敵か味方か 〜enemy or ally〜


「リン探すぞ」

「はい」


 内藤と遥は無事に合流を果たし、リンを探すため走り出した。基地の中心へ近づいているのだろうか。次第に強くなるロイド兵達に二人は苦戦、今までのレーザーでは敵いそうにない。


 内藤は遥をかばいながら、遥は撃ち続け敵を遠ざけて、何とか物陰に隠れてはロイドを交わす。


「早くリンちゃんを探さないと」

「あぁ」


 依然、リンの行方は掴めず気配すらない。


「聞こえる……」

「何が」


 突如走り出す遥、すかさず内藤も追いかける。


「何が聞こえたんだ」

「銃声」

「銃声? 気をつけろ。リンのとは限らない」

「間違いない」


 ロイド兵より少しも低くて重く腹の底に響く音、そのわずかな違いを聞き分けた。走りながら言葉を交わすと、遥はさらにスピードを上げる。



「この音か」


 リンが近くにいる……内藤にもわかったらしい。二人は立ち止まると視線を合わせ、用心深く辺りを探る。


「音が止まない、苦戦してるのかも」


 内藤が左側の壁を拳で軽く叩いた。コツンという軽い音がする。


「この奥だ」


 立ちはだかるコンクリートの壁。

 

「でもどうやって」

「これだ、カウントする。3で飛び出すぞ」


 銃を構えて。


「1.2.3!! 」


 バンッッッ!!


