第6話 爺様は、山へ芝刈りへ。

僕には、母親がいない。僕が小さい頃、家を出て行ったらしい。父親は、本当に、仕事一筋の人で、毎日、遅くまで、働いている。僕は、婆様に育てられた。ダウン症と言われる兄もを育てるのは、大変だったに違いないけど、婆様は、変わっていた。婆様の凄い所は、前向きな所だ。どんな事も、暗く考えない。悪く言えば、現実逃避なんだけど。僕は、そう思わない。どんな悲観的な状態でも、愚痴をこぼさない。だから、街で権力者だった、爺様が、壊れても、全然、めげていない。冷静に考えると、兄の事や将来の事を考えると、悲観的になりそうなんだけど、婆様は、爺様の面倒見ながら、友人の老婆達と女子会をして、楽しんでいる。あ!女子会ではない。元女子会だね。その元女子会の時に、僕が居ると、偉い目に合う。飲み物を買って来いとか、言われて、届けると、もみくちゃにされる。怖いもんだ。高齢の女子は。勿論、元少年の爺様も、最初は、飲み物を買って届ける事は、頼まれていたけど、コーラしか知らない爺様は、とっくの昔にお役御免された。僕の仕事になってしまった。爺様は、元女子達に囲まれてニコニコしている。てか、これは、女子に囲まれているから、ニコニコしているのではなく、誰が誰だが、わからないから、とりあえず、笑っていようという爺様の防衛策である。結局、爺様は、誰が来て、誰が、帰ったのかは、わからない。とりあえず、笑う。爺様は、目で見ても、それが何なのか、判断する事がわからない。顔を見分ける事ができないようだ。だから、買い物も、同じ物しか買えないし、イチゴやトマトなどの物は、色でしか判断はできない。勿論、高齢者だから、草むしりが大好きで、庭に雑草が蔓延ると、草むしりをするんだけど、何でも、買ってしまう僕が、小さい時に貰ってきた朝顔やブルーベリーの苗も全部、刈られてしまった。僕は、泣いた。泣いて、講義しても

「どこにあった奴だ?」

「知らない」

と言う。僕は、悔しくて、庭にあったご先祖様が植えた木を切った。

「爺様、僕が誰だか、わかる?」

聞いても、爺様は、ニコニコしているだけだ。他人では、ないのは、わかるけど、僕が孫だって事は、わからなくなってしまった。どんどん、神様に近くなってきている。

「神様でないよ。仏様だよ」

婆様は、言うけど、僕は、神様だと思う。爺様が、居ると、大変だけど、笑いがある。爺様、昔は、とっても怖くて、僕は、よく、怒られたけど、こんなになるなんて、僕は、思えなかったな。

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