第3話 やべぇくらいバズってる!(微ホラー注意)
「あっつ……」
うだるような暑さ。
それで目を覚ました。
そう言えばそうだった。
昨日は疲れてそのまま車の中で寝てしまったんだったな。
「何時だ今」
スマホで時間を確認した。
「昼の12時」
そこまで確認してから目を下にやると大量の通知が来ていることに気付いた。
職場のリーダーからの連絡だった。
メッセージもチラホラあって目を通してみると
"人手が足りない。休みなのは知ってるがこい。タイムカードはノータッチでいい"
(はぁぁぁ……)
そう思いながら電話をかけた。
「あ、おはようございます。由良 拓也です」
とりあえず電話をしてみたがこう言われた。
「明日から来なくていいぞ。代わりはいるからな」
ブツっ。
電話切れた。
力の抜けた手からスマホがスルッと落ちた。
「ははっ。クビなっちゃったよ」
まぁいっか。
クソ暑い倉庫、冷房もなしにひたすら重いものを運んだりするだけのクソつまらん仕事。
辞めようとは思っていたし。
だが
「仕事、どうしような」
そう思っていたら。
コンコン。
窓をノックされた。
ビクッ、
また八尺様か?!と思いながら窓の方を見るとそこには筋肉男が立っていた。
「今時間はありマッスル?」
ボディビルダーがするようなポーズを取りながらそう聞いてくる男。
俺は今更になって落としたスマホを拾いながらこう答えた。
「ありマッスル」
そう答えるとニカッと笑う男。
「まず確認を取りたいんすけどあなたはユラリンと呼ばれた配信者で合ってマッスル?」
俺は頷いた。
するとマッスル男は名刺を取り出して俺に渡してきた。
「自分こういう者なんすよ」
ピラッ。
渡された名刺を受け取るとこう書いてあった。
名前:
怪異討滅委員会
(実名なのか?これ)
そう思いながら俺は男を見た。
「あ、呼び方は筋肉でいいっすよ」
俺は筋肉さんの名刺の中で気になっていたことを聞く。
「この怪異討滅委員会?みたいな組織はなんなんです?」
「いいところに気付いてくれマッスルね」
そう言いながらこう答えてくれた筋肉さん。
「要はお化け退治屋さんっすよ。政府が何百年も前に立ち上げた、ね」
「お、お化け退治?」
「えぇ、お化けとか怪異とかって呼ばれる存在がこの世界にはいマッスル。ユラリンさん、それはあなたも昨日目にしたっすよね?」
八尺様。コトリバコ。
それらのことを言っているのだろう。
「自分らはそれを退治してお賃金を頂く仕事をしてマッスル」
そう言って筋肉をピクピクさせながらこう言ってくる筋肉さん。
「良かったらこの筋肉と一緒に仕事しませんか?あなたにはお化けを倒す力があるようっすから。給料ですが、期待には応えてみせマッスル」
「具体的な数字で言うと?」
「最低月4000万以上は保証しマッスル」
「4000万?!」
「はっはっは。上限はなしっすよ活躍次第でいくらでも稼げマッスル。それくらい怪異による被害というものは多いっすから」
目を細めてこう聞いてきた。
「どうっすか?来ませんか?心霊系が趣味なようっすが、これからは仕事で行き放題っすよ、委員会によるサポートも万全。更には一般には流れないような危険な廃墟情報もありマッスル。もちろん怪異を倒してくれるのであれば配信をすることについても口出しはしないっすよ。なんなら配信のサポートもしマッスル!あなたの仕事は配信ってことっす」
え?!そんなにしてくれるの?!