 瓦礫と共に二人、飛び出した。


 出力最大のバズーカレーザーが壁を破壊し、壁の反対側へと出る事に成功した。ロイド軍のレーザーが向かってくる様子は……ない。


「大丈夫か」

「はい」


 より大きくなった銃声、しかしリンの姿はなく、あるのは転がる金属の塊だけ。


「これ……」

「ロイド兵だな」

「すごい数」


 無惨にも砕け散ったロイドが床に転がっている、おびただしい数だ。


「まさか、これ全部リンちゃんが……」


 答えない内藤の表情が険しくなる。遥の言う通り、全てリンがやったのだと、長らく共に闘ってきた内藤にはわかるからだ。


 ダダダダダダダダ、ダダダダダダダダ


 銃声は頭上から、同時に見上げるとそこには。


「リンちゃん!! 」


「おっもしろ~い!! 」


 やっと見つけたリンは山積みにされた箱の上にいた。苦戦どころかマシンガンを連射し、登ろうとするロイド兵を片っ端から撃っている。


 舞うような身のこなし、前後左右どこからの攻撃も優雅に交わす。


「すごい……」

「すごかねぇ、リン降りろ!! 」


 撃たれていくロイド達。


「危ない」


 またしても遥が音に反応した。銃を構え光線を放つ。薄暗い部屋、リンの背後でガシャリと大きな音がする。


 背後からリンを狙っていたロイドを遥が撃ち抜き、内藤がリンの元へ。


「こっこまでおっいでー!! 」

「リン!! 」


 下にいるロイド兵を挑発した瞬間、一瞬の隙が生まれる。攻撃をよけきれず、バランスを崩したリンは頭から真っ逆さまに落下。


「リン!! 」

「リンちゃん!! 」


 駆け寄るも一歩遅く、リンは足元の箱に埋もれ見えなくなった。







「陛下、作戦成功です」


 基地の中枢に報告が入ったのは、それからしばらく経った後の事だった。


「おめでとうございます」

「気を抜くな。現在地は」

「南に逃走中。追いますか」

「放っておけ。それより現場に行く、被害の確認が先だ」

「了解しました」


 白い軍服、顔を隠すようサファイアのマスクを被り、兵を携え出ていく姿には、いくつもの監視の目が光っている。


 敵か味方か、それは誰にもわからない。


 ある者は天井から、ある者はロイドに扮して……サファイアに成り代わった海斗を狙っているようだ。


「ワープコード:9999、座標+xプラスエックス35、転移せよ」


 先導するロイドの声で空間が歪み、サファイアと大勢の兵士達が一斉に姿を消した。


 移動は一瞬のこと。


 すぐ現場につくとそこには、無惨に壊されたロイド兵がいた。金属の焼け焦げた異様な匂い、ばらばらにされた手足、片目が飛び出た顔。


「感知しました。故障83体、うち修復可能0体です」


 機械的な声に、海斗の反応はない。


「急ぎ回収し、再構成を開始します」

「回収作業に増員を要請、繰り返す。これより回収作業を開始する為増員を要請……」


 優秀な頭脳を持つ数体が、最も効率的な方法を計算し場を取り仕切る。


 たたずみ、どこか見つめたままの海斗。


 拳は強く握りしめられている。







「ダーリン痛いってば。もうちょっとゆっくり歩いてよぉ」

「うるせぇ、少しは我慢しろ」


 三人は基地から脱出、足を怪我して歩けなくなったリンを内藤が抱え、海岸線を目指している。


 夢見心地なリンと不機嫌な内藤、少し離れて歩く遥。


「疲れたか」


 何度かスピードを緩め、話し掛けるもたいした返事は返ってこない。


「遥」


 何度目かの呼び掛けで気づいた遥。


「休める所、探してきますね」


 我に返ったように言うと進む先へと走っていく。悲しそうにその背を見送る内藤、あの夜から避けられている……もどかしく切ない想いはリンにも伝わるほど、ありありと顔に表れている。


 ただ、無言で歩く。


「あれ? 遥さんは? 」


 前方にいたはずの背中がない。


「急ぐぞ」


 探しながら足早に進むと、遠くに黒い人影……遥も一緒だ。


「あれは……」

「爺!! 」


 リンの呼びかけに相手も手を振り応える。


「お嬢様、ご無事でしたか」


 オーロラの犠牲になったと思われていた爺は、助かっていた。


「どこかから情報が漏れ、多くの人々が難を逃れられたようです。私も逃げる途中、出会った山あいの集落の方々に助けられました」


 感動の再会、しかし遥の表情に変化はない。安堵の雰囲気に包まれる三人に、執事はある提案をする。


「山あいの集落に案内しましょう。話は通してありますから歓迎してくれるはずです。食料なども独自の方法で調達しておりますのでご安心を」

「そうだな、山あいならロイドの襲撃も避けられる」


 内藤の言葉にリンと遥も頷き、一行は山あいの集落を目指す事になった。







「よかったな、いい人達で」


 戻ってきた内藤は一点を見つめ、ぼんやり座る遥に声を掛ける。


 集落の人々は三人を歓迎し、食料に着替えに貴重な水を使い風呂まで貸してくれた。我らの代わりに戦ってくれる救世主だと、崇めてくれた。


 人前では明るく振る舞う遥が一人になると、まるで抜け殻のよう。それが内藤にはとてもつらく、苦しかった。


 何も言わず、そっと抱き寄せる。


 その手を遥はそれとなく避けた。


「リンちゃんがいる」

「治療受けて休んでる。あいつには爺もいるし」

「側にいてあげて……お似合いだと思う。リンちゃん明るくてかわいいし」

「本気で、そんなこと思ってんのか」


 あまりに切ない声と、強い眼差し。


 ここまでしても想いに気づかない遥に内藤のは傷ついていた。


「俺が一生側にいてやる、あいつの代わりに……覚えてないんだろ、どうせ」


 記憶を遡り、はっとする。


「本気だった」


 初めて知る想い、慰めでなく心からのプロポーズだったと。でもどうして……戸惑う遥の頬に、内藤はそっと唇を寄せる。


「あの頃から……今でもずっと、俺が想ってるのはお前だけだ、遥」


 見つめ合う二人、重なり合うその視線にどれだけの意味がこめられているだろう。


 瞳が近づき唇が重なる。


 不安げな、気持ちを問うキス。でも二度目は……全て忘れさせるように何度も何度も、次第に深くなっていく。溢れ出る想いは抑えきれず遥を押し倒し、柔らかい寝床に二人埋もれていく。


 月のない夜、獲物に喰らいつく獣。


 遥はその孤独な背中に腕を回し、髪を撫で……そして、優しく抱きしめる。


 頬には一筋、涙が流れていた。




「首都総攻撃、準備完了致しました」

「こちら関西以南も準備できております」


「御苦労。日の出と同時に作戦を開始せよ」

「はっ!! 」


 あの豪奢な部屋でモニターを眺める海斗。その瞳にもう昔の輝きはない。


「全員に告ぐ。これまでの屈辱を忘れるな、我が為に闘え」

「うおーーー!! 」


 ロイド達の叫びが地に低く轟く。


 今宵、海斗は魔物へと変貌する。

 

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