第2話 野良の童子

「それうまいのか?」


俺は戸惑っていた。

正直声をかけられるとは思っておらず気が抜けていたからだ。

俺は同時からの質問に対して


「ま、まぁ、俺は好きだな。」


と返答すると童子は物欲しそうな目でこっちを見てくる。


「い、いるか?」


「いる!」


いるか聞いてみるとかなり食い気味に反応してきた。

俺はさらに困惑しながらカバンからシガレットを一本取り出し童子に手渡す。

童子はそれを受け取ると俺を真似て口に咥えた。

そこからお互いなにか言葉を発することなくただボーっとしていた。


咥えるのも飽きてきたので、俺はシガレットを口に含み噛み砕いた。

童子はそれを見て少し戸惑いながらも同じようにシガレットを口に含み噛み砕いた。


そこから静寂が続いた。

お互いに話しかけることなくゆったりしている。

そしてしばらく立ってから俺は勇気を出して声をかけてみる。


「な、なあ、あんた。

契約者と離れて大丈夫なのか?」


その問いに対して童子は


「俺の野良だから契約者いねぇよ。」


と、ケロッと言った。


「へーそっか。」


無難な返答を返したが、頭の中は混乱しっぱなしだ。

野良のあやかしは独自の変化を遂げる可能性が高く、国に管理されているあやかしよりとても強力になりやすいからだ。

しかし、彼の姿からもう大きな変化をしている可能性が高い。

その場合俺なんて軽く一捻りだろう。

冷や汗が止まらない。

そんな俺に対して童子は


「俺が怖いか?」


「まあな。」


「なぜ?」


「お前が野良のあやかしだからだ。

俺は契約をしていない一般人だからお前のさじ加減で死にかけるんだよ。」


なんて答えると童子は驚愕した様子で


「契約してないのか?」


と驚いていた。

そりゃあ、野良のあやかしでも人間が中学1年生までには契約を終えることを知っている。

その瞬間、童子は笑い始めた。


「あははは、あんた契約してないのに野良のあやかしに近づいたのか?

危機感仕事してなさすぎ!www」


俺は呆気に取られたが、俺も笑いがこみ上げてきた。


「確かに危機感なさすぎたわ!www」


そうしてひとしきり笑ったあとに俺等は顔を見合わせる。


「なぁ、あんた、名前は?」


「俺は童子。

ただの童子だ。逆にお前の名前は?」


「俺は参屋 亜弗だ。」


「なんかお前とはうまくやっていけそうだ。

気が合うからかな?

もしよければ契約しないか?」


それに対して俺は


「気が合うから契約なんてつまらねぇと思わねぇか?」


なんてことを言い出すと童子はハッとした顔でこちらを見ている。

しかし、次の瞬間には獰猛な笑みに変化しており


「男なら拳で語るしかねぇな?」


そんな馬鹿なことを言い始めた。

しかし、馬鹿と気が合うのは馬鹿なだけあって


「最高な案じゃねぇかよ。」


俺も馬鹿だった。


「ハンデは何が必要だ亜弗?」


「アホ言う暇あるなら拳で語れ。」



ここまでが冒頭までのお話。

そしてここからは馬鹿のお話となる。


「オラァ!へばってんじゃねぇぞ人間!」


「んだとコラァ!オメェもよろよろじゃねぇかよ童子!」


俺等はお互いに殴り合っていた。

卑怯な手を使うことなくただ殴り殴られる。

はたから見ればただのヤバいヤツ等だ。

しかし殴り合うのを辞める気配はない。



三十分ぐらい立って俺等は互いに仰向けに倒れた。

お互いに呼吸は粗く疲れ切っていた。

しかし俺は、妙な清々しさがあった。

他人と関わることを極端に嫌って生きてきたが、こんなふうに関わるのは初めてだ。

そこで童子は


「お前おもしれぇな!

改めて、俺の相棒になんねぇか!?」


なんて声をかけてきた。

俺は迷うことなく


「それはこっちのセリフだ!

俺で良ければ相棒になってくれ!」


そうして俺は初めてあやかしの相棒ができたのであった。

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