第2話 初めての除霊

「おいおいおい、どうなってんだよこれ!」


ダッ!

俺はいてもたってもいられず走り出した。


八尺様ぁ?

コトリバコぉ?!


あの時はいろいろ起きすぎてコトリバコで八尺様ぶん殴ったけど、よく考えたらおかしいよなぁ?!これ!


バタン!

近くに止めてあった車に乗り込んで俺はアクセルを踏み込んだ。


すぐに帰れる向きで止めておいてよかったよ。


"www"

"焦ってるwww"

"まぁそりゃそうか。コトリバコで八尺様ぶん殴ったもんなwww"


コメントを見ながら俺は高速を急いで走ってた。


んで、そうしながら助手席にあった箱を見る。


(慌てて持ってきたけど大丈夫か?これ)


助手席で禍々しい空気を放つコトリバコ。


たしか伝承では子供を……って考えるのはやめよう。

そんなろくでもない箱が隣にあるって考えたくねぇ。


アクセルを踏む足に力が入る。


そうして俺はスマホに目を戻すと同接が増えてた。



同時接続:100



(なんでこんなに見てんの?)


"八尺様ぶん殴るチャンネルはここですか?"

"八尺様をぶん殴ってみたって動画あとであげようぜ"


そんなコメントが来ていた。


「夜中なのに見てくれてありがとうねみんな」


俺は車窓から外を見た。

すっかり日が暮れて夜になっていた。


他に走る車は見えない。

たまにトラックが見える程度。


「あー、くそ……」


非日常を期待していたがいきなりこんなことになるなんた思っていなかった。

なにより


俺はふと思い出してつぶやく。


「あの村が廃村になった理由って……」


コメント欄を見てみると察しのいいリスナーが何人かいた。


"コトリバコやろなぁ"

"村人全滅END"

"ひえっ"

"ハッカイっていちばん強力やもんな、村一個消せるんやろ?"

"てかそんなん持ち出すなよユラリンwww"

"マジモンなら笑い事じゃないんだよなぁ"


そんなコメントを見ながら俺は前方に目を戻した。

運転に集中しよう。


そうして運転していると


「あっ?」


バッグミラーになにか映っているのに気付いた。


「な、なんだあれ……」


俺の車の遥か後方からなにか走ってくることに気付く。

そしてそれはだんだん俺の車との距離を詰めていた。


それは白いなにか。


白い車?いや、違う。


縦に長いそれは


「は、八尺様ぁぁぁぁぁ?!」


"八尺様が原作再現してて草"

"逃げようとするショタ(おっさん)を追いかける怪異の鑑"

"しぶとくて草"


「うぉぉぉぉ!!!こえぇんだけどぉぉぉぉぉぉ!!!!」


ネットではおねショタとして描かれることもある八尺様だがあんな表情のない顔で『ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ』なんて言われながら追いかけられたらめちゃくちゃ怖いよ。


うん。


しかも


「あいつめちゃくちゃはええ!俺時速60キロだぞ?今!」


時速60で走る車にだんだん追いついてくるってどんだけ足はええんだ?!あいつ!


「ちょーー!こえぇんですけどぉぉぉぉ?!!!」


さらにアクセルを踏み込む。


ブォォォォォォォン!!!!


時速100キロ。


「すまん。法定速度超えたわ。でも許して!」


"www"

"これは許される"

"止まればやばそうだもんなぁ"


チラッ。

流石に追いつかないだろと思ってミラーを見たら。


八尺様は遠ざかっていた。

そしてそのまま走り続けているとやがて八尺様は見えなくなった。


さすがに追いつけないか。


「はぁ……安心した」


それでも慎重に速度を落とすことなく走り続ける。


そうして俺はスマホに目をやった。


とんでもないチャットがあった。



メリー:私メリーさん今北海道にいます。今からあなたを殺しに行きます



そのコメントに反応するリスナーたち。


"こいつチャンネルなくない?"

