ダンジョン管理会社をクビになったら昔助けた人魚姫が嫁に来た~海のない埼玉でサザエを獲っていたら誤配信が滅茶苦茶バズった件
addict
クビと人魚襲来
「クビだ、前原君。君には失望したよ」
俺の名前は
そんな俺は郷田社長にクビを宣告されていた。
「な、なぜですか!?俺は仕事をきっちりこなしていますし、クビにされるいわれはありません!」
「仕事をきっちりこなしている・・・ねぇ」
郷田社長は俺の言葉を反芻すると、バサッと俺の足元に書類を投げつけてきた。それは見覚えのない領収書の束だった。俺はそれをすべて拾って一枚一枚目を通す。どれも身に覚えのないものだったが、すべてに俺の名前が記載されていた。
「君が使った不正の領収書だ。我が社の金を使って好き勝手してくれたみたいじゃないか。ええ?」
キャバクラ、ソープ、メンズエステ、高級料亭・・・どれも自分の身に覚えのない物だった。そもそもこの会社はブラックだ。俺は朝から晩までダンジョンに潜ってモンスターを狩っていた。そんな時間などあるはずがない。
俺が抗議の声を挙げようとする前に社長が話し始めた。
「それに高梨君にセクハラを行ったそうじゃないか、ええ?」
「そ、そんなことはしていません!イリスをこの場に呼んでください!自分の無実が証明できますから!」
「口を慎め!万年成績ドベとナンバー1じゃ身分が違うんだよ。この卑しい寄生虫が!」
「ぐっ」
書類の束を丸めた棒で頭を殴られた。確かに俺は会社のモンスター討伐数はドベだ。だけど、
「自分は強力な個体だけを狩っているんです!」
「まだ、そんな嘘を付くのか!」
「嘘じゃないです!」
この会社ではモンスターの討伐数が成績に比例する。だから強力な個体だろうとスライムのような雑魚キャラであったとしても同じ一匹にカウントされてしまう。だから、手を組んでいる唯一の証人に助けてもらおうと目で合図をする。しかし、
「はぁ、隣で聞いてたけど、情けねぇぞ、前原」
「山本・・・?」
「山本君」
この会社で高梨イリスと二枚看板をしている
「お前が強力な個体を狩っているだと?馬鹿を言うな。
「なっ、裏切るのか!」
山本は大量の敵を掃討するのに優れているが、一撃の重さがない。だから、俺が強力な一体を、その間に複数の敵を倒すという約束で組んでいた。
「裏切るも何もそもそも約束すらしていないだろ?何か証拠でもあるのか?」
「くっ」
山本は俺を下品に笑いながらこっちを見てきた。理由は分からないが俺を嵌めようとしているのはその表情を見て分かった。
「俺は高梨、いや、イリスに言われたからお前のことを社長に言ったんだよ。本当にクソ野郎だな」
「いやはや、高梨君にすら手を出していると聞かされた時は残念だったよ。我が社にそんな不届きものがいるなんてね」
「だからやってない「うるせぇぞ!」グフっ!?」
突然山本に殴られた。俺が茫然としていると胸倉を掴まれて立たせられる。
「公にはしてなかったけど、イリスと俺は付き合ってるんだよ!彼女にセクハラされてると言われて黙ってられると思うか!?」
「っ、だ、だけど、俺はなにもしていない!頼むからイリスを呼んでくれよ!」
イリスが山本と付き合っているというのは驚いたが、それよりも今は俺のことだ。とにかくイリスを呼んでくれたらすべてが解決する。俺は周りにすがるが、社員はみんな、俺のことをゴミを見る目で見ていた。
「クソ野郎だな・・・」
「イリスちゃんをいつもそんな風に見ていたなんて終わってるな」
「女の敵ね」
「最低だな。ドベの上に、山本の寄生虫をしていたなんてな」
ここで俺は悟った。誰一人として俺の味方がいないことに。俺が成績と時間を犠牲にすればみんなが楽になる。そう思って毎日毎日頑張ってきたのにすべてが無駄になった気分だった。俺はよろける足で自分のデスクに戻る。
そして、自分の私物をもって会社から出ようとする。しかし、最後に山本から声がかけられる。
「おい、お前の武器はおいていけよ。会社から支給されたその双剣は俺が使ってやるからよ」
「・・・分かったよ」
これは俺が自腹を切って作ってもらったオーダーメイドの双剣だった。長い間相棒だったが、この仕事から離れるなら必要ないか。俺はゴトっと机に無骨な音をオフィスに響かせてその場を後にした。
●
俺は通勤時間で往復二時間かけて通勤していた。今住んでいる場所は埼玉の中で都心に一番近い町として名を馳せている場所だ。中途半端な田舎だが、四方を川に囲まれているため、趣味の河原でガサガサが凄い楽しい。
まぁ仕事が忙しすぎて全然ガサガサができていないけど・・・
俺は愛着のないボロアパートに入って、スーツと鞄を投げ捨てる。そして、お湯を沸かしてカップラーメンをずるずると啜る。三分間なんて待ってられなかった。そして、そのまま、今の生活で唯一の楽しみである風呂を沸かす。
「はぁ~」
癒やされる。さっきまでのすさんでいた心が癒され・・・
「るわけがねぇだろうが!」
壁の薄いこのボロアパートで叫んでしまった。水に拳を叩きつけて水しぶきをまき散らす。これで苦情が来るのは避けられないだろうけど、今は他人のことを考えていられるほど余裕がなかった。
「あのクソ社長!俺の言い分を全く聞かずにクビにしやがって!」
殺意が湧いてくる。俺がどれだけ会社に貢献していたか知らねぇのか!?趣味も何もかもを犠牲にしてお前の会社を優先してやったのによ!しかも全部サービス残業だぞ!恩をあだで返されるいわれは全くないだろうが!
