいっぱいだった。
「ふふ、私がもらってあげるので大丈夫ですよぉ?」
「俺はド淫乱人魚になんて屈しない!」
「あ~そんなことを言うんですねぇ?それじゃあもう一回戦いきましょうかぁ。私なしじゃ生きていけない身体にしてさしあげますよぉ」
「え?嘘だよな!?」
「いただきまぁす」
「ああああああああ」
舌なめずりをしたイレーナに再び俺は精魂尽き果てるほどに搾り取られた。俺は心の中で何があってもこの逆レイプ魔には屈しない。身体は奪われても心だけは従順になんてならない!
俺は昨今の姫騎士のような決意をしていた。
●
一か月後・・・
「も~、あっくんは甘えん坊ですねぇ」
「くっ」
俺は今、イレーナの膝枕ならぬひれ枕で耳かきをしてもらっていた。もうイレーナ抜きじゃ生きていけない身体にされてしまった。家事も炊事もすべてが完璧な彼女だった。そして、夜も激しく毎日何回も何回も手籠めにされた。
結果はもう骨抜き。もう無様なくらいに落とされてしまった。
「くっ、好きだ!」
『くっ殺』の派生版を自然に出してしまう自分が情けない・・・
「私もですよぉ。最低でも子供は千人作りましょうねぇ。そして、ここに私たちの楽園を作るのです!」
壮大すぎる目標だがイレーナとだったらいいかなと思ってしまっている自分がいた。
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