"ガチメリーさん?www"

"怪異がチャットしとるwwwしかも殺害予告w"


訳の分からない状況に訳の分からないことが重なってイライラしてくる。


「うるせぇよ!今八尺様に追われてんの!お前はくんな!モデレーター?いる?!このメリーとかいうやつ流石にブロックしといて!度が過ぎてる」


ずっと俺の配信を見てくれてた固定のリスナーにはモデレーターを任せている。

使うことは無いと思っていたがこんなところで役に立つなんて!



モデレーター:ブロックできないよこの人。ガチメリーかも



「うがぁああぁあぁぁあぁあ!!!!!!」


そう叫んでだら、コメント欄が加速して賑わう。


"ユラリン。絶対窓見るなよ"

"窓www"

"窓やべぇwww"


そんなコメントがあって俺は急に冷や汗が出た。


そして聞こえたんだ。

あの声が


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


世界で1番聞きたくない声。

それが俺の右横から聞こえていた。


「ひゃぁっ?!」


いる!

絶対にいる!


見なくてもわかる!


俺の右横を並走してやがる!

絶対に並走してるわこれ!


時速100キロに追いついて、並走してやがる!

どんだけ足はええんだよこいつ!


コンコン。

コンコンコンコンコンコンコンコンコン。


窓がノックされてる。


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」


"絶対に見るなよwww"

"前だけ見てろ"

"ギャグだろこれw"

"シュールすぎる"


そのとき声が変わった。


「拓也開けて♡」


女の子の声が聞こえた。

聞き間違えるわけもない。


これは俺の好きなゲームの推しキャラの声だった。


八尺様が出してるんだこの声を。


「拓也、開けて開けて開けて開けて開けて。もう大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫」


めっちゃ可愛い声で言ってくる。


しかも。


ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。


めっちゃドア開けようとしてきてる!


「こえぇぇよぉぉぉぉぉお!!!!誰か助けてぇぇぇぇぇ!!!!」


"草www"

"結婚しろ"

"純愛だろこれ"


そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ!!!!

あぁぁぁあ、もうやだぁぁあぁぁ!!!!


そのときサービスエリアの看板が目に入った。

この先少し行ったところにあるらしい。


「そうだ!助けを求めよう!人のいるところにいけばこいつも消えるだろ!」


"ホラーの登場人物にしては頭いい"

"お化けはひとりじゃないと襲ってこないもんな!"


というわけで俺はSAに入ることにした。

その間も八尺様はずっとガチャガチャドア開けようとしてるけど無視して駐車場に車を止めた。


まだ八尺様はいるようだ。


ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。


「消えねぇ!消えろお前!人がめっちゃ見てるぞこっちを?!」


勢いよく入ってきた俺の車の方にめっちゃ視線が集まってる。


「開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて拓也拓也拓也拓也拓也、」


ガチャガチャガチャガチャ。


怖いを通り越してだんだんイライラしてきた。

俺は助手席のコトリバコを手に取って窓を開けると。


「おらぁっ!」


八尺様をぶん殴った。


すっ飛んで行った。


ドアを開けて車を下りるとそのままもう一度八尺様に馬乗りになってぶん殴る。


「うぜぇんだよ!死ね!死ね!」


そうして数分。

殴っていると八尺様は消えていった。


「はぁ……はぁ……ったく」


車に戻る。


スマホに目をやるとコメント欄は盛り上がってた。


"パワー除霊"

"やっぱ暴力なんよね。暴力はすべてを解決する"

"DV系除霊師"


そんなコメントがついていた。


そして同時接続は1000人になっていた。


「はぁ……はぁ……あぁ……なんなんだよこれは」


俺はハンドルに額を載せてそのまま少し考えることにした。


なんか、どっと疲れた。

明日は休みだ。


「疲れた、このまま寝るか」


そう呟いてとりあえず配信を終わることにした。

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