でも、何よりも許せないのが
「山本だ・・・あのクソ野郎・・・俺が何度も助けてやったのによ・・・!」
あいつは弱くはないが強くもない。ただ武器適正が弓で殲滅に向いていたからたまたま討伐数がナンバー2になっていただけだ。俺が強力な個体を抑えてやってたから今の成績を出せているんだ。
「クソクソクソ!」
俺は心の中にふつふつとマグマのように湧き上がる怒りを全力で発散した。
●
三十分くらい経っただろうか
ひとしきり風呂場でやり場のない怒りをぶつけていると今度は悲しさがこみあげてきた。
高梨イリスのことだ。
小学校時代からの腐れ縁で小中高大、そして、就職先まですべて同じだった。仲は悪くなかったし、なんならワンチャンあるかもと思ってずっと何もできないチキンだった。そんなんだったから、山本みたいなイケメンに盗られたのかもしれないな・・・
それにしても
「あいつが本当にそんなことを言ったのかな・・・」
だとしたら悲しくなる。だけど、山本と付き合っていたらその可能性はある。イリスにとっては俺は雑魚中の雑魚だ。我が社の最強の社員は俺みたいなやつはいなくなった方がいいと考えていたかもしれない。
「はぁ・・・もう嫌になるな・・・」
考えれば考えるほど憂鬱になる。
実家に帰るしかないのか・・・だけど、なんて言おう。無職になりましたなんて言おうものならすぐに追い出されるに決まっている。だったらしばらくは貯金を切り崩しながら転職活動をするしかないか・・・
ブクブク
だけど、今は大不況だ。再就職先なんてあるわけがない。ダンジョンの管理会社で駆除に従事し続けてきたから、スキルなんて何もない。母親に言われていた簿記でも取っておくべきだったかもしれない。
ブクブクブク
同業種でなら俺も働けるかもしれないけど、もうこのブラックな体質の会社でなんて働きたくない。また裏切られたらもう生きていけない。でも俺の適性がそこにあるのは確かだし、働かないと路頭に迷う。
ブクブクブクブク
「ってかうるせぇ!さっきからなんだこの音!」
浴槽から変な音がするのだ。
まさかとは思うけど、風呂が壊れたとかじゃねぇよな?もしそうならさらに出費が・・・
しかし、俺の心配をよそに風呂がホイッパーで生クリームを泡立てるかのようになっている。そして、徐々に泡が大きくなり、人間のような形になってきた。
「え?え?」
思考が真っ白だ。俺はいまだに湯に浸かっている。あまりの現実感のなさに脳が全然働いていない。そして、俺は呆気にとられながらその水の色が肌色になり、輪郭がはっきりしてきたのを見ていた。
「プハア!」
「え?」
その水は人間の形になった。いや上半身だけだ。下半身は魚。俗にいう人魚だった。海のようなサファイア色の美しい長髪にパープルの瞳、ほんわか系だが美人という言葉が似合う顔立ちをしていた。そして、スタイルは抜群で貝殻のビキニで胸を隠しているという童貞殺し。
そんな非日常が訪れて俺はパニックだった。水から人魚になる。そんな事象をダンジョンでも見たことがなかった。そして、
「う~ん?」
俺の顔をじろじろと見てくる人魚さん。そして、ペタペタとすべすべの肌で俺の顔を触ってくる。ここでも俺の身体は動かない。赤くなるだけだった。そして、最後に難しい顔をした。人魚とはいえ、美人にじろじろ見られると緊張する。
「うん、やっぱりです!」
日本語を話した!?そして俺の顔を見てパアっと笑顔になると、そのまま俺の唇を奪ってきた。
「むぅんんんん!?」
俺の口の中に舌をいれ絡めてくる。俗にいう大人のキスってやつだ。俺は童貞なのでされるがままだった。それが何分くらい続いただろうか・・・人魚が唇を離した。
「やぁっと
いやんいやんと顔を横に振る人魚さん。ダーリンって誰だ?俺のことか?
「あっ、ダーリンどうでしたぁ?私のファーストキスなんですよぉ?人魚姫のファーストを奪えたんだから何か感想とかないんですかぁ?」
そうかぁ。ファーストかぁ。とりあえず、
「風呂から出ませんか?」
今の俺から言えるのは色気もくそもないことだった。
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