「やりマッスル!!!」
ニカッと笑って筋肉さんは隣に止めてあった車に乗り込むと窓を開けてこう言ってきた。
「本部まで案内しマッスル。ついてきて欲しいっす」
◇
本部についた。
普通のビルの前まで案内された。
「でけぇビル……」
「ははは。自分の筋肉と同じくらいでけぇっすよね」
筋肉さんはそんなことを言いながらビルの中に入っていく。
中は普通のビルだった。
そして筋肉さんはそのまま歩いてエレベーターの前で止まった。
その時に俺は手に持っていたコトリバコについて筋肉さんに聞いてみることにした。
「あ、あのそういえばこれって。持ってていいものなんですかね?」
「あぁ。それっすか」
俺の箱を見て目を細めてこう言った筋肉さん。
それから少し時間を置いてから笑ってこう言った。
「趣味の悪いデザインのただの箱っすよそれ。こちらで処分しときマッスル。考えてみてくださいよ。コトリバコなんて胸糞悪いものそうポンポン見つかるわけないですよ」
「え?そ、そうなんですね」
俺は筋肉さんにコトリバコ(偽)を渡した。
「はぁ、本物だと思ったのに。偽物なのかぁ。でもちょっと安心しました」
そのとき。
チン。
音が鳴ってエレベーターが止まった。
扉が開いて歩いていく筋肉さん。
俺もそれを追ってエレベーターを降りた。
するとそこに広がっていたのは地下空間なんかじゃなくて、地上に広がっているような街並みだった!
太陽(?)があって風も吹いてるし建物だってあった!
どんな技術?!
「お、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!!!!!なんじゃこりゃぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
「くくく、驚いてマッスルな」
そう言って筋肉さんは俺にこう言った。
「ようこそ。怪異討滅委員会へ」
そうして俺の名前を呼んでくる筋肉さん。
「由良 拓也くん。除霊師としての活躍を期待してマッスル!これからよろしくお願いしマッスル!」
「は、はい!よろしくお願いしマッ……」
「あっれー?」
俺も返事をしようとしたその時だった。
女の子の声で上書きされた。
声の聞こえた方を見るとそこには黒髪ロングの女の子が立ってた。
手に持つスマホと俺の顔を交互に見てこう叫んできた。
「えっ?!ユラリン!本物っ?!」
そう言って俺に駆け寄ってきた。
10代くらいの女の子。
「ユラリン!サインください!」
「えっ?な、なんで俺の名前を?空気モブなのに」
俺が戸惑っていると。
すっ。
女の子はスマホの画面を見せてきた。
映っていたのは俺の動画サイトのチャンネルで登録者が100万人になっている画面だった。
そして、別のウェブ記事も見せてくる。
【SSSランク除霊師爆誕か?!】
【速報:コトリバコらしきもので八尺様を殴り倒している男性が現れました】
【SSSランク除霊師ユラリンチャンネルとは何者なのか?】
ズラーっと。そんな内容の記事が出ていた。
【ユラリン】って検索しても自分のチャンネルしかヒットしかなかったのが信じられないような検索結果になっていた。
「今ちょーバズりにバズってるんだからユラリンのこと知らない人なんていないよ?!」
「ひょええぇぇぇぇぇぇ!!!!いつのまにぃぃぃぃぃ?!!!!」
その後知ったのだが俺が昨日八尺様をコトリバコでぶん殴った配信はちょーバズったらしい!
それで俺は一躍時の人になっていたようだった!
そして今日からそんな俺は第二の人生を歩み始めるのだ!除霊師として!
【八尺様をコトリバコで殴り倒す男】
了
…
……
………
…………
俺はなにも考えないことにした。
(そうか。そうだよな。コトリバコなんてあるわけないよな)
俺が筋肉さんに渡した箱はコトリバコじゃなくてなんの変哲もない箱だったのだ。
そうに決まってる。
バカバカしいよなコトリバコだなんて。
呪いのアイテム?
強力な呪術道具?
そんなものがそのへんにポロポロ落ちてるわけが無いじゃないか。
そうだ、あれはただの箱なんだ。
だから、さ。
あの村で見つけた、子供の顔だけが切り取られた家族写真も。
俺の手が何かの液体で赤く染まってるのも。
あの箱を握った時何かの液体が乾いたような感触だったのも、そして。
八尺様を殴り倒した時に、頭の中に聞こえた
『いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい』
みたいな沢山の子供の声も、気のせいなんだ。
そうだ、そうに決まってるんだ。
だって、あの箱はコトリバコじゃなくてただの趣味が悪い箱なんだから。
今も頭にこびりついて離れないこの声も、なにもかもすべて。
きっと、気のせいで明日になれば忘れてるんだ
『いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい』
きっと、全部プラシーボ効果ってやつなんだろう。
そうだ。
そうに決まってるんだ。
こんなに後味の悪い話が現実なわけもない。
そうだろう?
だから、
ただの箱で八尺様を殴り倒せるのか?
そんな疑問もそれ以上俺は考えないようにしたんだ。
了
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