底辺心霊系配信者の俺、コトリバコで八尺様をぶん殴って倒したらネット上でSSS除霊師とか呼ばれてバズった
にこん
第1話 コトリバコは武器ですか?
「あ、どもどもー。廃墟探索チャンネルのユラリンでーす。えー、本日はですねこの廃墟村にやってきました。T県T市の郊外にある廃村ですね」
俺は心霊系配信者だ。
今日は廃墟配信にきている。
で、挨拶しながら同時接続に目をやる。
同時接続:3
今3年くらい廃墟探索配信者をやってるんだけど、その3年でついた固定メンツというのがこの人達だった。
"うぉー雰囲気出てるー"
"すげぇ、こえぇwww"
"なんか出そうだよなぁ、このあたり"
「クマとか?やめてよね。それで出たら俺戦えないよ?」
はははって笑いながら俺は探索を進めていく。
いつも通りの廃墟探索にするつもりだ。
「……」
でも今日はよくないニュースも持ってきていた。
その発表をいつするか迷う。
ちなみにその発表というのは
『もう廃墟探索をやめます』
ってことだ。
3年。
配信をやってきた。
でも俺の配信の人気は出なかった。
もちろん動画投稿もだ。
やれる事はやった。
でもチャンネルは売れなかった。
売れない配信者だった。
しかもこれは本業じゃない。
本業は倉庫での作業。
その合間にこうやって来てるんだけど倉庫で疲れた体に鞭打ってまでやるのもしんどくなってきた。
だからやめようと思う。
スパッとね。
その報告をしたいんだが、いつしようか迷ってる。
(いきなり伝えたらリスナーの人びっくりするかもなぁ)
だから迷ってた。
そんなときだった。
"ユラリンさ。なんか心霊体験とかないの?"
"こういうのやってるならなんかひとつくらいあるよな?普通"
"てかユラリンは連れてきてそう"
そんな流れになりつつあったので俺はひとつ話をしてみる事にした。
「あぁ、じゃあひとつ話をすることにするよ。これ、実話ね」
俺は当時のことを思い出しつつ話す。
「あの日も暑い夏の日だった」
そう言いながら俺は村で一番大きな建物の前に立った。
もちろんこれも老朽化が進んでいる。
「俺は爺ちゃん婆ちゃんが暮らす村に行ってたんだよね。丁度、こんな寂れた辺境だった」
建物の扉を開ける。
中は予想通りホコリが積もっていて、手入れされてない廃墟って感じ。
気にせず中に入りながら続ける。
「その田舎でさ。2メートルは超えてるくらいのデカい女の人を見たんだ。信じられる?」
そう聞いたらコメント欄に反応があった。
"八尺様?"
"それにしか聞こえんwww"
"ユラリンが言うとガチッぽく聞こえるよなw"
そんなコメントを見ながら続けていく。
「で、さ。余計信じられないと思うけど『ぽぽぽぽぽほ』って喋ってた。でさ。俺はそのことを夜に爺ちゃんに話した。するとさ。真剣な顔して俺を2階の個室に閉じ込めたわけよ。『朝まで何があってもその部屋を出るな』ってさ」
"八尺様じゃん"
"作り話?"
"ネットで有名な話だよ"
俺は廃墟の中にあった大きめの箱を開けた。
いわゆる残留物というものの確認をする。
これをすることによって、いつくらいまで人がいたかを確認することができる。
その当時のことを考える、それが俺の趣味というか、そういう事をするのが好きだった。
で、中を確認すると当時の雑誌が出てくるわけだ。
「週間ジャンジャンが出てきたわ。えーっといつのだ?」
日付を確認してみて読み上げる。
「えっ……2022年12月?つい最近のだろこれ……」
"直近じゃんこれ"
"これ、まだ人が住んでるんじゃないの?"
"え?おかしくね?まじで最近のだな"
コメント欄がパニックになる。
んで、俺への質問が始まった。
"ユラリン。仕込みしてないよな?"
「す、するわけないだろ?!こんなの!だいたい俺が仕込みやってたらもっと視聴者いるんじゃない?!」
バン!
俺は手に持っていた本を箱の中に投げつけた。
本気で気味が悪くなってきた。
そのとき。
コトッと、箱の中で何かが動いて落ちた。
箱の底に落ちたのは、四角い小さな箱だった。
赤黒く染まったその箱は見るからに不気味で気持ち悪かった。
それを見たリスナーのひとりがコメントを残した。
"あ、あれひょっとして、コトリバコ?"
"そそそそ、そんなわけないだろ?!"
"コトリバコなんてあるわけないよな"
俺はオカルト系に割と詳しい方だと自負している。
だから八尺様もコトリバコも知識としては知っている。
だからこそ信じたくなかった。
目の前にあるこの箱がコトリバコだと。
そのときだった。
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
俺の後ろからそんな声が聞こえた。
身の毛もよだつ様な。
"え?!何今の声?!"
"おい!ユラリン!仕込みすんなって?!"
そのとき。
冷静なひとりのリスナーがこう聞いてきた。
"なぁ、ユラリン。お前さっきの話の続きまだしてないよな?怖い話の続き。あれ、どうなったの?"
そのコメントを見て俺はこう話した。
「よく分からない状況で2回にひとり閉じ込められた俺は怖くなった。心細かった」
箱の中にあった"箱"を俺は拾い上げた。
そうしながら続ける。
「深夜になると声が聞こえたんだ『拓也、拓也』って俺の名前を呼ぶ声がさ。俺が閉じ込められていた部屋は和室で障子で仕切られててさ。その障子の奥に影が見えた。爺ちゃんの」
そのときまた声が聞こえる。
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
その声は近付いてきていた。
声の近付き方からして俺のいる建物に入ってきたようだ。
"で、どうしたんだ?"
"おい!ユラリン逃げた方がいいって!"
俺は短くこう答えた。
「俺は障子を開けた。そこには2メートルを超える大女が立ってた。記憶があるのはそこまで」
そうして俺は振り返った。
そこには
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
あの時みた2メートル超えの女が立ってた。
スーーーーーーーーっ。
足音も鳴らさずに俺に近付いてくる。
ゴクリ。
唾を飲み込む。
さっきまではコトリバコなんて信じていなかったけど今は手に持っている箱がコトリバコだって信じてる。
誰かがこう言っていた。
『怪異には怪異をぶつけるんだよぉ!』
近付いてくる八尺様に動きを合わせて俺はコトリバコを握った右手を八尺様にぶつけた。
ガッ!
「当たった?!」
吹っ飛ぶ八尺様。
「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」
機械的に話す八尺様に俺は近付いて更に追撃をかます。
「おらっ!おらっ!」
何度も何度もコトリバコの角で頭を殴ってやる。
すると
「う、動かなくなった……?」
俺は八尺様から離れて、そのとき配信していたのを思い出してスマホに目を戻すと。
"や、やりやがった"
"なんかこの人八尺様に殴り勝ってるんですけどー?!!!"
"パワーイズジャスティス!"
そんなコメントがあった。
それからコトリバコに目を戻す。
よく見ていなかったが、箱をクルクル回してみるとそこにはこうあった。
【ハッカイ】
それで俺は少しだけ思い出していた。
八尺様と出会ったあの日のこと。
そう。
あの日もこんなふうに暑い日の事だった。
暑いというのに、変に寒かったのを覚えている。
「はっかいって、本物ならやべぇぞこれ、」
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